ちょっとだけ考えてしまいました



◎悠太視点。原作の祐希千鶴の喧嘩の話の時



千鶴と祐希が喧嘩したらしい。…原因は些細なことだけど。ちょっとした口論から意地張って、お互いどう収集つけたらいいか分からなくなって。まあ、男子高校生ならよくある話。ー…だけど、祐希にとっては珍しい話。だって祐希には今まで喧嘩するような友達がいなかったから。付かず離れず、祐希は今までそんな感じで周りと接してきたから。祐希が誰かと喧嘩するなんて、多分初めてのこと

「千鶴くんと祐希くん、仲直りできたかなあ…」
「あ?まだ言ってんのかよ。ほっとけほっとけ」
「……」

春は相変わらず友達思い。どんな小さな問題にもいつも真摯に心配してくれる。から、今回のことですごく悩んでくれてるみたい。(祐希達は幸せものだなあ)。対して要はもう、心の底からどうでもいいみたい。…まあそれも一つの友情かなとは思うけど。介入されるのが嫌な人間もいることだし、要は利口なやりかたしてると思う

「(…俺は、祐希が千鶴とどう仲直りしたらいいのか不器用にも一生懸命考えてるのを見て、なんとなく嬉しいんだけどね)」

兄として。祐希のそういう成長の邪魔はしたくないし。見守る側に今回は徹しようと思う。…少し厳しいかなとも思いますが

「?悠太くん、どこ行くんですか?」
「…ちょっと飲み物買いに行ってくる。祐希が来たら二人とも相手してあげてね。いつもより落ち込んでるだろうから」
「…おう」
「分かりました。いってらっしゃい」
「うん」




**





「…あれ?浅羽くん…?」
「あ、」

昼休み、一階の自販機の前にて。偶然にも澤原さんと鉢合わせをした。…なんかクラス違うからか、少しだけ久しぶりに会う気がする…。俺は彼女のくりくりとした瞳をじっと見つめ、「どうも、お久しぶりです」と軽く頭を下げた

「こ、こちらこそ。お久しぶりです」
「……」

祐希達と同じクラスの彼女は、祐希に恋する女の子で。同時に、祐希の片思い相手。…つまりは、二人は両思い。だけど、お互いに恋愛に不慣れな性格らしく、まだ付き合う状況にはいっていないという…まあ、千鶴いわくじれったい二人なわけだ

「?浅羽くん?」
「…ああ、すみません。どうぞ先に買ってください」
「?う、うん…」

先に来てたの澤原さんだし。俺は一歩下がって、自販機に向き合う彼女の背中をぼんやりと見つめる。すると、急に澤原さんが自販機に小銭を投入しながら「あ、そういえば…」なんて俺のほうを振り返った

「あ、あの浅羽くんと橘くんって喧嘩してるんだよ…ね?」
「…!」

「…気付いてたんだ?」と聞き返せば、澤原さんは「なんか、いつもと様子が違うなって思って…」とやんわりと苦笑いを浮かべていた。…ふーん、クラスの女の子に気付かれるなんて。二人の喧嘩も思ったより深刻なのかな。いや、それとも澤原さんが祐希のことをよく見て…?

「じゃあ、浅羽くんも塚原くんも松岡くんもみんな知ってたんだ…」
「まあ、一応は」
「よ、良かったあ…」
「え?」
「!あ、ご、ごめんなさい!えっと、あんまり仲直りする兆しがなかったから松岡くん達気付いてないのか、あえて見守ってるのか私分からなくて…」
「…ああ、なるほど」

「松岡くんなら、介入してでも仲直りさせそうかなとか思ってて…な、なんかごめんなさい。私勝手に…」と頭を下げる澤原さんに、俺は「そんな。別に澤原さんが気にすることじゃないですよ。というか、元々悪いのは祐希と千鶴だし」と言って俺は頭を上げるように頼んだ。…やっぱ、澤原さんは春と同じタイプの人間なんだな。優しいあまり心配性というか。気にかけてくれて、本当にありがたいけれど。澤原さんのほうが逆に気に病みそうで心配だ。俺が「俺は、敢えて見守るって選択肢でいこうかなと思いまして」と伝えれば、澤原さんは納得したように頷いた

「それなら良かった…。浅羽くんと橘くん、早く仲直りしてくれればいいですね」
「…そう、ですね」
「…?浅羽くん?」
「あ、いや澤原さんはどう思ってるのかなって」
「えっ…」
「二人の喧嘩。澤原さんなら、どんな選択肢を取るのかなって」

なんとなく、気になって。春と同じタイプの澤原さんなら、介入してしまうんだろうか。いや、むしろ介入した後なのだろうか。そう尋ねた俺に澤原さんが出した答えは、俺の予想は遥かに裏切った

「喧嘩は、両成敗です」
「…え?」
「どちらもどっちだから。仲直りも当人同士でしなきゃ、意味がないです」
「………」

澤原さんて……変に固いなあ。喧嘩両成敗、だから介入も助けにも入る気はないと。そういうことなんだろう。いや、澤原さんってこんな厳しい一面もあるのか…祐希が知ったらかなり吃驚するだろうなあ…。「…そっか」「ご、ごめんなさい偉そうに…私、間違えてたりしちゃってます、か…?」「いや、澤原が出した答えだし。俺も傍観派だから、正しいと思いますよ」とやり取りをしつつ、俺は財布から小銭を用意してお…あ、小銭ないや。お札でいっか…って…

「…五千円札…」
「えっ?」

財布のなかが五千円だけじゃ…自販機は通らないや。仕方ない諦めよう。飲み物は今日は我慢しよう。くるりと向きを変えた俺に、後ろから声がかかる

「はい?」
「私、今小銭ならたくさんあるので。ついでに買いますよ?」
「え…?いや、でも…」
「今、話を聞いてくれたお礼に。…なんなら、明日以降にでも返してもらえればそれで大丈夫だし…」
「……」

…澤原さんは一度決めたらあまり考えを曲げない人だって、祐希が言ってたしなあ、前に。ここはご好意に甘えよう…。その提案にのる意思を伝えれば、澤原さんはありがとうにっこりと微笑み返してくれた

「えっと、浅羽くん何が良い…?」
「え?」
「飲み物。もうお金入れたから、私ボタン押しますよ?」
「……」

何が、って…適当に選ぶ気だったからない、なあ。ー…昨日の部活の時も思ったけど、食べ物にしてあまり好みといえるものがない自分は、なんてもつまらない人間だななんて感じてしまう。押し通す好みが全くないのは、味気なくて少し寂しい。…って、こんな自販機の飲み物ごときお茶でもジュースでも何でもいいんですが…

「?特には決まってない感じ、ですか?」
「……あ、まあ、そんな感じ」
「?そっかあ」

ポチっ。澤原さんが押したボタンは、何故か3つ。指を器用に伸ばし、3つのボタンを同時に押した澤原さん。…当然、一つ分の値段しかいれてなかった自販機はその内のランダムに一つの飲み物をゴトンと落とした

「あ…」
「決まらない時、こうやったりしない?運任せというか」
「運、任せ…」
「何でもいいやって時は、逆に何になるか楽しんだりして。くじ引きみたいな感覚というか」

「今は運任せにやったら午後の紅茶になっちゃったけど…ごめんなさい、浅羽くんこれ嫌いかな…?」と控えめに聞いてくれ澤原さんに、俺はぷっとつい吹き出してしまう。ー…逆に楽しむ、か。ぷっ…なかなか面白いことを言うなあ澤原さんも

「??あ、浅羽くん?」
「…あ、いや。ごめん。ちょっとつぼりました」

くすくすと笑い声をあげる俺に澤原さんは不思議そうな表情をして首を傾げる。ー…なんだか、祐希が澤原さんに惹かれた理由が分かった気がする。…澤原さんなら祐希みたいな人間と真っ直ぐ向き合えるだろうし、澤原さんが相手なら祐希もちゃんと関わっていけると思う、なんて。お兄ちゃんは少しだけ、弟が恋してる女の子に好感を抱いてしまったのです。不覚にも。だって「…大丈夫です、嫌いなものなんて特にないので」と答えた俺に、彼女は「そうなんだ、好き嫌いがあまりないって良いことだよね。どれも美味しく飲めるってことだから」とにっこり微笑んだのですから


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10巻の悩む悠太くんを見ていられず執筆してしまいましたヽ(;▽;)ノ

悠太くんが「特に趣味とかないんだ」とか言っても、「それは何でも楽しめるってことだよね」と笑い返してあげられるような、そんなヒロインさんと悠太くんのお話でした


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