祓魔師。それは悪魔を倒す力を持った人達のこと。…明陀宗も『青い夜』以降、その存続が難しくなり正十字騎士団に属することになったから、祓魔師の称号を持つ人間は今や明陀宗にはたくさんいる。柔造兄ちゃんは上二級、金造兄ちゃんは中二級の仏教系祓魔師騎士・詠唱騎士の資格を持ってるし。蝮姉さんも中一級仏教系祓魔師手騎士・詠唱騎士の資格を持ってる。だから、次期当主である竜士くんがそれを目指すのはすごく自然なことだと思う。けど…

「葵ちゃーん」
「!廉造くん…どうしたの?」
「いや、今ちょっと時間ええかな?」
「?う、うん…」

竜士くんとのお話を終え、庭を面した縁側でボーッとしていたところ、廉造くんに声を掛けられた。…そういえばさっき廉造くんと子猫ちゃんは勝呂家の話し合いを盗み聞きしてたんだっけ…。廉造くんと一緒に話すことで色々自分も落ち着くかもしれない。私は「うん、話そ話そ」と微笑み、隣に座るよう廉造くんに促した

「じゃあ失礼して…」
「ふふっ、どうぞ?…で?何の話しよっか」
「んー…ああ、そうや。葵ちゃん、中学卒業したらどうするか決めた?」
「え?あ…うん、一応。女将さんの旅館で正式に働かせてもらおうと思ってる」
「高校は?」
「あはは、行かないよ。私そんなお金もないから」

私の両親は悪魔落ちした人間に殺されたという。しかも私を産んだその日に。…特に身寄りもなく孤児だった私を達磨さまが拾ってくれたのは、どんな縁があってのことだったんだろう。特に疑問を抱く余裕などないまま、私は明陀の皆と生きてきたけれど。これ以上竜士くんの御家からお金を出してもらうわけにもいかない。そう私が言葉を紡げば、廉造くんは変なこと聞いてすまないというように苦笑いを浮かべた

「?別に大丈夫だよ。私が自分で決めたことだから。…廉造くんは?どうするの?」
「…うん、高校は俺正十字学園に行こう思ってる。坊と子猫さんと一緒に」
「それは……ちゃんと、自分の意思で決めたの?」
「あはは、相変わらず葵ちゃんは鋭いなあ。…まあ確かに自分で色々決めるんは面倒くさいから、合わせたってのはあるけど…」

いつもみたいに軽く笑って、廉造くんは頬をポリポリとかく。…別に呆れたり幻滅したりなんかはしない。廉造くんとは小さい頃からの付き合いだ。『面倒くさいことが嫌い』が口癖の廉造くんは、あまり物事を深く考えたりしないし深入りもしないから。今回もそうなんだろう。が、私がそう納得しかけた時廉造くんの「…だけど、それだけじゃないんや」という声が耳に届いた

「俺も子猫さんと坊と同じ。明陀の為に祓魔師になりたい。…だから祓魔塾行くことにしたんや」
「!廉造くん…」
「んで、そう覚悟を決めたらな?急に心の中がスーッとしたんや。自分の気持ちに整理がついたし、今思うたことはすぐに実行せなあかんって気付いた」
「?」

廉造くんに突然ガシッと肩を掴まれ、私はビックリしたように目を丸くした。…今目の前にはいつもはみることがないような、そんな真剣な目をした廉造くんがいて。ど、どうしたの?と不思議がる私に廉造くんは緊張した面持ちで言葉を紡いだ

「…好きや、」
「!え…」
「俺、葵ちゃんのことが小さい頃からずっと好きだったんや」

好き。…その言葉の意味が分からないほど私も馬鹿じゃない。私は火照った顔を一度俯かせた。何で私なんかを廉造くんは好きになったんだろう…なんてぐちゃぐちゃになった思考をゆっくり落ち着かせ、私はスッと顔を上げた。廉造くんの真ん丸な瞳と視線が真っ直ぐにかち合う。…気持ちは嬉しい。嬉しいけど…

「……廉造くんの、馬鹿」
「…へ、?」
「だって、廉造くんには向こうで竜士くんのことを護るっていう使命があるじゃない。こんなことしてる場合じゃないよ」
「?ま、護るかて…俺ら正十字学園っちゅう高校に行くだけやで?そない大袈裟な…」
「……」

…違う。違うんだよ、廉造くん。京都にいたときと違って、正十字学園にて次期当主である竜士くんを護れるのは廉造くんと子猫ちゃんだけ。今までとは違うんだ。…それに祓魔塾で祓魔師になるための勉強をするんだ、実戦で悪魔と戦うこともあるだろう。そう言葉を紡げば、廉造くんは眉をハの字に下げ、私の肩をその大きな手でギュッと掴んだ

「そ、そりゃ俺かて葵ちゃんが何を言いたいのかぐらい分かってはるよ!進路決めた時に上の兄貴達に同じようなこと言われたし…」
「なら…」
「そやかてこれで俺ら暫く離ればなれなんねんで?だから俺はその前に葵ちゃんに俺の思いを…」
「…だーかーら、そんな甘ったれた覚悟じゃダメだって言ってるの!」
「えええ」

廉造くんにぴしゃりと言い放ち、私は肩に置かれた廉造くんの手をやんわりと払いのけた。…確かに廉造くんも竜士くんも子猫ちゃんも全寮制の正十字学園に行ってしまうのだから、京都に残る私はもう3人と会うことが出来ない。竜士くんの御家に拾われてから、今までずっと3人と一緒に過ごしてきた私にとってそれはとても辛いこと。だけどー…

「…廉造くんは余計なこと考えずに勉強してくればいいんだよ」
「ひ、酷いわ葵ちゃん…」

俺泣いちゃいますよ?と芝居臭い泣き真似をする廉造くんに私は軽くため息をついた。…決してこの告白が嬉しくないわけではない。だけど、廉造くんは竜士くん達と共に祓魔師になる道を選んだのだ。ならば、私はそれを応援したい。…今はそんな恋愛とかそういうのに互いに首を突っ込んでる場合じゃないと思う。私は廉造くんに後悔なんかしてほしくないのだ。「葵ちゃんは…俺のこと好きじゃないんですの?」と恐る恐るという感じで尋ねてきた廉造くんに、私はくすっと笑みを浮かべた。そして廉造くんの身体にドーン!とタックルをかます

「!わ…」
「……お互いにもっと大人になったらね」
「え?」
「廉造くんが立派な祓魔師になってこっちに戻ってきたら…そのときは私、廉造くんと一緒になりたい」
「!!」

廉造くんのことが私は大好き。大好きだから、あなたのためになることを一番に考えたい。廉造くんは正十字学園で、私は京都の竜士くんの御家で。互いに自分の進むべき道を歩んでいきたい。脇見なんかせず真っ直ぐに。私は廉造くんの背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。…これで暫くお別れなのだ。これくらいは許されるはず

「…じゃあ、葵ちゃん」
「ん?」
「今は遠距離恋愛ってことでええ?」
「……廉造くん、勉強と恋愛両立出来るの?」
「出来るよ!俺はやれば出来る男やって有名なんやで?…だから葵ちゃん、俺が東京行ってる間に浮気なんてせんといてな?」
「…ふふっ、それは廉造くんの台詞なんじゃない?」
「!そ、そんなこと…」
「ぜーったい嘘。だって廉造くん女の子好きだもん。向こうの学校で色んな女の子と仲良くするに決まってる。懸けたっていい」
「葵ちゃん〜…」
「別にいいんだよそれでも。…その代わり、私は生涯廉造くんのことしか好きにならないけどね」

女好きの廉造くんのことだ。縛ることなんか出来ないのだろう。だけど、それと私は関係ない。私は私で思い続けていたいんだ。例え廉造くんの気持ちが変わってしまっても。そうにっこりとそう微笑めば、廉造くんはビックリしたように目を丸くしてからゆるゆると口元を緩ませた。「あかん…俺、葵ちゃんのこと好き過ぎておかしなりそうや」という呟きが耳元に囁かれ、何ともくすぐったい。…もうすぐしたら触れられなくなるこの温もり。今はただ、感じていたいの

「でも、もうちょっと俺のこと信頼してくれたってええんやないの?」
「そう思うなら廉造くんは普段の行いを見直さなきゃね」
「…葵ちゃんってたまにドSになりはるよね」
「?そんなことないよー」

明るい言葉の掛け合いとは裏腹に。私の頬を伝う涙がじわじわと廉造くんのワイシャツを濡らしていく。廉造くんはそんな私の頭をよしよしと撫で「…女の子の涙が武器やって言うのはほんまやなあ」なんて震えた声で笑った。ー…別れの日まで、残りわずか


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中学時代の志摩くんとヒロインさん



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