ちょっとだけ強くなれました



◎夢主さんと祐希くんが付き合ったら設定


「いやー噂話って広まるの早いねえ」
「ね…」
「みほか浅羽(弟)か、それとも橘がばらしたの?」
「…聞いてみたんだけど、浅羽くんも橘くんも違うって言ってた」

そう、私と浅羽くんが付き合っているという話は自然にみんなに伝わってしまったらしい。…何でだろう、まだ2回くらいしか一緒に帰ったことないんだけど…おかしいなあ。浅羽くんに「何かもうクラスの子は知ってるみたいだよ」と伝えれば、「えっ…オレ面倒くさかったから要や千鶴や春にすら話してないんだけど。何が起きたの」と珍しく驚いていた

「(…それも直線的じゃないから、浅羽くんは気付かなかったんじゃないかなあ…)」

こういう時、場合によってはクラスの誰かからからかわれるようなこともあったかもしれない。けど、「ひゅーひゅー!お熱いねえ!」みたいな?そんな漫画みたいなこともなかった。…まあクラスの男子にからわれたりしたら、私なら普通に泣いちゃうし、浅羽くんならノーリアクションで終わるだろうし。皆からしたら、からかい甲斐がないということなんだろう。…ただ、それでもやっぱり私が浅羽くんと話してると、周りの女の子達は何かひそひそと話してるみたいで…。何の話をしてるのか分からないだけ、少し怖い

「最近クラスの雰囲気変だしさ、一部の女子のせいで。べっつにみほが誰と付き合おうと関係ないのにね?あー本当意味分からん!」
「えっと…それは私じゃなくて、浅羽くんが誰と付き合ってるかが問題なんじゃ…」
「?そーなの?てか、それなら尚更じゃん!浅羽のこと好きなら普通に見守ってやればいいのに!」
「…カ、カヨちゃん…」
「あ、それよりみほさー。アレだよ?もし誰か女子に屋上とか校舎裏に呼び出されても応じちゃダメだよ?罠だから」
「へっ…?」
「…へえ、女子って今どきそんな古風なことしたりするんですね」
「!あ、浅羽くん…」
「あらら、噂をすれば。浅羽(弟)じゃん」

カヨちゃんと教室の窓から外を眺めながらそんな話をしていれば、急に聞き慣れた声。視線を教室に戻すと、すぐ後ろに浅羽くんがいた。そして彼の手には紙袋が提げられていて。「これ、昨日貸すって言ってた漫画。はい」なんて言って、それを私に手渡してくれた。…浅羽くん、覚えててくれたんだ。嬉しいなあ。ありがとうとお礼を言おうとした瞬間、「へえ〜ゆっきーが自分の漫画他人に貸すとこ、オレ初めて見た!」なんて橘くんの大きな声が耳に届いた

「ボ、ボクもです。初めて見ました…」
「うん、だろうね。オレもだよ」
「えっ…ゆうたんもなのか!?」
「…祐希お前、どういう風の吹き回しなんだよ」
「どういうって…だって澤原さん几帳面だし、オレの漫画折ったり汚したりしそうにないしさ」
「おやおや〜?もっと他にも理由あるんじゃないですか〜?」
「……何千鶴そのにやけ顔」

少しイラッとしたような声色でそう言い、浅羽くんは橘くん達のところへと戻っていく。この休み時間は、いつも通り幼なじみ五人でうちの教室に集まっていたみたい。本当仲良いなあ…なんて思いながら、浅羽くんに借りた漫画の入った紙袋を机の脇にかけていると、カヨちゃんに「…そのまま加わればいいのに」とため息をつかれた

「…みほってさ、いつも浅羽達のとこ行かないよね。せっかく彼氏共々、うちのクラスでたむろってくれてるのにさ」
「…ダメ、かな?」
「ダメダメ。浅羽(弟)なんて休み時間の度に塚原達とたむろしてるし、一緒に話しちゃいなよ。そうしなきゃみほ、学校であんま浅羽(弟)と話せないじゃん?」
「!そ、それは…」

確かに…そう、かも。というか、それ以前から浅羽くん達がうちのクラスで集まって話していると、何となく気まずかった。浅羽くんと付き合ってるのに、微妙な距離感があって。よく分からなかったんだ

「あの…カヨちゃんも一緒に来てくれない…?」
「それはダメ」
「な、何で?」
「私があんま塚原とノリ合わないし苦手だから」
「えええ」
「だから、私じゃみほの助けにならない。みほ1人で行っておいで」
「……男の子ばっかのグループに女の子1人が加わるの、変じゃない?」
「変じゃない変じゃない。てか、みほは浅羽(弟)の彼女じゃん。何もおかしくないよ」
「……」

まあアイツらも、いつも男ばっかでたむろしてるのが悪いよね。たまに佐藤茉咲とかいう子いるけど」と舌打ちをし、カヨちゃんは近くにあった塚原くんの机にバシン!と日誌を叩きつけた。「塚原あー!今日の週番の仕事、全部あんたに任せたから!」「はあ?何でオレが…」「もっと女子の気持ちを考えられる男になれバカ!」「んなっ…何だそれ!意味分かんねーこと言ってんじゃねーよ!」なんて言い合いまでしてる。…カヨちゃん、スゴいよある意味

「………」

やっぱり、私浅羽くんともっと話したい。それにバレンタインの件以来せっかく仲良くなれたんだし、浅羽悠太くんや橘くん達とも話してみたい…!私は勇気を出して、一歩一歩浅羽くん達に近付いてみた。…な、何て言ってあの輪に入ろう。「何してんの〜?」みたいな軽い感じかな?やっぱり

「…ん?あ、みほっちもこっち来るか?」
「!」

不意に橘くんが私を笑顔で手招いてくれた。た、橘くん…!助かったです本当ありがとう…!が、それに肯定の返事をしようとした瞬間、通りすがりに女の子達の会話が耳をついた

「…ね、みほちゃん橘に呼ばれて行ったよ?」
「てかさー、みほちゃんと橘って仲良いよね」
「実は私最初澤原さんは橘のこと好きなんだと思ってた!」
「私もそれ思ってたあ。何で浅羽くん?みたいな」
「!っ…」

向けられた敵意。私が他の男の子と接するだけで、最近はいつもこんな感じ。…確かに私が男の子と話すの、珍しいことだけど。すぐに敏感になるクラスの女の子達が最近はすごく嫌だった。…どうしよう。カヨちゃんのとこに戻ったほうがいいの、かな…。思わずくるりと足の向きを変えようとした途端、何故か私はパシッと腕を掴まれた。しかも両手をー…浅羽祐希くんと悠太くんに

「!えっ…」
「……何で悠太まで澤原さんの腕を掴んでるの」
「いや、生憎普段からこういうのにはよく気が回る質で」
「…流石はオレのお兄ちゃん」

「…でも、今回はオレも気が回る人になれたから大丈夫だよ」と祐希くんが薄く微笑むと、悠太くんは私の手をパッと離した。…気が回るって、もしかして二人とも今の陰口に気付いて…

「…澤原さんさ、」
「!う、うん…」
「オレは女子同士のそういうアレとかよく分からないんだけど…とりあえず、あんま周りに遠慮しなくていいよ。特にオレには」
「浅羽、くん…」
「話したいなら話しかけに来てくれていいし、オレに何かしてほしいならオレに言ってよ」
「…で、でも…」
「…もしオレ絡みのことで何か女子同士問題が起きても、オレ澤原さんの立場が悪くならない程度に深入りして解決出来るようにするから」

「まー…女子って拳じゃなくて言葉とか噂とか使って闘うし、少しオレの苦手分野ですけど」とぼそっと呟き、浅羽くんは私の手をぎゅうっと握りしめた。掌から浅羽くんの温かい体温がじわじわと伝わってくる。…嬉しい、なあ。すごく

「指相撲とかですむなら良かったのにねー…そういうのばかりはオレも悠太も苦手だよね」
「それは仕方なくない?男子にはそんな裏事情分からないしさ」
「?あの…澤原さんは今、何か噂とか流されたりしてるってこと…ですか?」
「オ、オレも今の流れ全く分からなかった!」
「…うーん、春と千鶴はやっぱり戦力にはなれそうにないか」
「要は強そうだよね。普段からねちねちしてるから」
「誰がだ!」
「っ…あ、あの!」

急に会話に割り込んだ私に、五人の目が一斉にこちらに向く。う…な、なんか緊張する…!でも、浅羽くんが私の助けになってくれてるって言ってるんだ。私も気持ちを真っ直ぐ返さないと…。私は浅羽くんの手を握り返し、「わ、私はその…逆で」と言葉を紡いだ

「逆?」
「こういう女の子同士のことで…浅羽くんに迷惑がかかっちゃうんじゃないか、って。そう思って…」

そう思って…学校ではなるべく距離をあけてた。なるべく二人きりにならないようにしてた。なるべく皆の前で浅羽くんと話さないようにしてた。なるべく浅羽くんの話題を自分から友達に出さないようにしてた。…傷付くのも傷付かせるのも怖くて。勝手なことばかりしてた。ごめんなさい…と謝り頭を下げた私に、浅羽くんの大きな手がのる

「澤原さん絡みのことで迷惑なんて思ったこと、オレないよ。…だからもういっそのことさ、学校でも周りに見せつけちゃうぐらいの気持ちでいいんじゃない?」

そう言って浅羽くんは私の頭をぽんぽんと軽く撫でた。が、すぐに隣にいた橘くんと「そんなん認めないぞ!見せつけられる方の気持ちにもなれ!」「千鶴くんにもオレ達の幸せをお裾分けします」「っ…その言い方ムカつく!」なんて言い合いが始まる。…もう我慢しなくていいんだ。私から浅羽くんに歩み寄っていいんだ…。いまだに繋がる私と浅羽くんの手に、私はまた一つ勇気をもらった


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付き合いたてのころの話。




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