April.17_17:45


「ー…斎藤さん、幕府の戌が新垣邸に攻め入ってきました!」
「フフ…計画通りだな。情報を流せばここを嗅ぎつけてくると思ったわ」
「むしろ遅いぐらいでしたな」
「……」


新垣邸の"隣"にある建物の一室にて。聞こえてきた話し声に確信を抱きつつ、私は襖をパーンと開け放った。…良かった。正解だったみたい。部屋の中には会談をしていたと思われる浪士が十数人ほどいた


「!なっ…」
「やっぱり新垣邸にいた浪人達はただの噛ませ犬でしたか。ここで高見の見物とは余裕ですねー」
「!!?き、貴様真選組!」
「な、何故ここに…」
「ふふっ、あいにく私鼻が利くんです。えっと…御用改めであるー、でしたっけ?」


にっこりとそう微笑めば、当然のごとくその場にいた浪士達全員に刀を突き付けられた。ここまで侵入されると思わなかったのか、心底驚いた風な彼ら。…生憎、事前に新垣邸周辺の建物は調べておいたんだよね個人的に。しかし、この部屋の収容人数してはいやに人数が多いなあ。ここ、狭くないですか?ため息を一つ、私は彼らに構わず言葉を続けた


「…で?一体誰の命令なんですか?」
「!…何のことだ」
「とぼけないで下さいよ。真選組に対抗出来るだけの武器を揃えられたのも、大方幕府の誰かと手を組んでいたからなんでしょう?」
「!き、貴様っ…」
「そうじゃなきゃ真選組を相手取ろうなんて馬鹿な考え、浮かばないですもんね?」


普通なら、真選組を前に逃げるという選択肢を選ぶはず。…まあそのお偉いさんからしちゃ、浪士と手を組んで仕事をしてるのにそれを邪魔をする真選組も、バレた時に自らの立場を不利にする斎藤一派も、どうせならここで相討ちしてもらいたいくらいなんだろうけど。…この攘夷派組織はある意味、真選組は関わるべきじゃなかった。私達、裏方が始末するべきだった


「クソッ…知られているからには仕方ない…女!生きて帰れると思うなよ!!」
「相手は女一人だ!てめーら、殺っちまえ!!」
「……」


一斉に刀を手に斬り掛かってきた浪人達。…普段の仕事柄、私は正面からの斬り合いには向いてないんだよね。よし、こっちの刀にしよう…。私は腰に提げている2本の刀のうち、刀身が短い方の刀を鞘から抜いた。真横から斬りかかってきた2人の浪士の刃を躱し、体勢をグッと下げる。そして低い姿勢のまま、目の前の浪士1人の足に一太刀いれた。ザシュッ。鮮血が舞う。そのまま私は一旦後方へと下がり、廊下に出て再度刀を構えた


「…っ、ぐ!」
「倉橋!」
「…ほう、女にしては腕が立つようだな」
「お褒めに預かりまして」
「だが、こんな浅い一太刀を入れても人は殺せぬぞ?それとも侍の真似事がしたかっただけか?」
「……確かに真似事、かもしれませんね」
「?なに…?」
「!っ…ぐあああああ!!」
「?!オイ…倉橋の様子がおかしいぞ…?」
「な、何だこれ……っ」
「傷口から何かが染み出して…」


驚愕した表情で身体を震わせる浪士達に、私はくすりと笑みを浮かべる。…仕方ない。これが一番効果的なんだから、大人数相手なら。そう言った私に、浪士供が不可解そうな目を向ける


「き、貴様何をした…!?」
「…刀身を見て気付きませんでした?色が少し違うでしょう?」
「なっ…」
「最近は異星のモノも簡単に入手出来るものですね。便利な時代です、天人が支配する世の中は。こんな人を即死出来る毒、よく開発出来たもんですよ」
「!毒、だと…?!」
「刃にある特殊な毒を塗りました。かすり傷1つ付こうもろなら、身体が動かなくなって、ものの10分で毒が回り死に至ります。…だから私は一太刀浴びせればいいだけ。リスクも少ない」
「き、貴様…それでも侍か!!」
「幕府の戌もそこまで腐っていたとはな!!」
「……」


…そんなの、あなた達だって威張れた立場じゃないでしょうに。刀を一度握れば、そんなのは関係ない。生き残ったほうが勝ち。ただ、それだけのはず…。私は刀の切っ先を彼らに向けた


「あいにく私は正々堂々だなんて武士道、持ち合わせちゃいないもので。…真選組(あのひとたち)とは違うんですよ。立場も信条も」


正直今は真選組の…近藤さんの命令なんか関係ない。私は何かを護るために刀を振るってきたわけじゃないから。…私は今のコイツら達と同じ。ただの"駒"にしかなりえない存在なのだから…


「ー…行きますよ、」






****






「ひっ、助け…」
ザシュ、
「…はーい、終了っと」


私は血濡れた刀を鞘に納め、その場に崩れ落ちるように座り込んだ


「(…何だか、疲れちゃったなあ)」


周りに転がってる血塗れの浪人達の死体を隅に寄せ、足をグッと伸ばす。…刀を重く感じるなんて、初めてで。自分でもついていけなかった。まるでいつのように闘えなくて。…どうして今更人を斬ることを躊躇する必要があるのだろう。そんなこと、アイツに命じられるまま腐るほどやってきたはずなのに…。そうやっていくつもの疑問を自問自答している時、不意に部屋の外から人の気配を感じた


「(…!残党か、それとも浪士が呼んだ増援…?!)」


壁に凭れたまま、刀の柄に手をかける。…どうする?今のこんな調子のままで殺れる…?幹部の浪士はあらかた倒したし、ここは逃げたほうがい…


「ー…茜!いるか!」
「!お、沖田隊長!?」
「…ああ、ここにいたのかィ。なんだ無事か」


「あんたも大概しぶとい奴だねィ。単独行動だなんて無理しておいて」とため息をつき、沖田隊長は部屋へと入ってきた。ど、どうしてここに沖田隊長が…。何で私が此処にいるって分かって…。そう思うと同時に、私の頭の中にはある言葉が過った


『―…その違いを知ってるからこそ、もっと人様の命の重さってのを理解出来るし背負えるって。そうは思わねーかィ?』


「(―…あぁ、そうか)」


こんなに人を斬ることに"違和感"を感じたのは、この4日間で私が慣れないことしたからかもしれない。…初めてもらった温もりに、心地好さを見いだしてしまったからだ。人の温もりそのものを奪ってしまいたくなかったからだ


『…だけどここで動かねーと、自分が自分じゃなくなるんでィ』


ー…あの日この人が目の前に現れた時から、私の世界は変わった。この人が護る大義や理想や、その強さに…以前の私なら綺麗事だって言い放てるようなものに興味を抱いてしまったのだから


「…茜、お前…」
「?…」


沖田隊長は膝を曲げ、座り込む私の目線に合わせる。…綺麗な目。それに真剣な表情。私の頬についた返り血を拭い、沖田隊長は私の名前をもう一度呼ぶ。…ああ、何だか頭が痛い。くらくらする。視界もぼんやりしてきた


「…なん、ですか?沖田隊長…」
「……茜お前、本当は人を斬りたくなんかねーんだろ」
「!っ…」


その沖田隊長の一言を最後に、私の意識はだんだんと遠退いていった。…拒否したい、その言葉を。だってそうでなければ、私は何で刀を握っているのか。拒否したいのに、その意味を為す言葉は喉につかえて出てこなかった


−−−−−−
あなたに惹かれてしまったから





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