好きはだんだん大きくなります



『浅羽くんは、その…今好きな人とか、いますか…?』
『……いない、ですけど』
『じゃ、じゃあ彼女とか…欲しいと思います、か…?』

……驚いた。もちろん澤原さんがオレのこと好きって言ってくれたのもだけど。普段大人しい性格の澤原さんが、こんなに大胆に踏み込んでくると思わなかったから

「(……スゴいよなあ、)」

澤原さんのくりくりとした瞳から零れ落ちる涙を拭いながら、そう感じた。…オレみたいに何考えてない人間に告白するって、なかなか出来ることじゃないと思う。だって、実際好きな人もいないし彼女欲しいとかもあんま思わないし。こんな曖昧な返事をする男、普通に嫌だと思う。どうせならちゃんとした理由並べろよ、みたいな。オレだったら自分みたいな人間に絶対に告白なんかしない

「…ごめん、ね。勝手に告白しといて泣いちゃって…」
「……いや、大丈夫。というか、誤解のないように言っておくと告白してきてくれたのは嬉しいよ普通に。チョコも、オレ好きだしね」

男なんだから、女の子に告白されて意識しないやつはいないと思う。暫くその女の子のことで頭が埋まるに決まってる。…しかも、澤原さんは普通に良い人だし。例えるなら春以上のお人好しで、悠太以上に周りに気を張ってるような。澤原さんはそんな人だとオレは思ってる。そんで、オレはそんな澤原さんに良い印象しか持っていない。だからオレも、これでも結構嬉しがってる…つもり

「……」

…でも、付き合うとなるとまた別問題で。本当に好きじゃないと了解の返事なんかしちゃいけないと思うから。だって下手にOKしたって、それは澤原さんにも失礼だし。結果的に澤原さんを傷付けることになるから

「(…好き、か…)」

澤原さんとそこまでよく話したことはないけど…でも、他人とまでいかない。同じクラスだからってのもあるけど、オレは澤原さんのこと見てる機会が多い気がするんだ。なんというか、彼女はよくオレの視界に入ってくる。…だから澤原さんが色々クラスの人達が見ないようなとこで、気配りしてくれてるのも知ってるし。例えばー…朝とかクラスの配布物をいつも教室に持って来てくれてるの澤原さんだし、週番がやり忘れてたら黙って黒板消しとか進んでやってくれてるし、掃除の時なんて最後に必ずごみ袋持って行ってくれてるのもそうだし…

「…挙げるときりないかも、」
「え…?」
「あー…えっと何て言うか、オレは普通に澤原さんのことスゴいよなあって思ってるわけですよ」
「??…わ、私はスゴくなんかないよ」
「いや、スゴいよ。実際オレには真似出来ないし」

…ああ、何か上手く伝わらなくてもどかしい。見返りも求めないでそういう行動が出来るのは、澤原さんが優しい人間だからだ。で、澤原さんのそんな良いところをオレは知ってるわけで。クラスの男子のなかじゃオレが一番、澤原さんのそういう優しさを知ってるんじゃないかなと思う。多分だけど。…オレは、それを伝えたいだけなのに。上手く言葉に出来ない。何でだろう?

「?浅羽、くん…?」
「……澤原さんは、千鶴のことどう思ってる?」
「え?」

さっきからオレ話が唐突過ぎだ。…何やってるんだろオレ、なんか変だ。「橘くん?橘くんは…友達で、それに良い人だなって思うけど…」と返す澤原さんに思わず安堵。…告白してきたんだから、澤原さんはオレが好きに決まってるのに。何確かめるようなことしてんだろう。大体、千鶴は茉咲が好きだから変な心配もいらないのに

「えっと…でもさ、澤原さん千鶴と仲良いよね」
「?う、うん男子の中では一応…」
「…オレは澤原さんが千鶴と仲良くしてんの、あんま見てて嬉しくないんですけど」
「!えっ…」

子どもじみた独占欲に、言いたいことがぐちゃぐちゃ。曖昧な返事しておいて、何様。…もしかして澤原さんと付き合いたいとか思ってんのかな?オレ。自分で自分がどうしたいのか分からない

「……」

…これでもしオレが告白を断ったら、オレと澤原さんはどうなるんだろうか。場合によっては、またいつも通りのクラスメイトに戻れるかもしれない。けど、澤原さんはー…なんというか、そういうタイプの女の子に見えない。告白してフラれたことに気まずくなって…オレや千鶴や要にさえにも近付かなくなるんじゃないだろうか

「…ごめん」
「!あ…だ、大丈夫だよ!私が勝手に気持ち伝えたかっただけで…」
「いや、そういう意味じゃなくて。何というか、まだオレ自分がどうしたいのか分からないみたいで。澤原さんとはその…仲良くしたいんだよね」
「…?よくある、お友達でいよう…みたいなこと、ですか…?」
「うーん…それとも少し違う気がする」

「オレもよく分からない。混乱してるんだと思う。でも、ずっと友達でいたいわけじゃない」と正直に心のうちを話す。…ああ、オレ今すごい情けないな。意味が分からない。そう少し気まずくなるも、澤原さんが「…ふふっ、私もだよ」と鈴が鳴るような声で笑ってくれてまた安堵した

「私も…すぐに付き合えるとは思えてなくて。浅羽くんとあんま話したことないのに、って。…だけど、好きって言いたくて。きっかけが欲しくて」
「……」

…オレの気持ちに同意してくれたのは、澤原さんの優しさなんだろうか。いや…もしかしたらオレ達は同じ気持ち、なのかもしれない。好きなんだけど、今はまだもう少し距離を埋める時間が欲しい。もっと仲良くなりたいんだ

「……」

同じ…だけど、やっぱり澤原さんのほうがスゴいと心底思う。だって、先に気持ちを真っ直ぐ伝えてくれたのは澤原さんだから。先に勇気を出してくれたのは澤原さんだから。「じゃあ、今はまだ返事は澤原さんには渡せないという方向でお願いします」「…う、ん。分かった」なんて会話をして俺達は小さく微笑み合った

「…あ。あとさ、このチョコってもしかして手作り?」
「?う、うん…そう、だけど」
「そっか。じゃあ今ここで食べていい?」
「!!え、えええ何で…」
「いや、感想は本人の前で言ってあげたほうが澤原さんもいいでしょ?次の料理の出来に繋がりますから」

慌てるような素振りをする澤原さんを尻目に、澤原さんから貰った箱のラッピングを解く。綺麗にラッピングされたそれを遠慮なしにベリベリと剥けば、箱の中にはトリュフチョコが入っていた。…お店で売ってるやつみたい。澤原さんって器用なのかな。少し感心しつつ、チョコを口の中に放り込む

「……ど、どうですか?」
「ん…美味しいよ、甘くて」
「あ、甘くて…ですか」
「?」

言い方が悪かったのかな…。あいにくそういうのはよく分からない。から、とりあえず自分の食べかけのチョコを澤原さんの口に「はい、あーん」と言って入れてあげた

「!」
「どう?自分で味見してみて。俺は美味しいと思うんですけど」

顔を覗きこんで聞く俺に、真っ赤な顔をしてコクコクと頷く澤原さん。そして彼女は「…か、間接キス…」だなんてぼやき、さらに真っ赤に頬を染める。…ぷっ、可愛いなあ。やっぱりオレ、澤原さんのこと好きなのかも。…なるべく早く良い返事を、してあげられるかもしれない。チョコの甘さを感じつつ、そんな新しい気持ちを抱いた2月14日。俺はまた少しずつ君に惹かれていく


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こういう曖昧なラストを書きたくて始めた連載でした!人間くささ?を細かく描写出来るように、がテーマだったり(笑)
お読み下さり感謝です(*´ワ`*)





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