キューピッド達は時々お節介です



◎要視点/後日談


「…そうだよねえ。蜜柑の白い部分取ってから食べる人なんていないよねー」
「ね」
「というか、取る意味ないよね」
「…そういえば昨日テレビで見たけど、あの白い部分って栄養あるらしいよ」
「え、マジすか。じゃあ取らないでいいじゃん本当に」
「栄養って…何の栄養が入ってるんですかね?」
「えー知らない。多分ビタミンなんたら?」
「とりあえず結論、白いのは食べとけばいいよってことだね」
「……」

休み時間。あまり人気のない廊下。そこで大の高校生がこんなしょうもない内容の会話をする。…なんつーか、どうしようもないなコイツら。いや、俺もか。…それに、今は俺ら五人だけじゃない

「…ねえ、澤原さんはどう思う?」
「え、えっと…私もやっぱり蜜柑はそのまま食べる、かな…」
「だよねー」
「あー女の子もそうなんだー。じゃあますます白い筋取って食べる層なんてないじゃん」
「あ、でも几帳面な人とかはいちいち白い筋取って食べるかも…」
「例えば?」
「…東先生、とか…?」
「あー分かるかも」
「確かに取りそうですね」
「……」

…そう、今は澤原さんがいる。オレ達の5人の輪に、また1人増えたんだ。同じクラスの女子の澤原さんが。…彼女が何でこんなオレらと一緒にいるのか。答えは簡単だ。あのアホザルが澤原さんを連れてきたからだ

「はい、澤原さんどーぞ」
「あ、ありがとう…」
「……」

祐希に蜜柑を何粒か渡され、澤原さんは頬を赤く染める。…なんつーか、誰から見ても澤原さんの気持ちは一目瞭然だ。いちいち行動が挙動不審過ぎる。祐希と澤原さんの隣にいるオレらが気まずく感じるくらいに

「(…やっぱ、アレか。祐希のやつまだなのかよ…)」

…直接祐希に聞いたわけじゃねーけど、祐希とはいつも一緒にいるんだ。変化ぐらい幼なじみのオレらには分かる。…2月14日の翌日からだ、祐希が少し澤原さんに対して態度を変え始めたのは。少しだけ、優しい目をするようになった。言動が柔らかくなった。…多分だが、バレンタインデーに澤原さんがチョコでも渡したんだろう。それで祐希も澤原さんを意識するようになった。そんなところだろう

「……」

…だけどまだ、付き合うまでには至っていないらしい。同時に祐希がフったわけでもないらしい。…すごく微妙なところだ。いくら幼なじみと言っても、友達の恋愛にまで首突っ込みたくはないし。悠太も春もきっとそう思ってる。…けど、あの小ザルはどうも違うようで。早く二人をくっつけたいらしい。余計なお世話だろうに

「みほっち、はい蜜柑!」
「あ、でも私いっぱい食べたし…」
「いーのいーの!蜜柑ならまだまだあるからさ!それ、ゆっきーと半分こして食べてよ」
「?う、うん…」
「……」

……露骨過ぎんだろ。なんだアイツやっぱ馬鹿だな。ハァとため息をつきつつ横を見れば、悠太も同じように呆れていた。…悠太なんて「これは祐希の問題だから、いくら兄でもあんま踏み込みたくないんだよね」とか言ってたのに。1人のアホのせいで悠太の思いは台無しである。…大体、祐希も澤原さんも第三者の介入があって触発されるタイプじゃねーだろ明らかに。…あの二人はなんやかんやで似てる。二人ともある意味マイペースな性格なんだ

「?どうしたの要っちにゆうたん。元気ないね?」
「お前のせいだアホ」

小ザルの頭をバシンと叩き、俺は「とりあえずお前は悠太に謝れ」と一言。それにワケが分からないというような顔をする小ザルに、悠太が「……あーもういいよ。千鶴が男女の機微が分かると思えないし仕方ないから」と淡々と言い放つ

「?変な要っちとゆうたん」
「(頭ん中変なのは小ザル、お前だけどな)」
「あ…そういえばさ、みほっちー」
「?な、なに?」
「みほっちって何でゆっきーと一緒に帰んないの?」
「!えっ…」
「彼氏彼女なら放課後デートは当たり前でしょうが!」
「!っ…」
「「「!!」」」
「……」

「もう二人とも十分仲良いんだしさあ〜!」なんて笑うアホザルを、再びバシンと強めに叩く。珍しく悠太と春も少し怒っているみたいだ。いや本当マジかこいつ。二人ともまだ付き合ってねーんだよ察しろ…!

「ち、千鶴くん!ダメですよ…!」
「千鶴さあ…本当空気読んでよ。逆効果だってそれ」
「え?…え?え?」
「マジでお前ってアホだったんだな」
「な、何が?皆何怒ってるの?皆も気になってたでしょ?」

…そ、それはまあ…気になってたけどよ。俺は人知れず心のなかで小ザルに同意しつつ、問答無用とそいつの頭をグイグイと下へ押した。そして顔を真っ赤にした澤原さんの顔色を恐る恐る窺う

「え、えっと、あの私……やっぱり塚原くんと松岡くんと橘くんと浅羽くんと一緒に帰ったほうが、浅羽くん的にも良いのかなって…」
「だから浅羽くんだと紛らわしいからやめてって言ったのに」
「……ゆ、祐希くん的にも良いのかなって思って」

祐希にツッコミをいれられた澤原さんは言葉を直し、たどたどしくそう呟いた。…あーまあ俺らはずっと一緒にいるからなあ…澤原さんが気ィ使うのも無理ないというか、俺たちのせいというか…

「…澤原さんはさあ、」
「う、うん」
「オレと二人きり、嫌なの?」
「!そ、そんなことは…」

ない、けど…と一言、澤原さんは顔を俯かせた。祐希も祐希でそんな澤原さんの返答を待ったまま、じっと見つめ黙るばかり。…………あー!何だこの気まずい雰囲気!ふざけんな小ザル!どうしてくれるんだ!

「あ…あの!それなら澤原さんも僕達と一緒に帰りませんか?」
「…は?」
「へっ?」
「え」
「しゅ、春ちゃん?」
「!松岡くん…」
「なんならお昼休みもボク達と一緒に食べましょう!ね?」
「……あのな春、お前…」
「え?何ですか?」
「春、それじゃ何の解決にもなってないよ」
「…まあこうやって他人の色恋沙汰に首突っ込んでること自体、間違ってるんですけどね」
「!ゆ、ゆっきー悪かったって!ごめんごめん!」

ー…何とも奇妙なやり取りで、そのうえ俺たち4人と澤原さんは不思議な関係にある。だけど、俺も悠太も春も小ザルも、みんな祐希と澤原さんが付き合うことになればいいんじゃないかと考えていることは同じで。皆が皆、お節介で世話焼きなキューピッドと化していることは間違いないだろう


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早くくっつけよ、と思いながら何も出来ないししないほうがいいと悟る幼なじみ達




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