結局ぼくは愛をうたうのです



「…お前よくそんなに甘いものばっか食えるな」
「ん?」


「昨日女子達からチョコたくさんもらって食ったんじゃねーのかよ」なんて言って、要は少し不機嫌そうな顔をする。え〜…甘いものは別腹って言うじゃん。…まあ要は昨日要のお母さんからたくさんのチョコ食べさせられたから、仕方ないか。オレは持っていた袋からミルクキャンディーを一つ悠太に手渡し、自分も一つ口に放りこんだ。…うん、やっぱり甘くて美味しいなあ。適度な甘さについ綻んでいると、悠太に肩をポンと叩かれた


「…祐希、ちゃんとホワイトデーお返ししなよ?チョコくれた子達に」
「え〜でもホワイトデーってまだ先でしょ?それまでには残ってないんじゃないかなあ」
「誰もそのミルクキャンディーあげろって言ってねーよ。祐希お前、返す気ねーだろ」
「ん…ああ、そうだ。春と千鶴も飴食べ…」


袋の中に残るミルクキャンディーは3つ。そのうちの飴を2つ手に横を見れば、項垂れる春と千鶴。どうやら何も聞こえていなかったらしい。…やっぱり2月14日が明けた次の日は、色々変化があったようで。春は昨日他校の女の子に告白されてたし、千鶴は…まあ茉咲とどうせ何かあったんだろう。いやはや、恐るべしバレンタイン


「んで?お前ホワイトデーマジで無視する気なのかよ」
「だって返すって言ったって全部名前なかったも…」
「?どした?」
「…1人、例外がいました。勇気を表彰すべき相手が」
「は?」
「あ、ほら!浅羽(弟)いるじゃん!挨拶すれば?」
「えっ?ちょ、カヨちゃん…!」
「あ」


騒がしい声にふと視線を要から移せば、澤原さんと丸山さんがいた。丸山さんが澤原さんの背中を思いきり押して、オレの目の前に彼女をつきだす。…丸山さんって豪快だよね。澤原さんと性格が正反対なのに親友というところがまた面白い。「塚原、ほら空気を読んで消えて」「は?なんだ消えてって!ふざけんな」なんて既に丸山さんと要、喧嘩してるし。オレは横にいる悠太や千鶴や春の視線を感じつつ、彼女に話しかけた


「澤原さんもう帰るの?」
「!っ…う、うん。今日は部活ないから…」


…なんか昨日の今日で少し恥ずかしいけど、それは告白した澤原さんのほうがそうなんだろう。だから、オレは平常心を保たなくちゃいけない。けど、顔がトマトみたいに真っ赤な澤原さんを目の前にしてつい笑みがこぼれてしまう。…そんなんじゃ意識されてんのバレバレだし、周りにもバレちゃう気がしますが。ほら、隣の悠太なんて何か笑ってるし。春は昨日自分が告白された時のこと思い出して、照れてるし。千鶴は…ん?何でか落ち込んでるなあ


「?あ、あの…?」
「…あのさ、手出してくれます?」
「へっ?」


首を傾げた澤原さんの手に、ミルクキャンディーをひとつ乗せる。それをまじまじと見つめ、俺の顔を小さく覗きこむ澤原さんに今度は俺が首を傾げる


「あれ?もしかしてミルクキャンディー嫌い?」
「ち、違うけど…えっと、何で私にコレを…?」
「あー…やっぱりダメ?バレンタインのお返し、コレじゃ」
「!!」


ますますカアアッと顔を赤くした澤原さんに、丸山さんが「…あはは、良かったじゃん。お返しとしては私だったらいただけないけど」と大きく笑って彼女の肩を叩く。…余計な一言ですから、それ。そう思ったが要にも「お前なあ…」なんてため息をつかれてしまった


「アホ、お返しすんのは普通ホワイトデーとかだろうが」
「え〜だって来月なんかじゃ忘れちゃいそうだしさ」
「……まあお前なら忘れかねないけどよ」
「悠太、こういうことでしょ?」
「うーん…正解からは結構遠いかな」
「え、そうなの?」
「あ、あのっ!」


悠太とそんな言い合いをしていれば、突然の澤原さんの言葉。それに「はいはい、何でしょう?」とつい子どもに言うような言い方で話を促す。それに澤原さんはミルクキャンディーをぎゅっと握り締め、にこりと照れ笑いを浮かべた


「あ…ありがとう!すっごく嬉しいです!だ、大事に食べるね…!」
「!……」


…うわ、何だろう。すごく頭撫でたくなる、子犬みたい。澤原さんってこんなに可愛かったっけ?、なんて。やっぱり距離が近くないと分からないこともあるのかもしれない。そんなことを考え、つい「…ご主人様に餌を与えてもらって喜ぶ子犬みたいですね」と呟けば要と丸山さんに叩かれた。痛い


「アホ!お前は澤原さんに何言ってるんだ!失礼だろ!」
「浅羽あんたねえええ!何で女心がわかんねーんだバカ!喧嘩売ってんのか!」
「…言い方が悪かった?」
「当たり前だろ!んなこと言われて喜ぶ人間いねーよ!」


…そっか。オレにとっては誉め言葉のつもりだったんだけど。子犬みたいで可愛いねって。目をつり上げて怒る要と丸山さんを隅に、俺は澤原さんの顔をグイッと覗きこんだ


「じゃあ言い方を変えるとですね…可愛い、ですよ。俺から見たら澤原さん、すごく」
「!っ…」
「…うわお」
「ゆ、ゆっきいいい!んなもん公の場で言う台詞じゃないだろお!見せつけるな!」
「いたっ」


……何をしても叩かれるんだけど。どういうことなの一体。というかとりあえずこれでホワイトデーの件は大丈夫なんだろうか、なんて。オレがあげたミルクキャンディーを大事そうに持つ澤原さんを見たら、そんな疑問も吹き飛んだ。…早く君にこの言葉を伝えられたらいい。オレと彼女の距離が縮まった時、オレは君に「好きだよ、」って笑ってあげたいんだ


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バレンタイン後日談。原作とほとんど同じシナリオです
今までありがとうございました!





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