ちょっとだけ大人になれました



◎連載ヒロインと祐希くんが付き合ったら設定


学校からの帰り道。夕陽に照らされた歩道を歩く。ふと横を見れば、眠そうに欠伸を噛み殺す様子の浅羽くん。私と浅羽くんは半歩ぐらいのスペースを空けて、二人並んで帰っている

「…浅羽くん、眠いの?」
「ん?んーまあ、冬だからね。もしかしたらオレ、このまま冬眠しちゃうかも」
「そんな…って、は…はくしゅっ…」
「あ…もしかして寒い?オレのマフラー、レンタルします?」
「!う、ううん。大丈夫だよ」
「そっか」
「う、うん」
「……」
「……」

…はっ!もしかしてマフラー借りておけば良かったのかな…!というか、浅羽くんの優しさをこうも断るとか私何なのバカなの…!浅羽くん怒らせちゃったかなあ…なんて。こんな風に、私は浅羽くんと付き合い始めた今もあまり上手く立ち回れてない。というか、帰り道は会話自体が少ない。…まあ私は比較的大人しいタイプの人間だし、浅羽くんも浅羽くんであまり自分のことを語りがたる人ではないし…

「(…クラス同じでも、なかなか話題がないんだよね…)」

最初はこの沈黙が気まずいなあって、思ったりもした。けど、付き合ってからはずっとこんな感じで。浅羽くんも特に気にしてないみたいだし…むしろ最近ではこういう形があっても別にいいんじゃないか、なんて開き直ってしまっている自分がいる。それほどまでに二人きりは難しい。すごく緊張してしまう。浅羽くんの前だと、いつも上手く立ち回れないんだ。恥ずかしくて

「…あのさ、」
「?」
「オレ、実は澤原さんにずっと聞きたいことがあったんだけど」
「!えっ…」

ぴたりと足を止めて、そう一言。浅羽くんが私のほうを振り返り、じっと見つめる。距離が少しだけ、さっきより縮んだような気がした。…浅羽くんは時々、何を考えてるのか分からないような不思議な目をする。だから私もその目で見つめられると、とても緊張してしまうんだ。私は「き、気になるから教えて…?」と浅羽くんに話を促した

「えっと、澤原さんってさ」
「う、うん…」
「それ……すっぴん?」
「…!?」

浅羽くんの口から出た言葉に目を白黒させてしまう。す、すっぴんって…!その通りだけども…!沈黙が数秒間続く。…や、やっぱアレなのかな!女子力低いやつだなとか思われたかなそうだよね?「?澤原さん?」との呼び声に対して、私はバッと浅羽くんに頭を下げた

「あ、あああの!ごっ…ごめんなさい!」
「え?」
「わ、私メイクとか特にしてなくて…乳液とか化粧水とかしか塗ってなくて!その…見苦しい姿を浅羽くんに見せてて、とにかくごめんなさいっ!!」

確かに周りの女の子でそこまでメイクをばっちりしてきてる人は、校則的にもあんまりいないけど…。一部の子達は教育指導の先生に注意されつつも、派手めなメイクとかしてるし…。私ももう少し美容とかそういうのに気を付ければ良かった…!もう一度浅羽くんに謝りの言葉を伝えると、逆に「えーっと、そういう意味じゃなくて…」なんて淡々と返された。?どういうこと…?

「いや実はさ、オレ苦手なんだよね。香水とかメイク用品とかの香り」
「に、苦手…?」
「なんか気持ち悪くなるというか、吐きそうになるというか」

「だから澤原さんがそういうの付けだしたらどうしようかと思って」と言葉を続けた浅羽くんに私は「そ、そっか…」と曖昧な笑みを浮かべた。…良かった、と言ってもここは良いところなのだろうか。単に化粧をしてないのは私の女子力があまりなかったというだけで、むしろ反省すべきだというか…

「というか、すっぴんなんですね」
「え?あ、うん…」
「白くて綺麗な肌してるから何か塗ったっくてるのかと思ってた」
「!っ…」

き、綺麗なんて…そんなの今まで言われたことない…。思わず顔を真っ赤にさせ俯いた私に、浅羽くんが「…そんなに下見て、地面に何かありました?」なんて言葉を紡ぐ。…分かってるくせに。浅羽くんの意地悪。むっと頬を膨らませば、その私の頬を浅羽くんが軽くむにゅっとつねった

「あ、饅頭みたい。柔らかくて、もちもちしてる」
「…それ、女の子に対してちょっと酷い」
「?でも素直な感想だし」

「やっぱり澤原さんは化粧なんて必要ないですよ、うん」なんて話を纏めたのは、単に浅羽くんがそれを嫌いだからなんだろうけど。…まあ、化粧についてはまだあまり考えなくてもいい…かな。校則的にも違反なわけだし、先生に怒られるのとか普通に怖いし…。そんな風に黙って考え込む私を見て何か怒っているのかと思ったのか、浅羽くんは「えーと…」と言葉を濁した。そして彼の長い指が私の唇をスッとなぞる

「…そりゃあまあ、こっちのほうがずっと柔らかいんだろうけどね」
「!あ、浅羽くん…」

「今度、キスしよっか」なんて何てない風に言葉を続けた浅羽くんに、私はかああっと赤面するしかなかった。っ…キ、キスってそんな…。あの浅羽くんからそんな風に言ってもらえたことが驚きで…そして、嬉しい。その行為自体がしたかったとかじゃなくて、浅羽くんが私に言ってくれたことが嬉しい。嬉しくて仕方ない。…でも、

「…っ、あ、あの!」
「ん?」
「べ、別に良い…よ?」
「…え?」
「その…こ、今度じゃなくても、別にいいよ…!」

…うわあ私何言ってるんだろ、すごく恥ずかしい…!や、でも浅羽くんが最初に言ってくれたんだし、もし浅羽くんがしたいなら今でも…

「いいの?」
「!えっ…」
「えっ…って、澤原さんがいいって先に言ったんじゃないですか」
「あ、それはその…浅羽くんがいいなら、私はそれで…」
「…まあ付き合ってから何日でキスするもんだって決まりもないしね」

じゃあ…と私の肩を軽く掴んで、浅羽くんの顔がスッと近付く。…縮まる距離に、心臓が壊れてしまいそう。身体中の体温がグッと一気に上がっていく気がする。緊張して何が何か分からないまま、私の唇に柔らかな浅羽くんのそれがチュッというリップ音と共に重なった

「…どうでした?」
「…えっ?」
「オレとの初キスのご感想は」
「え、えっとその……よく分からなかった、です…」
「え〜…それはちょっと酷くない?」
「…でも、これが素直な感想です、よ…?」
「ぷっ…それ、さっきの仕返しのつもり?なら仕方ないね。…あー、それにしても緊張した」
「へ?」
「だって澤原さん、目開けたままなんだもん」
「!あっ…ご、ごめんなさい!私、とにかく緊張してて…!」

「まさかずっとキスするまで見られてるなんてさーもう本当ビックリだよね」「ううっ…ごめんなさい」なんて会話を交わしながらも、何となしにお互い微笑みあう。…今日私たちはまた少し、成長出来たのかな。カップルらしいカップルになれたのかな。以前よりは少しだけ縮まった距離に心が何だか温かくなった。これからも、私は浅羽くんと一緒に大人になっていきたいの。二人一緒に。ー…これはそんな風に私が新しい気持ちを抱いた、ある日の帰り道の日のこと



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この連載のお嬢さんと祐希くんにいたっては私の中で妄想とまらんです




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