「上手くやってけますかね…」



「鍋ってどこにあんのかなー?」
「ああ、鍋ならここにあるよ」
「おっ本当だ!」
「あ、エプロンある〜みほちゃん着てみる?」
「え、いいえ私は…」
「着てみなよみほっち!女の子が着たほうが絵的にいいし、ゆっきーも喜…ぐえっ!」
「あ、ごめん。よそ見してた」
「嘘だ!今絶対わざとぶつかってきただろ、ゆっきー!」
「ー…あの、何でみんな俺の部屋来てるの?」

…東先生がそう聞くのも無理はない。というか、私も聞きたかった。何で学校から直接東先生のお宅にこんな突撃訪問をする展開に…。「決まってるじゃないですか東先生の風邪の看病ですよ!明日までに元気になってもらわなきゃいけないですから」なんて意気込む橘くんや浅羽くんはともかく。私は場違いというか…。あきらさん何故に私まで引き連れていこうと思ったの…!

「あ、あの!私はやっぱ帰…」
「いいのいいのみほちゃん!一緒に看病しよっ」
「いやでも…」
「みほちゃんも死にかけのこーちゃんのこと放っておけないでしょ?ね?」
「それ澤原さんをさりげなく脅してません?あきらさん」
「…でも、恋人でもない女の人がこうも図々しく男の人の部屋に上がるのは、なんか…その…」
「あははみほちゃん相変わらずかたーい!いいじゃん、こーちゃんが無理矢理連れ込んだってことで」
「それが一番マズイだろ!」

ツッコミをいれた東先生に、あきらさんが「禁断の恋だねえ教師と生徒の」なんてけらけらと笑う。え、えっと…なんかやっぱり私は帰るべきなんじゃ…

「いいじゃないですか。澤原さんも手伝ってよ」
「!へっ…?」
「お粥。俺と千鶴だけじゃ作れそうにないからさ」
「……」

…浅羽くんに、頼りにされて…る?私なんかが?…そ、そりゃ浅羽くんとこうも近くにいれる機会なんか滅多にないし。学校以外じゃあんま会えないし。あきらさんに強制連行されたってわけなら、私が此所にいても状況的におかしくないのかな…?なんて。へんに卑しいことを考えてる自分が嫌だ。…何で私、浅羽くんのことになるとこうも自分勝手な計算ばっか早いんだろ…

「?みほっち、なに落ち込んでんの?」
「…え、えっとその…私も少しだけ東先生の看病に貢献していい、かな?」
「えっ当たり前じゃん。お粥一緒に作ろうぜー料理はやっぱ女の子頼りたいし」

…クラスの男の子二人と、私が学校の先生の家で料理をしている。なんか…不思議な状況だなあ。そんなことをぼんやり考えたまま、私は橘くんと浅羽くんとお粥作りの作業に集中した。三人並んでガスコンロの前に立ち、お米を鍋に一合ぐらいの量と水も入れてグツグツと火をかけた


「ー…そろそろ、いいかな?」
「じゃあ俺味見する!」
「味見とか言ってほとんど食べたりしないでよ千鶴」
「するか!…って、んん?うーん…」
「橘くん?」
「なんか、あんま美味しくない…」
「えっ?どれどれ…ああ味がないね。他に何かいれよっか」
「あ、でもお粥だからあとは塩足すぐらいで…」
「とりゃーっ!」
「「「!??」」」

三人が少し目をはなした隙に、あきさんが鍋を自分のほうへ引き寄せ、そしてなんと缶ビールを鍋へとジョバジョバと次々入れ始めた。えっ…えええあきらさん…!

「バ、バカ!なにお粥にビール入れてんだよ!」
「えー?だって卵酒もお酒入れるじゃん」
「え、えっと卵酒はあれ厳密には違うんじゃ…」
「ビールって元気になる成分とか入ってるんですか?」
「浅羽くんそこじゃないよ問題は…!」
「まあまあ落ち着いて君たち。…大人はさ、何か辛いことある度お酒に助けられてきたんだから」
「ツッコミにくいわ!」

…お酒入れるにしても、こんな適量の水を入れたお粥にぶっかけれたら…うーん、どんな味になったんだろう。いや、それにしたってもうこれは普通のお粥じゃなくなったわけで…

「えーもうどうすんの?ぜってえ不味いよこれ…」
「風邪ひくと味分からなくなるらしいから、ここはこーちゃんの風邪が治らないことを祈ろっか!」
「誰が祈るか!!」
「んー…あっそうだ。じゃあさ、他の調味料で味を調えてあげればいいんじゃない?」
「おおなるほど!それならさっきのビールも誤魔化せ…」
「あきらさん!それソースです!ああっそれ山葵ですし!」
「味付け味付け〜♪」
「お前もう帰れ!」

もうあきさらんは誰にも止められない…。次々に色んな調味料をお粥にぶっこむあきさらんにはむしろ狂気すら感じた。ニコニコ笑顔でまるでおままごとみたいな感覚で調理するあきらさんに、私は一瞬気が遠くなった気がした





「ど、どうぞ…」
「……」
「…も、もう一回火ぃ通しましょうか」
「いい…爆発しそうだから」

結果、出来上がったお粥は最早真っ黒になっていた。白米のお粥なのに何故。どんな調味料を入れたのか、最終的にあきらさん以外は誰も把握していなかったりするのが怖い。私は東先生の前にお粥を差し出しつつも、既にそれを三角コーナーに捨てたい気持ちでいっぱいだった

「先生、これ味付けはほとんどあきらさんが担当したんですよ」
「うん分かる…あいつの腹ん中と同じ色してるもん」
「さあ、こーちゃんっ。遠慮してないで、じゃんじゃん召し上がれっ♪」
「遠慮するわ!」
「あ、あの味見はその、しようとしたんですけど…」
「流石に澤原さんを死なすわけにいかないんで止めました」
「いや〜みほっちは度胸あるよなあ。俺やゆっきーは味見する勇気もなかったもん」
「……」

だ、だって一応人の口に入るものならちゃんと責任持たなきゃなって…まあ、私も実際これを食べたらすぐに腹痛で倒れるか吐くかしてしまう気がするけど…。お粥をじっと見つめ汗をたらたらと流し、スプーンを持つ手を止める東先生に心底同情してしまった

「……」
「あ、東先生やっぱりこれ捨てて…」
「ふーん、そっかあ。せっかく自分の生徒達がこーちゃんのために作ってくれた手料理なのに、こーちゃん食べないんだ」
「!!…」
「い…いやいやいや!先生いいですから!無理しなくていいですから!」
「東先生流石に…!」

あきらさんのその一言に動かされ、お粥を食べようとする東先生は最早教師の鏡だと思う。私と橘くんが必死で東先生を説得するも、東先生はそれににこっと明るく微笑み返してくれた

「ははっ無理なんかしてないよ。見た目はちょっとあれだけど…三人の気持ちは伝わってくるよ。ありがとう」
「先生…」
「東先生…!」
「千鶴に澤原さん泣き所が違いやしませんか」
「はーやーく!早く食べてこーちゃんっ!」
「だ、だから食べるって!自分のタイミングで!!」



**



「良かったあ〜こーちゃん全部食べてくれて」
「本当に良かったな…これが先生の最後の晩餐にならなくて…」

東先生がまさかあの真っ黒なお粥を全部食べてくれるなんて…。私はますます具合が悪くなった様子の東先生にひたすら「すみませんすみません」と頭を下げた。…東先生は果たして明日のお見合いに行けるのかな…明日は風邪ぷらす腹痛の二重苦なんじゃ…

「?澤原さん、なにキョロキョロしてるんですか?」
「えっ?あ…、えっと東先生辛そうだから、代わりに洗濯物畳みとか掃除とかやろうと思ったんだけど、なんか部屋のどこ見ても綺麗に整理整頓されてるから…」
「…まあ確かに特別手伝いやる必要なさそうだよね。こうも完璧じゃ」
「…男の人の部屋って、こんなに片付いてるんだね。なんか意外」
「ん…まあ人によるとも思いますが。澤原さん初めてなんだ?男の部屋に入るの」
「!えっ…あ、浅羽くんは女の子の家行ったことあるの?」
「んー…?ないかなあ。ああ、要の隣のお姉さんの家ぐらい?」
「そ、そっか…」

「じゃあ、お揃いだね」と微笑めば、浅羽くんは「そうですね」とこくりと頷き少し口元をゆるめた

「あ、なになにお二人さん。いい感じじゃんないー?」
「!っ、あきらさん…!」
「いやあみほちゃんは相変わらず箱入り娘だねえ。もういっそのこと好きな男の子の家とかいっちゃえば?お泊まりデートとかさ」
「!?っ…」
「チョ、チョコバナナお前本当空気読めえええ!」
「……」

ほ、本当にあきらさんはたまに何か、色々壊していくっていうか…!発言が大胆過ぎて困る…!わーわーと怒る橘くんに、意味が分からないというように首を傾げるあきらさん。そしてそれを横目にため息をつく浅羽くん。なんというか…カオス…!「ちょっと、みんな静かに…」と頭をおさえる東先生に私は心のなかで謝罪をした

「…ところでもうこんな時間だけど、澤原さん大丈夫?親御さん心配してない?」
「!あっ…!」
「あー…澤原さんの家、門限とかありますもんね」
「へえーそうなんだ。流石ゆっきー知ってるね!」
「千鶴うるさい」
「ごめんね澤原さん。こんな遅くまで僕のために…家まで送ってこうか?」
「だ、大丈夫です。東先生風邪引いてるし、そんな無理させるわけには…」
「大丈夫だよーっ!みほちゃんのために迎え呼んだんだから」
「えっ…?」
「「「…迎え???」」」

ニコニコと笑顔のあきらさんにそんな反応をした次の瞬間、突然バン!と玄関のほうで扉の開く音がした。そしてドタドタという足音が近付いて…

「みほ無事か!??」
「「「!?」」」
「!えっ…」

1人の男性が、部屋まで押し掛けてきた。はぁはぁと荒い息を吐き、スーツ姿の彼は私のもとへ一目散に駆け寄る

「晃一てめえ!みほを自分の家に連れ込むたァどういう了見だ!教師のくせして!」
「!しゅ…俊!?」
「お…お兄ちゃん!?」
「!?ええええっ!」

な、何でお兄ちゃんがここに…。びっくりする私の肩をぐらぐらと揺らし、「大丈夫か?晃一になんかされてないか?」なんて声を震わせた

「しゅ、俊お前何で…」
「僕が呼んだのー。みほちゃんがこーちゃんの家にいるから迎えに来てあげてって」
「あ…みほっち?こ、の人は…」
「…えっと、私のお兄ちゃん…です」
「それでこーちゃんと僕の高校の同級生っ澤原俊介って言うんだよ」
「ええええ!」
「…だから澤原さんとあきらは知り合いだったのか…」
「この前俊ちゃんの家に飲みに行ったらみほちゃんがいてねー大変だったんだよ?俊ちゃんが酔っ払ってみほちゃんをハグしたまま離れなくて」
「……」

「…澤原さんのお兄さん、シスコンなんですか」とぼそりと呟いた浅羽くんに苦笑い。シスコン…なのかな。ど、どうなんだろう確かに過保護だけれど

「晃一お前高校ん時は真面目なやつだったのに…今や女子高校生をこうしてたぶらかして家に連れ込んで…マジで問題なんじゃねーの教師失格だろ」
「いや違う!俊、誤解だってそれは!」
「まあそこはPTAやらに対処任せるとしてー…俺の妹に手出そうとした罪は重いぞ?晃一ィ」
「いやいや!ちょ、待て!俊お前話を聞けって!」
「やっちゃえ俊ちゃーん!」
「「……」」

ボキボキと手を鳴らすお兄ちゃんに、橘くんが「みほっちのお兄ちゃん怖えええ…!」と身体を震わせる。…どうしよう、こうなったお兄ちゃんを止められる気がしない…東先生とあきらさんは同級生だけあってお兄ちゃんも遠慮ないだろうし…!

「あ、浅羽くん橘くん、とりあえずあの…」
「…こんなお兄さんじゃ俺、上手くやってけるしないなあ…」
「…へっ?」
「おらー!歯ァ食いしばれ晃一!」
「わー俊ちゃんカッコいいー!」
「チョコバナナお前止めろよ!」


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カオス…!キリトリセン番外編でギャク色強めなお話でした
ちなみに原作通り、後日東先生のお見合いは失敗したそうです笑。




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