日常が変わりました



小さな勇気を持って、いざ浅羽悠太くんのいる教室に。教室の前のドアからひょっこりと顔を覗かせ、キョロキョロと教室内を見回す。?あれ…塚原くんも橘くんも浅羽くん兄弟も松岡くんも誰もいない…?ど、どうしよう…もしかして五人で屋上とかにいるのかな?よく屋上利用してるよね…

「…このクラスに知り合いってあんまりいないんだよね。どうしよ…」
「あれ?澤原さん、どうしたんですか?」
「!ひゃっ…!?」

今探していた人物に後ろから突然声を掛けられたために、変な悲鳴をあげてしまった…。それに「あ、ご、ごめんなさい…ボク何かしましたか…?」なんて少しショックを受けたような松岡くん。あ、こっちこそそんなつもりは…!松岡くんの隣にいた浅羽悠太くんにも「ちょっと、春をいじめないであげてよね」と冗談っぽく注意されてしまった。…浅羽くんにこんな風に気さく?に話しかけられたのは初めてだなあ、なんて。変なところに感動を覚えながら、私は松岡くんに頭を下げた

「ご、ごめんなさい…!ちょっと驚いちゃっただけで…」
「あ、ボクこそすみません。気にしないでください。…それで、澤原さんは何かうちのクラスに用があったんですか?」
「えっと…私、ちょっと浅羽くんに用があって…」
「浅羽くん?」

「オレも浅羽だけど、それどっちの浅羽に用なのー…って、祐希のほうに決まってるか…」なんて私が答える前に一人納得して頷くあたり、彼は弟の浅羽くんと少し違う。浅羽祐希くんならきっと、「どっちに用なの?」なんて聞いてきてしまう気がするんだ

「そ、そうなの。浅羽祐希くんに…用なんです」
「あ、やっぱりそうですか」
「それで澤原さんはうちのクラスに探しに?」
「うん、浅羽くんが教室にいなかったからこっちのクラスに来てるかなって思って…」
「あー…さっきまではいたんだけどね」
「…?」
「祐希と千鶴はただ今かんかんに怒った要から逃走中」
「え…」

と、逃走中って…橘くんも浅羽くんも一体何したの…!「だから見つけるのに苦労するかもね…どっちも本気だから」と言って、浅羽くんは頬をポリポリと掻いた。…どっちも、というのは追いかける側の塚原くんも逃げる側の橘くんと浅羽くんも、ということだろうか。それは確かに見つけるの大変かも…。「どうしましょうか…」なんてまるで自分のことのように困惑する松岡くんに、私は慌てて「あ…だ、大丈夫だよ」と言葉を紡いだ

「浅羽くんと私同じクラスだし…その、また後で声掛けてみるから」
「…そうですか?」
「う、うん。だから大丈夫で…」
「今探しに行ったほうがいいんじゃない?」
「!えっ…」
「悠太くん…?」

「…と、オレはそう思うんですけど」と気まずそうに言葉を付け足した浅羽くんに、私は少なからず驚いた。…私は今まで浅羽悠太くんとは同じクラスになったこともなかったから、こうして話すことも今までなかったのに。浅羽くんは一体何で…

「この昼休み終わったら、4限5限の授業受けてそれで放課後になって…ますますタイミングつかみにくくなるんじゃない?」
「!そ、それは…」

浅羽くんはもしかして…私が浅羽祐希くんに何の用があるのか分かっているのかもしれない。私が浅羽祐希くんのことをどう思っているのか、ずっと知っていたのかもしれない。もしかしたら…だけど

「オレはたぶん祐希、校舎裏辺りに逃げたと思うな。まあただの勘…ですけど」
「!う、ううんありがとう!私やっぱり探してみる…!」

先伸ばしにしたって仕方ない。私は浅羽くんに今、このチョコを渡したいから。受け取ってほしいから。浅羽悠太くんと松岡くんに「〜っ本当にありがとう!二人のおかげです…!」と私はガバッと頭をさげた。それに対してよく分からないとでも言うように不思議そうな表情をする松岡くんに、私は「気にしないで。私がお礼を言いたかっただけなの」と微笑んだ

「(…頑張らなきゃ、)」

自分がこれからすることを思うと顔が自然と熱くなる。…自分から行動に踏み出すことは、やっぱり恥ずかしい。恥ずかしくてたまらない。だけど好きって伝えたいから。私は動かなきゃいけない、浅羽くんのために。…浅羽くんが私の気持ちを受け入れてくれるかまでは分からない、けど。顔を真っ赤にさせ、チョコの箱を両手でぎゅっと握りしめた私に浅羽くんが「…緊張し過ぎ、だと思う」なんて言葉を紡いだ

「そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
「…浅羽、くん?」
「ちゃんと正面から向き合えば、祐希だって本気で受け止めてくれると思うよ。真面目に答えてくれだってするだろうし」

「そういうとこまでいい加減なことはしないよ、祐希は」と浅羽くんが小さく微笑む。…流石は兄弟だって、言うところなのかな。浅羽くんが本当に弟思いだってことがよく分かる。それに私も…お兄さんである浅羽悠太くんにそう言ってもらえると、何だか勇気がわく。私の周りの人達はみんな優しい人達ばかりだ。おかげで私は今、こうして頑張れているのだから。「お兄ちゃんである身からすると何か寂しい気もするんだけどね」「あ…あの、私はあくまでチョコを渡してくるだけだから…」なんて会話を浅羽くんと出来ること自体、今までとは違う新たな日常の始まりなのだ


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勇気がすべてを変えてくれるって。




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