君は僕が好きですか?



「ねえ、さっき祐希先輩が三年の先輩に告ってたってマジ!?」
「らしいよー色んな人が聞いてたって!今同じ三年の先輩達のなかで超パニックになってるって!」
「えー私ショック…祐希先輩狙ってたのにぃ」
「てか、祐希先輩からって…そんなことあるの?誰かの聞き間違えじゃないの?」
「しかも相手は三年の大人しそーな先輩らしいよ。だから意味分からないって皆…」
「……」

通りすがる一年の女の子達の会話に、つい舌打ちをうつ。…なーにが意味分からないだ!今までのみほの努力を知らないくせに!むしろ浅羽祐希なんかにはみほはもったいないっての!

「まあまあ、丸山さん落ち着いてください」
「チッ…何でみほがああ言われるのよ。浅羽祐希ってそんなに良い男?」
「いやー俺からしたら、ゆっきーはまだまだな男で…」
「橘には聞いてない」
「ひどっ!」
「…ま、あれだけ周り無視して告白すりゃ女子が騒ぐのも分かるけどな」

「あいつはアホだなー」と呆れたように目を細める塚原に、私は内心頷いた。…どーせ浅羽祐希は周りのリアクションなんてどうでもいいんだろうけど、みほはそうもいかない。浅羽祐希を狙ってる女の子達から、これから嫌がらせだって受けるかもしれない。はあ…本当に、空気を読めと

「…暫くは橘も塚原も松岡も浅羽も、みほ護衛隊として動いてもらうからね」
「えっ?ご、護衛隊?」
「あんたらの友達の浅羽祐希が空気読めないせいでこうなったんだから、当たり前でしょ」
「なっ…ゆ、祐希呼んでこい!何でアイツのせいで俺たちが尻拭いを…」
「あー要っち、ゆっきーなら今は多分…」







「……」

グランドから少し離れた、体育倉庫の前。残る種目は男女混合フォークダンスだけといっても、まだ片付けまで時間はあるから、今は用具を返しに来る人もいない。日影になったその場所で、私と浅羽くんは向かい合っていた。っ、き、緊張する…。二人きりで話すこと自体もそうだし…

「(…ど、どうしよ…)」

長めの丈の真っ黒な学ランに、白い手袋に、真っ赤なハチマキ。…頬を伝う汗。…それにさっきの応援団の時の真剣な瞳もまだ記憶に新しくて。本当に、浅羽くんはかっこいい。…う、ダメだ恥ずかしがってないでちゃんと何か言わなきゃ…!

「あ、あの…!わ、私…」
「あーその前にちょっといいですかね?」
「えっ」

ぱさっ。浅羽くんが自分の着ていた応援団の学ランを脱ぎ、私にいきなり羽織らせた。……え、ええと?一体何で…

「…なんというか、話すにしても困るというか…」
「困る、?」
「ー…目のやりどころが、分からないので」
「!えっ…」

珍しく狼狽えたようにして、浅羽くんは頬をぽりぽりとかく。…反らされた視線に、真っ赤に染まった耳。……意識、してくれてるんだろうか。浅羽くんも。私が感じたどきどきを、浅羽くんも感じてくれているの?…だとしたら、すごく…

「…それで話は戻るんですけど、答え見つかりました?」
「!……う、ん。わ、私…浅羽くんの全部が、好き」
「…全部?」
「気付いたら、浅羽くんは私にとって特別な存在になっていたから。どこが、とか…言い切れないくらい。気になってた」
「……俺は、澤原さんが思ってるような人じゃないですよ?澤原さんの気持ちが分かりきってあげられないぐらいに鈍感で、傷付けるような言葉も何気なく言ってしまうぐらい迂闊で。俺は、別に…」
「そ、それでも…ちゃんとそういうところ含め浅羽くんを知っていきたいと思う。傷付けられてもー…嫌いになんてなれない」
「!…」

…逆に、そんな私こそ重くて面倒くさい女だ。嫌いになんか、なれないから。止められそうにない、私は浅羽くんが好き

「…分からない面も、私の知らない浅羽くんも、知っていきたいから。ず、図々しい発言かも、だけど…」
「……澤原さんって、度胸あるよね」
「!えっ…?」
「俺は、そうやって嫌な面とか弱いところとか見せたくなかったから、躊躇ばっかで。自分で言う好きも…まだ重いよ」
「…浅羽、くん…」
「…友達だって、まだ難しいのに。恋愛、とか?俺に出来るのかって」

けど…。そう一言呟き、浅羽くんは白い手袋を外し、そのまま私の手をスッととった。…触れた指先から、じわじわと熱が伝わる。一気に、頬が熱くなる。…男の子の骨ばって固い大きな手。初めてだ、こんなの。っ、どきどきする…

「けど……俺も、澤原さんのこともっと知りたいし、近付きたいし、…澤原さんに触れたい」
「!あ、浅羽くん…」
「それは、多分"友達"とは違うもっと違う存在(もの)だと思うから。なんというか…」

「彼氏って立場が、最適だと思うんですよね。」そう言って浅羽くんは私の指先に自分の指先を絡める。…さっきより、距離が縮まった。浅羽くんの顔が、近い

「っ…」

かああっとさらに頬が熱くなる。頭のなかも真っ白で。…あの浅羽くんとこんな風になれるなんてと。ただただ信じられなくて。つい、逃げ出したくなるぐらいに恥ずかしくて。いつもの私なら、多分固まってるまるままだった。…けど、今は少し違う。恥ずかしいことに下心が、芽生えてきちゃってる。わ、私も浅羽くんにもっと…

「……わ、私も好き。浅羽くんが好き」
「!…澤原、さん?」
「その浅羽くんも、私を好きだって、同じ気持ちなんだって言ってくれて…私はすごくすごく嬉しかったよ。それだけじゃ、ダメなのかな…?」

幻滅とか、傷つけたりとか。私だって、本当の自分を知られるのは怖いよ。ありのままをさらけ出せる勇気もまだないよ。…けど、そういう怖さよりも嬉しさのほうが勝ってる。もっともっと、浅羽くんのことを知りたい。もっともっと、浅羽くんに私のこと知ってほしい。私がそう言葉を紡げば、浅羽くんは少し驚いたように目を丸くした。そして小さく息を吐く。まるで何かに安堵したかのように、ゆっくりと

「俺が変に悩む必要、なかったかもですね。あー本当…悠太のこと言えないや」
「…ずっと、悩んでた?」
「あー…まあ、多少。けど、今は普通。澤原さんのおかげで吹っ切れたので」
「そ、そっか……」
「?澤原さん?」
「っ、な、なんか急に緊張?してきちゃって…」

顔を俯かせ、繋いでいないほうの手で真っ赤な顔を浅羽くんから必死に隠す。…意識しちゃうと、だめ。告白するっていうのはこういうことなのに。浅羽くんが言う私への好意も、まるで夢のようで信じきれなくて。自分のなかで「もしかしたら…」なんて悪い場合を考えては自分を守って。浅羽くんと近付く度に胸は高鳴り、つい逃げ出したくなって、受け身にしかなれなくて。…勇気のない私。情けない

「……、恥ずかしいだけで嫌とか怖いわけではないんですよね?」
「!ち、違うよっ!嫌なわけない!けど…私その、好きな男の子と手繋いだの初めてだから……ご、ごめんね。私、手すごく汗ばんでる、かも…」
「…それはお互い様でしょ。だって体育祭やってたわけだし俺たち」

じわりと手が汗で少しずつ濡れていく。…浅羽くんは嫌じゃないかな。私は、まだもう少しだけ繋いでいたいのだけれど…。私は浅羽くんに気付かれないようにちょっとだけ、絡めた指先に力をいれた

「…なんかさ、」
「…?」
「周りの人たちがベタベタしてるの、最初はよく分からなかったんだ俺。だって、もうすぐ夏だしますます暑くなるだけじゃないですか」
「あ、う…うん…」
「けど…今ちょっと分かった。離しがたい、というか」
「!」
「暑いっていうより、あったかい」

ぎゅうっとさらに強く、浅羽くんが私の手を握りしめる。…私も、暑いっていうよりあったかい。胸がほわほわと温かくなるような感覚。…もっと。私も浅羽くんに触れて、みたい。ちょっとだけでいいから。私は…

『…アナウンスです。係の生徒の準備が整ったようです。もうすぐ最終種目、男女混合フォークダンスに移ります。生徒の皆さんは学年別にグラウンドに集合お願いします!』
「あ」
「!!え、もうそんな時間…?!」

や、やばい…!私もまだチアガールの衣装のままだし、浅羽くんも応援団の学ランの衣装のままだし…!は、早く体育着に着替えてグラウンド行かなきゃ…!私は慌てて浅羽くんに「こ、校舎に戻ろう浅羽くん」と羽織っていた学ランを返…

「あー澤原さん、学ランは着たままでいてほしいんですけど…」
「!へっ…?」
「ほら、教室戻るのにグラウンド通るじゃないですか」
「?う、うん…」
「あんま、見せたくないというか」
「!」

ぽつりと呟いた浅羽くんに、私はじっと見つめた。…それって、つまり…。そんな私に気付いてか、浅羽くんは少し居心地悪そうにぽりぽりと頬をかいた

「いや、そんな見られても…」
「…だ、だって……」
「…だって、何?」
「そ、そういう言い方されると…期待、しちゃうから…」
「!……」

私なんかのチアガール姿、なんて。足は太いし二の腕はむちむちだし…。そうゴニョゴニョと言い訳するように言葉を紡げば、浅羽くんがはぁ…と小さくため息をついた。!あ…ど、どうしよう。呆れられちゃっ…

「もっと、自信持ってよ」
「!えっ…」
「俺が好きなのは澤原さんだけだし、付き合いたいと思えたのも澤原さんだけですよ。…一番最初に君が勇気をだしてくれたから。俺は澤原さんと恋愛したくなった」
「浅羽、くん…」
「…今まで間接的に好きだなんだって騒いでる人たちはいたけど、直接好きだって言ってくれたのは澤原さんが初めてで。…まあ自分でも今告白してみて分かったけどね。好きだって相手に直接言うのはすごく勇気のいることだって」

「だから…そうやって勇気を出してくれた澤原さんじゃなきゃ、俺は恋愛しようとも思わなかったわけで」と言って、浅羽くんはもう片方の手で私の頬に触れた。…経験がないからって理由にならない。信じたい。浅羽くんの気持ちや言葉を。恋するってきっと、そういうことでしょう?

「っ……あ、浅羽くん」
「ん?」
「わ…私と付き合って、下さい…!」



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キリトリセン完結です!今までありがとうございました!番外編も後日またアップしていきますストックあるので(笑)







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