抱えるものは同じでしょうか?



「ふあ…」

応援団の学ランに袖を通し、ぼんやりと欠伸をする。ー…ムカデリレー借り物競争騎馬戦と終わって、あとは応援合戦とフォークダンスだけか。案外早く終わりそうで良かった。体育祭終わったら早く家に帰って寝たい。本当疲れた

「(…まさか自分が出てない借り物競争で走らされると思わなかったし)」

大体、双子って。誰がそんなお題のカード用意したんだか…。双子なんてうちの学校に他にいなくないですか?ほとんど名指しじゃないですか。澤原さんが戸惑ってたのも分かる

「……」

…それでも、すごく困ってる澤原さんを見捨てられなかった。いつもだったら、あれが澤原さんじゃなかったら、たぶん俺は面倒くさいからって走らなかったと思う。(たぶん悠太は優しいから走ってあげるだろうけど)。…なんというか、何だろう。借り物競争で借り物として一緒に走ってあげた俺は、いつもの俺じゃなかった

「(…まだ、手が熱い…)」

手をぎゅっぱっと広げたり閉じたりしてみる。…澤原さんと繋いだ手。その左手だけが熱を帯びてる。……なんか、変だ。調子が狂う。澤原さんに関することになると、最近特に。急にイライラしたり、ボーッとしてしまったり、気まずく思ったりしたり。…俺らしくない。乱されるのなんか御免で、もっと落ち着いて平静を保っていたいのに

「(…そういえば、まだ、保留なんだっけ)」

ー…澤原さんから告白されて、もう4ヶ月。あれから何も考えていなかったわけじゃない。…けど、どうすればいいのか分からない。気持ちと行動が、追い付かない。たぶん、初めてだから。こうやって誰か一人に動かされたりするのが。器用にこなせないのが妙に嫌で情けなくて、もどかしくて。ー…むしろ、途中で投げ出したくなる

「(断ったら、全部解決するのかな…なんて)」

投げ出したら、どんなに楽だろう。…最近はそんな最低な思いが俺を締め付ける。こんな中途半端な気持ちばかりもて余して、意味があるのか。俺がもどかしくて苦しくなるのもそうだし、返事を待たせてる澤原さんにも悪いことをしてる。…どうすれば、解放されるんだろ。もっと、楽な方に逃げたい



「お前本当に節操ねーなあ。チアガールは黄色組だから敵チームだろ」
「ふふんっ。思春期の前に赤も青も黄色もないのだ!」
「おめーはピンク一色だけどな。頭ん中が」
「!…」

あれ…千鶴と要と春じゃん。何であんなところに。俺は遠目に三人を眺めながら、ハチマキをぐっと結んだ。(ちなみに俺が此処にいるのは赤組の胴上げから逃れるためです。)敢えて声を掛けずにいると、悠太が遅れて三人のほうへ歩いてきた

「ちょっと目的のハチマキ忘れて…」
「てーへんだてーへんだ!!兄さん事件です!」
「?」
「…?」

?何で千鶴、悠太を引っ張りだして……って、ああ。ナルホド。視線の先にはチアガールの衣装を着た高橋さんって人が。千鶴がほらっ!なんて悠太の背中を押し、悠太も漸く気付いたみたいだ千鶴の意図が

「!……」
「……」

……あれが、恋する人間の表情、なんですかね。見たことのない悠太の表情。はっと目を丸くした後、気恥ずかしそうに顔を俯かせるその姿。…やっぱり、悠太はまだ高橋さんのこと好きなの、かな。…好きじゃないにしても特別、なんだろうな。あんな悠太の顔、見たことないですし。なんだかなあ…悠太お兄ちゃんを盗られたようで俺は少し悔しいんですけど。俺はそのままそろりそろりと近付いて、悠太の耳元にぼそっと呟いてやった

「…スケベ」
「!…祐希」
「おおっゆっきーが来た!」
「わあ、祐希くん似合う〜!」
「へえ、なかなか様になってんじゃん」
「ていうか、何で全員ここに来てんの?」
「あ、祐希くんにハチマキ届けようと思って」

…ああナルホド。だけどね春、残念ながらハチマキは応援団用のがあるから大丈夫なんですよ。そう説明すれば春が「そ、そうだったんですか…」なんてしょんぼりとして眉をハの字に下げる。…あらら、捨てられた子犬みたいですね

「いやあ、まあ応援合戦に勇む前のゆっきーに会えて良かっ…」
「あんたら、何してんの?」
「!あっカヨちゃんじゃ…ぎゃあああカヨちゃんいきなり足踏まなくても…!」
「何しにノコノコ来たの?この変態どもが」
「わー…千鶴のせいで変な誤解受けてるね」
「本当だな」
「か、カヨちゃんチアガール姿似合ってるね!」
「こっち見んな橘潰れろ」

「っていうか、何で赤組の応援団員までこっちいんの」とじと目で睨んできた丸山さんに「いや、まあ成り行きで…」と返せば、「ああ、みほのチアガール姿見にきたんだ。なるほどね」と笑われた。いや…そんなの一言も言ってないんですけど。というかさっき怒ってたのに今半笑いって。丸山さん切り替え早すぎません?

「ちょっとはリアクション取ってよ?男としてさ」
「いや、だからそういうんじゃなく…」
「あっカヨちゃんいた!もう一回みんなで振り付け確認しようって…」
「あっみほっちだ!」
「!?っ、」
「(!あ……)」

ー…また、だ。最近こういう感覚に陥ることが多い。胸がぎゅっと締め付けらるような一瞬の息苦しさと、胸の奥で何かがちり、と焼けるような。こうなると何も言葉も出せずに硬直するだけ。…いつもと違って少し高い位置で2つ結んだ髪に、腕や足がほとんど出てしまうようなノースリーブの服にひらひらとしたミニスカート。…なんというか、何だろう。いつもの澤原さんとは違って見える

「(…というか、肌白い…)」

細い手足はこのぎらぎらとした日差しに合わず、真っ白な色をしていて。…正直、露出してる部分が多すぎてどこ見たらいいのか分からないんですけど。チアガールの衣装とか、ちょっとやり過ぎじゃないですかね?

「(…熱、)」

変に頬が火照りだした。…なんだこれ。これじゃさっきの悠太と対して変わらないじゃないか。もしかして、さっきの悠太みたいに俺の顔赤くなってんのかな。…ちょっと嫌だな。こういうの慣れてないから、どういう顔してればいいのか分からない。あんまり澤原さんに見られたくないなあ…。そんな風に思って向かい側の彼女の顔をちらりと見れば、澤原さんの顔は俺以上に赤くなっていた

「えっ…」
「あ、あの、私…ちょ、ちょっと戻るね…!それじゃ…」
「ー…いや、待って」
「!」

…いきなり逃げ出すことないじゃないですか。まだ何にも言ってないし。俺は澤原さんの細い手首をやんわりと掴み、とりあえず手足なんかは視界から外したいから澤原さんの目をじっと見つめた

「っえ、あ、あの浅羽く…」
「…何で、逃げようとするんですか?」
「…え、そ、そっ…それはもちろん、あの、恥ずかしいし…」
「何で?」
「えっ…?」
「何で、恥ずかしいの?」

別に、意地悪な質問とかではなく。ただ、知りたくて。澤原さんはどう思ってるのかなって。…俺が自分で自分の気持ちが分からないから、その代わりに。手がかりになればいいって。…この妙にふわふわした感情は何?この気持ちを、君も俺に感じているんですか?これはそれとも俺だけですか?

「…そ、それは…目の前にいるのが、浅羽くん、だから…余計に、というか…」
「……」
「そ、それに、浅羽くんが…」
「?俺が?」
「…応援団の衣装、すごく似合ってる、し」

「目が合うと、逃げだしたくなっちゃう…から」と俺にギリギリ聞こえるぐらいの声量で呟いて、澤原さんは俺に掴まれていないほうの手で顔をそっと隠す。ー…逃げ出したくなる。その気持ちは、なんとなく分かる。不恰好な自分を見られたくなくて、俺もよく澤原さんから逃亡することありますから。…それを思うと、漫画なんかで積極的にアプローチして甘い言葉を言いまくるキャラクターなんかは、本当に現実離れした存在なんじゃないかと思ってしまう

「(……俺にはこれだけで、いっぱいいっぱいなんですけど)」

目の前には赤く頬を染めた澤原さんがいて。俺は澤原さんの手を掴んでいて。…この状況だけでいっぱいいっぱい。あとは何も出来ない気がする。そうして俺は「…澤原さん、チアガールやるの頑張ってください」なんて呟いて、また君から逃げてしまうのだから



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あと少し、勇気を




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