これが僕らの恋愛です



「フォークダンスって、楽しいね」
「は?」

体育祭最後の種目、学年別の男女混合フォークダンス。私は目の前で手を組み合う塚原くんにそう笑いかける。も、塚原くんは「そうか?楽しいか?これ」と不可解そうに眉をひそめた。「つーか体育祭最後になってそんな楽しめる体力残ってねーからな、もう」とぼそっと呟き、塚原くんはくるくると回る輪に乗じて次のペアの女の子の手を取る。…それは、まあ確かに疲れてるけれども

「…あ、澤原さんだ」
「!浅羽くん」
「よろしく…って、なんか楽しそうだね」

差し出された浅羽悠太くんの手を取り、私は「うん。楽しいよ」とふわりと微笑み返した。…手を取り合ってはまた離れて、そして次の人と手を。どんどん色々な人と交代に向かい合わせになっては思う。こうして目の前の浅羽悠太くんみたいに、三年間この学校で一緒に過ごしてきて、 仲良くなった人もいる。けれど、三年間のなかで顔は見知ってるけどあまり話せなかった人も、今まで全く接点がなくて初めて見る人もいて。色んな人がこの輪のなかにいて、同じ時間を共有してる。…それが少し不思議で、でも楽しくて

「?よく分からないけど…ひとの楽しそうな顔見るの、俺は好きですよ。こっちまで楽しくなりますから」
「!……あ、ありがとう」

そうしてまた浅羽くんの手は離れて。その手はまた次の人へ。どの人も体育祭を終えたばかりだからか、手を取り合うとじわじわと熱が伝わって。少し砂ぼこりで汚れた体操服に、滴る汗に、なんだか充実したような顔。…すごく、青春だななんて感じる。私たちにとって学校生活最後の体育祭。皆思い思いに楽しんだことだろう。今この瞬間も、大切でかけがえのない思い出だから。そう思うと視界がじわっと潤んでくる

「!わ、いやだみほ泣いてんの?」
「うおっ!?ほ、本当だ」

隣からカヨちゃんが少し呆れたように「ほら泣くなーまだ早いぞー」なんて笑いかけてくれて。私はぽろぽろと涙を溢しながら、「…っ、な、なんか感極まっちゃ、って…」と途切れ途切れに言葉を紡いだ。すると周りの男子たちも気を遣うように「あはは、気持ち分かるわー」「マジで人生最後の体育祭だもんなあ」と明るく話しかけてくれた

「…それに澤原さんは体育祭実行委員で頑張ってたもんね。感動も俺らなんかよりあるよな」
「最近放課後なんかも大変そうだったし、本当お疲れ!」
「!え…」
「学級旗とかおかげで超かっこよく出来てて良かったよなー。あとでアレ、打ち上げにも持ってこーね」
「う、うん…」

ー…私が何をしてたかを、私の頑張りを、見てくれていた人たちがいる。認めてくれる人たちがいる。…それだけで私はこれからも頑張れるし、何でも出来る気がするんだ。…終わってみて、私体育祭実行委員になって良かった。楽しかった。辛いこともあったけど、そのぶん達成感もある。「じゃあまた打ち上げでー」「う、うん。ありがとう」なんてやり取りをして、くるくる回る輪に乗じて。私は次の人と手を…

「…あ」
「!あ、浅羽くん…」
「どうも。さっきぶり、ですね」

その一言に私はボッと顔が赤くなってしまうが、浅羽くんは表情1つ変えずに私の手を取る。……こういうところ、ちょっとだけズルいなって思う。私も、もう少しだけ余裕が欲しい

「…というか、フォークダンスってどうやるんだっけ?なんかさっきからよく分かってないから、くるくるしてるだけなんだけど」
「ん、んー…まあ大丈夫なんじゃないかな。私もよく分からないし、適当に雰囲気だけ楽しめば」
「……、澤原さんの口から適当って言葉聞くの、なんか違和感ある」
「えっ」
「澤原さんもそういうこと言うんだなって」
「え、えっと…」

私は、几帳面でもなくむしろ大雑把な性格で。そのうえかなりの不器用で、こういうダンスとかも苦手。それを言えば「でも、得意そうに見えるよ。澤原さんの外見からして」と少し笑って、浅羽くんは私の右手を引いた。少しだけ、距離が縮まる

「…そうやって相手のこと知れたら楽しいってことですかね?」
「えっ?」
「んーと、付き合うってことのメリット?小さなことでも、澤原さんのことだんだん分かっていけるというか」
「!……じゃ、じゃあ私も」
「?」
「浅羽くんのこと…もっともっとたくさん知って、それでその…わ、私のこともたくさん知ってもらいたいなあ…なんて…思ってみたり…」
「……」

「こ、こうやって手を繋いでみても、分からないことはたくさんあるから。距離が縮められればなって」とたどたどしく言葉を紡ぐ。…言葉にするのはやっぱり恥ずかしいけど、こんなことで照れて逃げちゃったら分かり合うにも時間はかかる。だから、勇気を

「あの…、自分で言ってる途中で照れちゃうのは反則で。なんか、こっちまで恥ずかしくなってきました」
「え、えっ、ご、ごめん…!」
「…まあ照れて、ってのは別に悪いことじゃないんだけどね」
「ー…う、ううん。もっとこう…浅羽くんに自分の気持ちをズバズバと言えるようになる…!」
「……、そ?なら、俺もズバズバ言えるようにします。それで、顔を真っ赤にする澤原さんをニヤニヤ見るのを毎回の楽しみにするのでそのつもりで」
「…!」



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体育祭その後。これにて本編は完結です!あとは番外編を更新出来ればと思います今までありがとうございました!







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