この胸に詰まる黒い蟠りは何ですか?



三年生になって、澤原さんとは別のクラスになった。だからか、あんまり話す機会や顔を合わせることも減って。澤原さんからの告白の返事を保留にした手前、俺たちの関係はひどく曖昧で、そして気まずくもある距離へとなっていた


「やっぱり、障害物走は少なくともあと二人は必要だと思うんだけど…」
「?え、でも今ので足りるんじゃ?」
「…ううん。障害物走はいつもルール違反しちゃう人とかアクシデントも多いし、去年もあんま良く進行出来てなかったから。今のじゃちょっと…」
「マジで?そうなんだ…じゃあアレだ。障害物走の審判は男バスが担当だし、今から増やしてもらうよう頼んでこよっか」
「…えっと、じゃあ私が行ってくるね。ありがとう話聞いてくれて」
「えっ?俺もいくよ」
「あ、でも古橋くんのクラスまだ学級旗作りで忙しそうだし…」
「いやいや澤原さんに任せっきりとかそんなの悪いしさ、俺も行くよ。てか、元々俺が適当に審判の数割りふっちゃったのが悪いし」

「じゃ、行こっか。男バスの部長ってどのクラスだっけー?」なんて澤原さんと連れだって廊下を歩くあれは……一体誰なんだろうか。ぼんやりとそんな二人の背中を見つめる俺の隣で、千鶴が「なにあの爽やかイケメン!みほっちを毒牙にかけて!」と騒ぐ。いや…何ですか毒牙って。ちょ、「ゆっきー気にすんなよ!」とか肩叩かないでくれますかね千鶴?なんかイラッとするんで

「あー…あれはうちのクラスの古橋哲哉くんだね。成績優秀で性格もかなり良い、男子サッカー部部長の」
「何だそのスペック!卑怯だろ!」
「いや卑怯も何もないだろ。普通にすげー良いやつだしアイツ。大体、澤原さんと一緒にいるのも二人が体育祭実行委員だからだろ?」

ー…体育祭実行委員。その名の通り、体育祭を企画から運営までやる委員会。体育祭まではあんま活動もなかったらしいけど、ここ最近は体育祭の準備ですごく忙しくしてるらしい。…だからか、最近澤原さんが廊下をバタバタと走り回ってる姿をよく見かける

「体育祭実行委員会ねえ…いやあみほっちもよくやるよね」
「すごく忙しそうですもんね」
「確かあれでしょ?澤原さんのクラス、なかなか女子の体育祭実行委員が決まらなかったんでしょ?」
「…もしかしてそれで澤原さんが立候補したんですか?」
「らしいよ」
「へえ〜それにしても意外だわー。体育祭実行委員なんて運動部の熱血漢な人達がやる感じじゃん?みほっちよく立候補したなあ」
「……」

ー…別に、意外ではないと思うけれど。澤原さんは、だってそういう人だから。他人がやりたくないこととか、他人が気付かないこととか、そういうのによく気を張ってる人だから。だから体育祭実行委員もきっとー…

「あれ…?そういえば要くん、文化祭の時に比べて忙しくなさそうですね」
「…いや体育祭まで生徒会が指揮ってられねーよ。今回は体育祭実行委員がメインでやればいいだろ」
「うわー要っち無責任!」
「クラス作業抜け出して偵察活動してたやつに言われたくねーよ」
「?祐希…どうしたのボーッとして」
「……別に、何でもない」

…けど、あんな風に男子と仲良さそうに話す澤原さんを俺は見たことなかった。少なくとも去年の同じクラスだった時には。…なんか、三年になって澤原さんはもしかして変わったんだろうか。それとも、俺が知らないだけで元々あんな性格だった?あー…なんだろ、この感じ。もやもやする。ちょっとだけ、胸が苦しい。…もうあんまこのことに関して考えたくない。考えてもイライラするだけ…

「(…イライラ?)」

何で、イライラするんだろ。俺、もしかして今怒ってるわけ?…何で?…カルシウム不足かな。あーそれとも最近ゲームのし過ぎて夜寝るの遅いから?何でこう、イライラするものなのか

「…あー嫌だなあ」
「?祐希くん?」
「何が嫌なの?ゆっきー」
「いや、要みたくカリカリしてばっかじゃ毎日疲れそうだなって」
「あ゛?何でいきなりおめーに喧嘩売られなきゃいけねーんだよ」

「ふ、二人とも喧嘩はやめてください…!」とあわあわと焦る春を尻目に、要はまた容赦なく俺の頭をスパーン!と叩く。…痛い。要ってば相変わらず短気だなあ

「?なに、祐希は今カリカリしてんの?」
「んー…カリカリ、よりはイライラ?みたいな感じかなー…」
「ゆっきーが?へー珍しいね」
「…珍しい?」
「いやだってさ、ゆっきーってあんま感情に波ないじゃん?いつも。怒る時も静かに眉間に皴寄せるだけだしさー」
「……」

…確かに。そう、だけどー…今は原因不明のイライラが俺を襲ってるわけで。…あーもうよく分からない。考えに煮詰まった俺はそのままぐでっと悠太に寄りかかった

「ねー悠太あ…この胸にある黒いの取ってー」
「なにそれ。抽象的過ぎて分からないよ祐希」
「…取ってよ悠太」
「だから無理だって」


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第一部はヒロインが頑張る話。第二部は祐希くんが変化に気付いていく話です




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