恋とは何ですか?



「いよいよ次だあ…!緊張するね〜!」
「振り付け間違えずに出来るといいなあ」
「というか、私たちの前って赤組の応援合戦だよね?祐希くん出るじゃん!そっちのが超楽しみ〜」
「おーい!全然緊張してないじゃんかあっ。あはは」
「……」

…もうすぐ、浅羽くんたち赤組の応援合戦と私たち黄色組のチアダンスが連続で出番だ。…自分の番の心配もあるけど、今はさっきの浅羽くんの後ろ姿しか頭にない。…避けられてるにしても、嫌われてるにしても。私はやっぱり浅羽くんが好き。諦めきれない。…けど、告白して保留にされてる以上、浅羽くんに片思いする権利さえ私にはいつかなくなるのかもしれない。…これだけ学校中の女の子にモテるんだもん。私より可愛い子だって、私より性格が良い子だって、私より器用な子だってたくさんいる。なら、浅羽くんがそういう子を好きになってもおかしくはないし、別の女の子と付き合う未来もあるかもしれない。私も浅羽くんに好意をもつ、そのなかの一人に過ぎないのだから

「(ー…気持ちを伝えたかっただけ、だったのに。いつの間にか欲張りになってたみたい…)」

好きって言うだけじゃ、なくて。浅羽くんに求める要求みたいなものが自分のなかで形成されつつあることに驚く。…私は、果たしてこの恋を辞めることが出来るんだろうか

「きゃー!ねっ、こっち来るの祐希くんじゃない?」
「本当だ!やばい応援団の衣装ちょーカッコいい!」
「えっ…?」

きゃあきゃあと騒ぐクラスの子にならって、私はくるりと振り向いた。…確かに。こっちに向かって走ってくるのは浅羽くんだ。な、何で浅羽くんが…?赤組はもっと入場門に近い場所で待機してるはずなのに、何で黄色組のほうに…

「ー…澤原さん、」
「…!」

急に浅羽くんの口から出た名前は、私のもので。人と人の間をかき分け、浅羽くんは私の前まで息を切らして走り込んできた。…な、何で。周りのクラスメイトと同じように、私も彼の意図が分からないと目を丸くする

「あ、浅羽くん…!?ど、どうしたの?浅羽くん次赤組の応援団でるんじゃ…?」
「あー…うん。まあ…そうなんですけど」
「…?」

と、というかどこから走ってきたのかな…?それに次はすぐ赤組の応援団の出番なのに大丈夫なの、かな…

「浅羽、くん?あの…」
「ー…答えが、漸く自分のなかで見つかって。すぐにでも伝えようと思いまして」
「えっ…?」
「…澤原さんのことが、俺はやっぱり、どう考えても特別だったみたいで」
「!?え…」
「つまりは…ええと、澤原さんが好きってことになりますかね」
「!!な、なななっ…」
『次は応援合戦、まずは赤組です!』
「あ、じゃあ俺出番らしいので行ってきます」
「え…えええ!?あ、浅羽く…」
「あっ、あと澤原さんにお願いなんですけど…」
「へっ?」
「これ終わったら、俺のどこが好きか教えてくれませんか?俺と同じか確かめたいのもあるし、澤原さんの口から聞きたいんで」
「!なっ…」
「じゃあ、また後で」
「ちょ、浅羽くん待っ…」

私の制止も虚しく、浅羽くんはさっさとグラウンドのほうに走って行ってしまう。い、いやいや…!い、今言われたことが頭で処理出来なくて、見事にパニック状態。す…好き?浅羽くんが、私を?そんなこと…。それに"私が浅羽くんのどこを好きなのか教えてほしい"、だなんて…

「…ね、ねえみほちゃん今祐希くんに告白…」
「まーまー!ちょっとリカ、向こうで最後に振り付け確認しとこーよ!」
「えっいやカヨ何いきなり…」
「……」
『赤組応援始めーっ!!!』
『『『オオオ!』』』

ー…赤組の応援が始まる。長い赤いハチマキを揺らし、応援団員が大声を出して身振り手振りする。…なんというか、あのなかで汗をたらして必死に応援をする浅羽くんは、私の知ってる浅羽くんの、また違う面で。カッコいいなって。素敵だなって。そんな言葉しか浮かんでこない

「……」

…最初は、ただの憧れだった。一年生の初めの頃、1人だった私は浅羽くんの言葉に大切なことを気付かされて。それをきっかけに、浅羽くんのことが気になるようになってた。…かっこよくて、スポーツなんか何でも出来て、学校中の女の子の注目を集めていた浅羽くんは、私なんかからしたら何もかもが違う遠い遠い存在で

「(…けど、)」

いつからか、浅羽くんってどんな人なのかなって考えるようになっていた。同じ目線で考えるようになった。何でもそつなくこなす浅羽くんは、塚原くん達以外はあまり誰かと話すことも絡むこともなくて。1人が好き…ってわけじゃないかもしれないけど、いつも自分のペースで無駄なくスマートに行動してるというか…私はそうやって賢く器用には出来ないから。ちょっと感心しちゃった覚えがある

「ー…どこか、じゃない」

全部、好き。もうずっと前から、浅羽くんの色んなところが。…浅羽くんがどういう人なのかなって分かることがある度に、そこには小さな思い出の積み重ねがあって。勇気をだして話しかけて、会話が成立する度に嬉しくて。名字を呼ばれる度に胸がきゅっと苦しくなった。ー…浅羽くんはいつの間にか、私のなかで恋愛対象(とくべつ)になってた。どこが、とか言い切れない。全部好き。…まだまだ分からないことも知らない面あるけど、そういうのもこれから分かっていければいいなと。ますます私は貪欲になっていく

「…っ」
『はい赤組の皆さんありがとうございました!次は黄色組です』

退場門のほうに浅羽くんが赤組の応援団の皆とわらわらと走っていくのが見える。…どうしよう。足が震えてきた。浅羽くんにこれが終わったら返事しなきゃいけないこともあるけど、次のチアダンスも。私、頑張りたい。今浅羽くんが魅せてくれたように、私も。だって、浅羽くんはきっと見てくれるだろうから。私は黄色のポンポンで顔を隠し俯き、そっと「がんばれ、私」と呟いた


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原作では応援合戦の順番は黄色組→赤組だったんですが、都合上逆にしました




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