君には僕が見えていますか?



「(…振り付け、難しいなあ…)」

右に左と振っていた手を下ろし、私は小さくため息をついた。…やっぱ、ダンスとかそういうの苦手だ。体型移動とかも、まだよく覚えられてないし…。先頭で皆の手本になっていたダンス部の女の子何人かが「じゃ、今日の練習はここまでにしよっか。あとは本番までに各自覚えてきてね」と明るく言っていたのが聞こえた。…ま、まじでか。覚えられる気がしない…!

「…みほ、」
「あ、カヨちゃん…」
「あとで振り付け、一緒に確認しよ」

「私もあやふやだからさ」と言ってくれたカヨちゃんに、私は「カヨちゃん…!本当ありがとう…!」と目を潤ませ、カヨちゃんの手を取った。本当、私みたいな色々不器用なやつに付き合ってくれるカヨちゃんは良い人だ。持つべきものは友達…!

「…って、あれ?次の時間は赤組が体育館使うんだよね?赤組フツーにいなくない?」
「マジで?全員いないの?」
「えー?ならまだやれたじゃん、うちら」
「あー、ちょっと待った待った。赤組の応援団なら体育館裏のほうで何かやってたよ」
「!カヨちゃん…?」

「何でそんなこと知って…」「さっき、たまたま見たの。たぶん、裏のほうが場所取れるからじゃないかな?」なんて会話をした後、カヨちゃんは「じゃあ私とみほが呼んでるから。」とダンス部の女の子達に一声をかければ、なんとなく皆納得してくれたみたい。…ただでさえクラス準備の時間取れないし、やっぱ本番前になるとピリピリしちゃうよね。本当はダンス部ももっと振り付け練習に時間取りたかっただろうし…

「ほら、みほ行こう」
「う、うん…」

ぽんと肩を叩かれ、私たちは体育館の奥の扉に向かう。そしてカヨちゃんが先立って扉を引いた。……ん?もしかして、次に体育館使う赤組って…

「あのー黄色組の練習終わりましたよー?」
「おおっ!本当かっ!よし、赤組いくぞおお!!」
「「………」」

な、なんか熱い人がいる…!ど、同級生だよね?こ、こんな人いたっけ?大きな声を出して体育館に走りこんできた長身の男の子に、思わずびくっと肩を跳ねさせる。すると「あはは、他クラスの女の子に引かれてる」「てか、本当気合いいれすぎだからアイツの場合」なんて、けらけらと笑い声をあげて赤組の男子達がゆっくり体育館に入っていった。べ、別に引いてたわけでは…!

「…あれ?澤原さん?」
「!」

この、声は…。ふと振り返れば、目の前には…そう、浅羽くんの姿が。「?何でここに?」「え?あ、その…黄色組の練習終わったから赤組を呼びに…」「…1人で呼びに来たんですか?」というやり取りに「う、ううん。カヨちゃんもい…」と答えようとしたが、振り返ってもカヨちゃんはその場にいなかった。!?え…か、カヨちゃんどこ!?ま、まさか意図的に置いてかれ…

「あーそっか、澤原さん黄色組の応援代表か…」
「!あ、う、うん。浅羽くんも…赤組の応援団やるんだもんね」

青組は確かハッピを着るとか言ってたけど…黄色組はチアガールをやるから自ずと女子はほとんど全員応援合戦に出るんだよね。赤組の応援団やる人を推薦、とかとまた違くて

「…浅羽くんは、どう?応援団の練習。大変、ですか?」
「え?」
「あ、いや、えっと私さっきのチアガールの振り付けの練習大変だったからつい…」
「…ああ、なるほど。まあ、放課後練習あんのとか地味にキツイですかね。今もひたすら腕立てやらされてたし」

腕立て伏せ、かあ…それは辛そう。あの熱血な人がリーダーさん、だから…なのかな?確かに浅羽くん、今もうっすら額から汗が垂れて…

「…澤原さん、」
「な、なに?」
「タオルとか、持ってたりします?」
「タオル…?あ、うん。次黄色組の練習あるから、一応持って…」
「一瞬だけ貸してくれませんか?」
「!へっ…」

「ほら、ワイシャツのまま腕立て伏せなんかやったんで汗でベタベタしちゃって…」と言って、襟元で汗を拭う浅羽くん。…た、タオルって。わ、私の…?私なんかのでいいの、かな…?そりゃ洗濯はしてるし、まだ今日は使ってないけど…。黙りこくった私に浅羽くんが「あ、やっぱダメっていうか嫌ですか?」なんて首を傾げるのに、私はぶんぶんと首を横にふった

「?それは…どっちの意味?」
「え、いや!タオル、貸します!わ、私なんかので良かったら…!まだ使ってないし、もう全然…!」
「?」

「じゃあ、借りるね」と少し不思議そうな表情をする浅羽くんに、私はピンクの水玉のタオルを差し出した。そして浅羽くんはそれを使って首元や額の汗を拭う。っ…な、なんか恥ずかしいというかいたたまれないというか…!な、なんだろこの複雑な感じ。浅羽くんは別にフツーにタオルを借りただけなのに、私ってば何か気持ち悪…

「ー…澤原さんさ、」
「(!びくっ)う、うん」
「最近、忙しそうですね」
「えっ…?」
「……体育祭実行委員、とか」
「あ、うん。もう体育祭が近いから委員会の仕事多くて…」

…浅羽くん、私が体育祭実行委員をやってたこと知ってんだ…!ちょっと、嬉しいなあ。少しだけでも、私のこと見てくれて、知ってくれたことが。自意識過剰だって言われても、やっぱり浮かれてしまう

「あ、あの私…」
「意外、だよね。澤原さんがああやって体育会系の人達に混じって、何かやるの」
「……えっ?」
「ちょっとらしくない、というか。珍しいというか、はたから見たら似合わないというか」

「まあ、クラスの女子がみんなやりたくなかったなら仕方ないですよね。無理矢理押し付けられたならそれも」と言葉を続けた浅羽くんに、私は頭が真っ白になった。…今、何て?なんで、そういうことを言うの?ー…気づけば、私は震える声で言葉を紡いでいた

「…っ…そんなんじゃ、ないよ」
「え?」
「最終的には私がやりたいと思って、立候補したんだもん。無理して、とか…そんなんじゃないよ」
「…澤原さん?」
「それに似合わない、とか…私はそんなこと……」

…確かに最初はそこまでやりたくなかったかもしれないけど、今は違う。やりがいを感じたり楽しんだりしてる。…ちゃんと取り組んでれば、それが自然になるかと思ってた。なのに…

「ー…私は、周りからどう思われてるかとか、気にしてなかったよ。体育祭実行委員をやるの、私がやったら変とかそうやって言われてるなんて…」
「あ、別に周りが実際思ってたり言ってたりは…」
「だとしても…浅羽くんにそう思われていたのは…、ショック、だった」

…何で、こんな刺々しい言葉が出るんだろう。何で浅羽くんを非難するような言葉が出ちゃうんだろう。私は…何に怒ってるんだろう。浅羽くんだって、いきなりこんな風に言われても困るに決まってるのに…

「………ごめん。私、練習に行くね」

浅羽くんの視線から逃げるように私はその場から立ち去った。…何で、上手くいかないんだろ。いつのまにか、浅羽くんの言葉一つ一つに動かされてる自分がいる。何気ない言葉に傷付いてる自分がいる。好きだから、なのかもだけど…無意識にそうなってる自分が情けなくて、ちょっとだけ嫌だった



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祐希くんがそんな風に言ったのは、「(他の男の子と楽しくやってるようで)委員会忙しそうだね」という意味がこもってたという…




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