はーとが小さく騒ぎました



浅羽くんはすごくモテる。あ、もちろんお兄さんのほうもだけど弟の祐希くんも。とても綺麗な顔立ちをしてるし、基本的に何でも要領良くこなしちゃうし。面倒くさがりな性格なのかな?とも思える一面もあるんだけど、何だかんだで友達思いで面倒見も良いし。女子から人気があるのも分かる。(実は浅羽祐希くんは所謂オタクみたいだけど、女の子達からしたらは別にそこは対して気にならないらしい)

「(私は…何で浅羽くんのこと、好きになったのかな)」

…気付いたら、ってのが正解かもしれない。本当に気付いたら浅羽くんのことを目で追いかけてて。彼が近くにいるとドキドキして。浅羽くんと同じクラスで幸せだなあ…なんて、好きになってからは毎日思ってた。席はいまいち遠いけど、それでも色んな浅羽くんの姿を見てられるから

「みほー、一緒帰ろー」
「ご、ごめん。今日はちょっとスーパーに寄ろうと思ってるから、先に帰っててくれる…?」
「へ?」

何で?と不思議そうな顔をした友人のカヨちゃんに「あ、その…チョコの材料買わなくちゃダメだから…」と答えれば、彼女は成る程というようにニヤリと笑った

「そっか!ついに決心したんだ!」
「う、うん」

頑張りなよ!なんて、いつかの橘くんと同じようにカヨちゃんは私の肩をバンバンと叩く。…私が浅羽くんを好きだって知ってるのはカヨちゃんと橘くんの二人だけ。だから、この二人に応援してもらえるのはすごく心強い。告白するとか、明確な目的はないのが情けないけど…それでも頑張ろうって素直に思える。勇気が出る

「じゃあ私先に帰るから」
「うん。また明日」
「おぉ!また明日ね!」

そういえば今日はカヨちゃん、バイトだって言ってたよね…。足早に教室から出た彼女を見送り、私は机の中から必要なものを鞄に詰め込む。…私ももう用事ないし、早くスーパーへ行こう。そう私が教室を出ようと席を立った、次の瞬間ー…

「要、ちょっとノート借りるよ」
「は?オイ!コラ祐希、お前勝手に…」
「!?きゃ…」

急に横から出てきた人影。それに思い切りぶつかり、私の身体には軽い衝撃が。転ばないように咄嗟に足の爪先にグッと力を入れたが、代わりに私の鞄からドサドサと荷物が落ちた。う、何で鞄のチャック閉めなかったんだろ…。私バカ過ぎ…!

「っ…悪ィ」
「あ…だ、大丈夫…」

…私とぶつかったのは塚原くんだったらしい。すごく申し訳なさそうな顔をして謝る塚原くんは、そのまましゃがみこみ、こぼれ落ちた私の荷物を拾ってくれた。「あ、いいよ私自分で拾うから…」なんて言って、私も同じようにしゃがみこむ。が、次の瞬間には塚原くんのとは別の手がにゅっと横から出てきた

「はい」
「!あ…」

その手にあったのは私の財布。そして…それを拾ってくれたのは浅羽くんだった。な、何で…と呟けば、「4分の1くらいはオレの責任なので」と淡々と返された。…そう言えばさっきの会話からして、浅羽くんが塚原くんに何かしてたような…。「あ、ありがとう」と言ってそれを受け取ろうとしたが、何故か目の前で浅羽くんは私の財布をパカッと開いていた。え、あれ…?

「うわー金持ちだ。万札がある」
「お前は何やってんだよアホ!」

黙々と私の荷物を拾う作業をしてくれていた塚原くんが、浅羽くんの頭をバシンと叩く。「さっさと財布返してやれ!つーかお前ちゃんと拾え!お前のせいだろ!オレが澤原さんにぶつかったの!」「えーそこオレのせいにしちゃうんだー要最低ー」なんて言い合う二人に言葉を挟む隙もなくなる。そ…そうだ、今日はバレンタインのチョコの材料買いにいく予定だったから、お金をお母さんにもらったんだった。細かいのないから万札でって…

「ほら困ってるだろ!早く返してやれって」
「あーはいはい。澤原さん、返却するね」
「う、うん…」
「荷物もこれで全部だよな?」

浅羽くんから財布を受け取り、そして塚原くんが回収してくれた荷物も鞄にしまう。えっと、とりあえず見る限りは何も落ちてない…かな。財布と家の鍵と携帯さえあれば何とかなるし…と考えて、視線を床から塚原くん達に戻す

「(…!)」

…あ、荷物を拾うためにしゃがみこんだからかいつもより浅羽くんとの距離が近い…。というか、こんな距離まで近付いたことなんてないや…当たり前だけど。今さら熱くなる顔を意識しないように努めながら、私は「あ…え、えっと大丈夫みたい。ありがとう」と返答をして鞄を抱えこんだ。…もう私行っても大丈夫、だよね?ふらふらと立ち上がり、私は「さ、さようならっ」と二人に別れの言葉を紡ぎ、バッと頭を下げた

「?あぁ、じゃあな」
「あ、さよなら。また明日」

…別れの言葉ぐらいでこんなにキョドる私も大概だよなあ、なんて。もしかしたら浅羽くんと塚原くんに変に思われたかもしれない…。そんなことを考えて私は廊下を駆け出した。また明日。浅羽くんの言葉が耳に反響する。ー…明日はいよいよバレンタイン。ああどうしよう、今から緊張する…。明日私は目の前のこの人に本命チョコを渡すんだ。妙にふわふわした感覚がいやに気持ち悪かった


−−−−−−
片思いの苦しみ。




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