僕らの答えは君を傷付けるでしょうか?



「いやマジでごめん。またうちのクラス来てもらっちゃって」
「あ、ううん。全然大丈夫、です」
「じゃあ今企画書持ってくるから待ってて」

今日も今日とて体育祭実行委員会は大忙し。また古橋くんの教室へと赴き、私は実行委員会の仕事をしていたりする。…ふう、もう明後日は体育祭だもんね。今が一番忙しくなるのはまあ仕方ないかあ…

「はあ…」
「わあいいなあ〜私も行けば良かったあ〜」
「浅羽くんってああやって普通に話してくれるんだね」
「ね。今までちょっと近寄りがたいなーとか思っちゃってたよ」
「…?」

隣のクラスからざわざわと女の子達の声が聞こえた。…?何か、あったのかな。私はひょいと教室の前の扉から軽く覗きこんだ。すると目に入ったのはー…

「……浅羽、くん…?」

知らない女の子に囲まれている浅羽くんの姿が、そこにはあった。「じゃあ肩幅図るね?」なんて尋ねられ、浅羽くんがこくんと頷いているあたり、どうやら衣装合わせのために寸法を測っているらしい

「あ、浅羽くん、もう少し背筋伸ばしてくれるかな?」
「あー…はい」
「浅羽くん、学ラン姿似合いそうだよね!きゃー楽しみー!」
「浅羽くん応援団には前から興味あったの?」
「いや…あれ千鶴が勝手に推薦しただけなんで」
「……」

…あんな風に、浅羽くんがクラスの女の子と話してるの初めて見た、かも。少なくとも去年のクラスでは…浅羽くん、あんまり集団のなかに自ら行こうとはしてなかったし。私含め皆と、少し距離をあけてたし。…ああやって女の子達と浅羽くんが話している姿は、少し新鮮で。同時に何故か…不安になる

「…っ…」

浅羽くんは、三年生になって変わったのかな。私が知らなかっただけで、こっちのクラスではこうやって皆と話したり賑わったりしてたのかな。…あんな風な浅羽くんを私は知らないし、私が見てきた浅羽くんじゃない。…それが少し悲しくて。寂しくて。あんな風に変わった浅羽くんの変化を、近くで見れる人達が羨ましい。…私も、もっともっと近付きたいのに。私はー…

「?澤原さん、大丈夫?ボーッとして」
「!っ」
「企画書持ってきたよ?」

「いやーいきなり隣のクラスのほうに行ってんだもん。なに?何かこっちのクラスに用とかあった?」なんて首を傾げる古橋くんに、私はあわてて首を横にブンブンと振った。…だ、ダメだ。なんか浅羽くんのさっきの光景を見て、激しく動揺してる自分がいる。…泣きそうになっている私がいる。古橋くんに顔を見せないようにして、私は「あ、ありがとう…」と企画書を受け取ってうつむいた

「?……」
「……」

黙りこんだ私の前で、古橋くんが暫くしてから「…あっ、そうだ」と思い出したかのように手を打つ。?な、何だろう…?

「ー…みほっち、」
「!?えっ?」
「いや、隣のクラスの橘くんだったかが澤原さんのことそう呼んでたから」

「よく廊下で大声で呼んでたりしたから頭に残ってたのかも」と小さく笑い、古橋くんは私の顔をじっと見つめた。…び、びっくりした。男の子に下の名前で呼ばれることなんて、ほとんどないから。なんというか、慣れてないからなのかな?名前で呼ばれて一瞬ドキッとしちゃ…

「俺も呼ぼうかな」
「ー…えっ?」
「みほっちって。なんか、澤原さんって呼ぶよりそっちのほうが良くない?呼びやすいし」



***




「ー…ちょいマズイね」
「マズイ、のか…?」
「マズイに決まってんでしょ橘の目は節穴なのか」
「カヨちゃん相変わらず俺にきつくない?」
「……」

廊下での澤原さんと古橋くんのやり取りを遠目に見守り、千鶴と丸山さんがひそひそと話し合う。…なんというか、いいんですかね。こんな盗み聞きしちゃって。澤原さん達に気付かれないだろうか…なんて思っていれば、丸山さんに「ほら浅羽悠太!なにボーッとしてんの!」と腕を引っ張られた。…痛いです

「古橋もしかしたら気があんのかもよアイツ」
「…そう決めつけるのは少し早いんじゃないですか?」
「でもみほは男子とはあんま普段絡まないしそんな喋らないほうだから、ああやって近付いてくるやつがいるのも珍しいよ」
「えー何でー?」
「普通なら、やっぱちょっと近寄りがたいって思う男子のが多いとこってこと。そりゃ古橋が橘なみの天然バカなら友達として仲良くしたいとかだろうけど」
「カヨちゃんきつい…!」
「…、というか結構はっきり言うんですね。澤原さんのこと」
「ん?」

「近寄りがたい、とか…そういうの」と言葉を続ければ、「ああ、んー…まあね。だってみほもきっと男子にああやってからまれるの慣れてないだろうからビックリしちゃうだろうし。それにみほが男子と距離感あるのは別に悪いことじゃないし」と丸山さんは何でもないように微笑む。ー…丸山さんは澤原さんのことちゃんと分かってるんだろうな。そういう言い方が出来るのも、そういう気遣いが出来るのも友達だから出来ること

「??よくわからなかったんだけど…ゆうたん、どゆこと?」
「つまり、丸山さんは良い人ってことだよ千鶴」
「へっ?」
「ー…まあ、ともかく。古橋はもしかしたらみほにただちょっかい出したいかもだけど…橘達はそれでいいの?」
「へっ?」

話の流れが分からないと頭を抱える千鶴に、「だから、みほと浅羽(弟)にくっついてほしくはないの?」と再度言葉を紡いだ。いたく真剣な目に、俺は少しだけ目を丸くする

「そ…そんなに決まってんじゃん!みほっちとゆっきーはくっつくべき…というか何でくっついてないの?」
「私が聞きたいっての。全く…みほが告白してからもう4ヶ月だよ?普通浅羽(弟)がなんかアクション起こすとこでしょうよ」

「なにをズルズルと…」とぶつぶつ愚痴をこぼす丸山さんは、そのまま俺のほうに視線を向けた

「ー…で?」
「えっ?」
「浅羽悠太君はどう思ってんの?」
「どう、って…」

…確かに、一度は澤原さんの背中を押した。真っ赤な顔をしてチョコの入った箱を抱えたあの子を。「気持ちをちゃんと伝えれば、祐希もなにかしら答えを出すよ」と。けど…今思えばそれはひどく中途半端な手助けでしかなかったかもしれない。澤原さんが自分に正直になったところで、祐希はきっと恋愛に対してどうすればいいか分からないだろうから

「ー……俺は、別に何も思ってないですよ。澤原さんが祐希と付き合うにしても、祐希以外の人と付き合うにしても。当人同士の問題だし」
「…そう言うと思ってた。まあ、私もどっちでもいい。みほが幸せなら」

「だから、」そう呟いた丸山さんは俺と千鶴をきっと睨み付けるように見つめた

「みほと付き合う気ないなら、浅羽祐希にみほをフるように言ってよ。橘たちから浅羽祐希に」
「!?えっ、な、なな何で…」
「だって…可哀想じゃん。浅羽祐希が保留、とか返事したせいでみほの気持ちは振り回されて…」
「…!」
「はっきりさせて、あげてよ…どっち付かずになって辛そうだし。みほはもう、勇気を出したんだから…」

ー…俺がずっと抱いてた罪悪感はこれだったんだろうか。祐希が恋愛に対して苦労して悩んで、そうやって成長していくことを見守りたかった。けど…そのせいで傷付いた子がいる。祐希を主体に考えてて、長い目で…なんて考えてたせいで傷付けてしまった子がいる。…澤原さんのこと、俺は何にも考えてなかった。祐希が恋愛に対してどうすればいいのか分からなくて立ち止まってる間に、澤原さんはいくら涙を流しただろう。どんな思いで祐希の返事を待ち続けていたんだろう

「や、で…でもさ!みほっちもゆっきーもだんだん距離が縮まって…」
「それなら浅羽(弟)も何かしらしてくればいいでしょー!クラス変わっただけで疎遠とか本当…修学旅行なんてあんた達男五人だけで行動とかもう、なんなの?」
「えええ…そ、そこも?」
「周り見てみなさいよっ修学旅行なんてそういうイベントだったでしょ!男女で行動してるとことかあったじゃん」
「マジでっ!?」
「修学旅行後に何組カップルできたと思ってんの?」
「……」

「マジかあ…そういやうちのクラスもちょっと修学旅行以降雰囲気変わった気がしてたんだよな…」とか勝手に落ち込んでる千鶴に、丸山さんが「相変わらず橘達のグループは平和だよね」なんてため息をつく。…確かに、俺たちも祐希も澤原さんの気持ち考えてあげられなかったかもしれない。けど…

「……丸山さん」
「なに?」
「…もう少しだけ、見守ってあげられないですか」
「?ゆうたん…?」
「祐希だって、告白されてから何にも考えてこなかったわけじゃないし…祐希も、澤原さんと同じで苦しんでるし困ってると思う。祐希が初めて抱く気持ちだから」

そう言葉を紡げば、丸山さんは「……まあ、そんなすぐに私も仲介する気はないよ」なんて渋々頷いてくれた。…祐希が、これからどうする気か分からない。けど、もう少しだけ見守ってあげたい。ちゃんと祐希自身で行動しないと意味がないと思うから


−−−−−−
あくまで君を見守りたい

後半は悠太くん視点




戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -