悩みはさっぱり消えました
「(…チョコ、どうしよう…)」
あれからチョコを渡すチャンスというものは全く訪れない。浅羽くんと同じクラスだからこそ、渡しにくいのだ。あんまり同じクラスの女子の前で渡したりはしたくないし…だからといって「二人で話そう」なんて呼び出せるわけもない。そんな勇気も度胸も、私にはないのだ。帰りは帰りで浅羽くん、塚原くん達とまとまって帰るだろうし…
「(…それに橘くんも何か元気ないしね…)」
さっきの休み時間が終わってから、橘くんはずっと難しそうな顔をしてる。…きっと佐藤さん絡みで何かあったんだろうな、なんて。これは女の勘だけど。橘くんは今、自分の問題でいっぱいいっぱいなのだ。相談するわけにもいかないし…あまつさえ「浅羽くんに渡して下さい」だなんて頼むわけにもいかない。私は机に突っ伏す橘くんをちらっと見て、ため息をついた
「?みほどうしたの?元気ないじゃん」
「あ、カヨちゃん…」
カヨちゃんは私の机に肘をつき、ズイッと身を乗り出した。そして「あー…もしかしてまだチョコ渡してない?浅羽(弟)に」なんて首を傾げる
「う、うん。その…まだ」
「へえ〜…そっかあ。ふーん」
「?カヨちゃん?」
「いや、うちのクラスの女子も結構な数が浅羽(弟)にチョコ渡したらしいって聞いたからさ」
「!」
「みほも流れで皆と一緒に渡したのかと思って。何か一部じゃ朝早く来て、まとめてチョコを浅羽(弟)の机ん中突っ込んどいたらしいよ」なんて、自分じゃ理解出来ないというようにカヨちゃんは眉をひそめた。…そっか、みんなで協力してって手もあるんだ。想像もつかなかった、そんなの…。何か女の子同士で色々この日…2月14日のために準備してきたのかもしれない
「でもさ、どれも直接じゃないみたいなんだよね」
「!えっ…?」
「名前も無記入で、浅羽(弟)の下駄箱とか机とかに突っ込んで、間接的に渡したってのがほとんど」
「…間接、的に…」
驚いたように目を見開いた私に、カヨちゃんが「どう思う?」とでも尋ねるかのようにニコッと笑った。…それは今朝まで私がしようとしたことと、ほとんど同じだけど。考えてみれば、浅羽くんはそれに対してどう感じるんだろう…?
「……それじゃきっと、伝わらない…よね」
「…みほはそう思うの?」
「……うん。本当に好きだって気持ちは、浅羽くんに伝わらないと思う」
ちゃんと自分から伝えようとしなきゃ、何もならないと思うんだ。少女漫画みたいに、向こうから何か事態が進むようなことなんて…ないと思うから。…伝えたい。私はこの気持ちを直接届けたい。あなたのことが好きなんだよって。特別なんだよって。チョコをちゃんと渡したいの、このバレンタインの日に
「…あ、浅羽くん今どこにいるかな?」
「さあ?浅羽(兄)と一緒なんじゃない?」
「そ、そっか!わ、私行ってくるね…!」
ガタッと席を立った私にカヨちゃんが「頑張りなよ」と背中を押してくれる。…昼休みが終わるまであと20分。この間に何か、事態が進めばいいんだけど。チョコの箱を抱え、私は教室を出た
−−−−−−
チョコを手にあの人のところへ。
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