これは私のワガママでしょうか?



「じゃ、体育祭実行委員よろしくーっ」
「おう!あ、澤原さんが言う?」
「う、ううん。大丈夫お願いします…!」
「そう?んじゃっみんな、注目ー!」

「高校生活最後の体育祭だしさ!今日は優勝狙っちゃおうぜ!」なんて教卓の前でもう一人の体育祭実行委員の男子が声を張る。それに「よっ!体育祭実行委員!」「めざせ優勝ー!」と皆が同じように声をあげる。みんな気合い入ってるなあ…!わ、私も頑張ろう…!「じゃ、今日は委員の仕事頑張ろ」「う、うん!」「今日終われば俺ら委員の仕事終わりだし、そう考えると気楽だよなあー」なんてやり取りをしてから、私はカヨちゃん達のところに戻った

「お疲れー気合いいれ良かったよー」
「あはは…私は何にもしてないけどね」
「あーていうかみほちゃん2つ結びだっ。珍しいね」
「うん。カヨちゃんがやってくれて…」
「みほ、髪だいぶ伸びてきたよねー」
「…で、でもカヨちゃん。な、なんか2つ結びって幼く見えない…?ちょっと恥ずかしいんだけど…」
「えーいいじゃん可愛いよ。なんか中学生っぽい」
「(…ちゅ、中学生…)」
「あはは、でも髪下ろすと流石に暑いよねえ今日は」

確かに…まあ、そうだよね。こんなにカラッと晴れてるんだから。私は結ばれてぴょんぴょんと跳ねた髪の毛の先を触りつつ、鞄に水筒とタオルとプログラムの冊子と財布と携帯が入ってるのを確認した

「にしても今日めっちゃ晴れてるね…嫌だなあ。焼けちゃう」
「日焼け止め多めに塗っておかなきゃねー」
「ああっ、私残り少ないんだった…!」
「あ、私貸すよ…?」
「マジ?ありがとうみほちゃんっ」

半袖半ズボンでも後日日焼けが目立たないように…!私も皆と同じように日焼け止めクリームを腕に塗り込ませ、そして窓から外を眺めた。…今日は、ちゃんと体育祭を進行出来るよう委員会の仕事頑張ろう。あと、黄色組が優勝出来るようにも。ー…高校生活最後の体育祭だもん



**



『きょ、今日は晴天にも恵まれ…絶好の体育祭日和です!練習してきた成果が発揮できるよう、皆さん協力して頑張ってください…!』

い、言えた…!噛まずに言えた…!私ははあ…と安堵をつき、マイクから手をはなした。ー…今日の私の午前中の仕事は、アナウンスで体育祭を進行していくこと。テントの下の本部席でマイクで時折声援をおくりつつ、私はグラウンドを見渡す。…今がムカデリレーだから、たぶん時間的に体育祭は滞りなく進行出来てる、はず…!うん良かっ…

「だーから最初は右足からっつったじゃん!!」
「!?」

こ、この声は…。私は恐る恐るグラウンドの方に視線を移した

「いや俺はちゃんと出したよ。間違えたのは春で…」
「えええ…!僕はちゃんと右足を…」
「じゃあ誰なんだよおおお!」
「ぼ、僕じゃないはずです…!」
「はあ…もうやめよーよ。犯人探しなんか。もう一度三人で新たな一歩を踏み出そう?この左足で」
「ゆっきいいいい!やっぱ左足だしてたんじゃねえかああああ!」
「………」

……やっぱり橘くんと浅羽くんと松岡くんか…。他の走者から遅れて一組だけ立ち止まる浅羽くん達に、私は「み、皆さん協力して頑張ってください…!」なんてマイクを通して声援を送った。周りから溢れる歓声に、時折漏れる笑い声の喧騒のなか、私は最後までアナウンスで声援を続けた



**



「あ、あのお疲れ様!橘くんに松岡くんに浅羽くん」
「あ、澤原さん…」

テントの下で飲み物をごくごくと飲み休憩中の三人に、私は思いきって声をかけた

「ムカデリレー、大変だったね」
「あ、#NAME2##さんのアナウンス、聞こえてましたよ。ありがとうございます」
「いやみほっちに特等席でムカデリレーの悲惨っぷり見られてんだもんなー」
「あはは…お疲れ様」
「もうへとへとです…」

でもムカデリレーで最下位だからってまだ橘くん達のクラスにも挽回のチャンスはあるし…うん、まだまだ大丈夫だと思うんだ。だからこうして励ましに来たわけだし、それに…

「あ、あの…浅羽くん」
「?」
「昨日は…ごめんなさい。私勝手に怒ったりして…」

ー…ちゃんと謝っておきたくて。浅羽くんのほうを向き直し、ぺこりと軽く頭を下げる。…昨日のうちに謝れれば良かったんだけど、昨日の私は珍しく頭に血か上っていた?というか…とんだ頑固者だった。謝罪の言葉を述べる私に、橘くんが「?みほっちとゆっきー喧嘩でもしたの?」と首を傾げるが、あいにく苦笑いだけ返しておいた

「本当に、ごめんなさい」
「…いや、……」
「…?浅羽くん?」
「んー…と、なんというか、俺もちょっと良くなかったというか…むしろ昨日から、ずっと吃驚しててですね…」
「えっ?」

吃驚って、何を…?ど、どういう意味なんだろう…?頭をフルに使って考えるも、どういう意味なのか全く分からない。んっと…私がいきなり怒り出したから吃驚した、とか…?そう尋ねれば浅羽くんに「いや、そういうのではなくて…」と返されてしまった

「……なんというか、こんなに澤原さんの反応一つで、動揺するとは思ってなくて」
「!…え、…」
「あーみほっちここにいた!」
「!古橋くん…」
「"みほっち"ぃ!?それ俺が考えたあだ名…!」
「ま、まあまあ千鶴くん落ち着いて…!」

な、何で古橋くんがここに…?
目を丸くする私に彼は焦ったように言葉を紡いだ

「いや、体育祭実行委員次も仕事だってさ。だから呼びに来たんだ」
「え、でも今は間の休憩時間じゃ…」
「それが進行が思ったり早くて、今もうプログラム7番まできてて」
「えええ!うそ…」
「マジマジ。だから早く行こう?」
「!」
「…!」

ぱしっと腕を掴まれ、私は古橋くんに引っ張られるようにしてグラウンドへ向かう。え、え、あの腕…!そ、そんな急いでるのかな…いやそれにしても…

「(っ、何だろうこの気持ち…)」

気まずい、ような。しまったと思う気持ちがある、ような。普段から古橋くんと別にそんな仲良いわけじゃないのに、浅羽くんにこういうところ見られちゃったって。何にもないはずなのに、すごく焦ってる自分がいる。誤解されたら嫌だなって

「(…でも、ただの自惚れかもしれない、けど…)」

別に、浅羽くんにとってはどうでもいいことなのに。私だけが、勝手に気まずくなって勝手に落ち込んじゃってる。ー…私は、浅羽くんにとって何でもない存在なんだから。ただの知り合いに、嫉妬を感じてくれるはずもない

「……っ」

ちらりと振り返ったときにかち合った視線。だがそれも浅羽くんにすぐに反らされてしまって。…私一人が近付けた気になっていたことがたまらなく悲しかった




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