「ほんま仕方ないやつやな、葵は」
「ひっ、く…だ、だってえ…」
「女だからってめそめそしてるからなめられるんや。女だって強くならな」
「つよ、く…?」
「そうや。…悪口がなんや。そんなの言わせとけばええわ。あんたにはあんたを支えてくれる人間がいるやろ」
「……」

「まあ、なんなら悪口言うたやつを柔造に教えればそいつ後でぼこぼこにしてくれるんと違う?あいつ、葵には過保護やから」なんて呆れたように目を細める蝮姉さん。…小さい頃の私の目に映った大切な思い出。いつも周りの子に苛められていた私を、蝮姉さんは叱咤してくれた。めそめそしてばかりじゃダメだって。いつもいつも、私を気にかけてくれた蝮姉さんはー…私の大切な大切な家族だった





『……出張所から緊急召集がかかったで!』
『よし、動けるもんは皆出張所に行ってくれ!』
『はい!』
「…?何や外騒がしうなってきましたね」
「何かあったんでしょうか…?」
「!……」

ドタドタという足音を聞きつけ、私はそっと廊下のほうを覗く。…藤堂三郎太が蝮姉さんを連れて、不浄王の右目を奪ってから、暫く動きはなかった。彼らの行方さえ分かっていないのだから。…それがこのタイミングで、何か状況に変化が…?

『ー…えっ、蝮さんが捕まったってほんまか?』
『ああ。柔造さんが連れ戻しはったそうや』
「!蝮が…!」
「っ、」
「!?坊に葵ちゃん!?」

廊下から聞こえてきた言葉に、私と竜士くんはその部屋から飛び出した。蝮姉さんが…!帰ってきたんだ…!…いくら藤堂三郎太と一緒に、明陀宗が大事に守ってきた不浄王の右目を盗んだからといって、私には蝮姉さんが無事でいるほうが重要だ



「人を…集めてくださって…ありがとう、ございます」
「(!蝮姉さん…!)」
「蝮…!」

京都出張所に私たちが駆けつければ、玄関には蝮姉さんと柔造兄ちゃんがいた。明陀の皆を前にして蝮姉さんは「皆、私は裏切り者や…けど、今から言う話だけは、聞いてほしい…」と苦しげに言葉を紡いだ。…!蝮姉さん、右目が……

「ー…先ほど私と藤堂三郎太は、奪った右目と左目を使って…不浄王を、復活させた」
「「「「!?」」」」
「「!…」」
「不浄王!?何やて…」

…やっぱり、不浄王の復活が藤堂三郎太の目的だったんだ。伝説上の、江戸時代に倒された不浄王を復活させるなんて…最早狂気の沙汰としか思えない

『でも不浄王なんて復活させるにもどこに…』
「…金剛深山の地下に…仮死状態で封印されとったんや」
『!なっ…』
「今、明陀宗座主…勝呂達磨さまが、1人残られて戦っておられる…!」
『『『!』』』
「!お父さんが…?」
「どうかー…援軍を!そして不浄王を倒してほしい!」

バッと膝まづき蝮姉さんは頭を下げた。そんな蝮姉さんに当然明陀宗のなかで混乱もあって。「な、なんて勝手や!自分で蘇らせておいて…」「第一不浄王とは!?」「そんなんどう倒せゆうんや」なんて様々な意見が飛び交う。が、それも八百造さまの「…今はそんなことを議論しとる場合やない!我々は今から不浄王討伐に出発する!」という指揮によってとりあえずその場は収まった

「ゲホッ、ゲホッ…」
「!蝮姉さん!」
「蝮!」

右目から血を流し、身体を症気に蝕まれている蝮姉さんの元に駆け寄る。すると蝮姉さんは少し気まずげに瞳を揺らし、竜士くんに頭を下げた

「りゅ、竜士さま!助けて、和尚さまを助けて…! 」
「!…蝮…」
「…坊、コイツは俺が医務室まで運びます」
「柔造…お前は…?」
「俺は後で一番隊と合流します。坊は必ず塾の皆と旅館へ」

「…廉造ォ子猫!お前らはしっかり坊をお守りせえよ!何かあったらバラすぞ」と廉造くんと子猫ちゃんに念を押し、柔造兄ちゃんは蝮姉さんを抱きかかえる

「じゃ、坊また後で…」
「ま、待って」
「?葵?」

抱きかかえられたままの蝮姉さんさんの手をぎゅっと握りしめ、私は泣き出したい気持ちを飲み込んで微笑んだ

「…蝮姉さん、おかえりなさい。此処に帰って来てくれて、ありがとう」
「!葵…」
「…蝮姉さんの苦しみに、気付いてあげられなくてごめんなさい。でも、お父さんも竜士くんも廉造くんも子猫ちゃんも柔造兄ちゃんも、みんなみんな蝮姉さんが大好きだから。あとは、大丈夫だよ」

「ゆっくり休んでね」と蝮姉さんの目を見つめれば、蝮姉さんは「……あんたはほんま昔からアホなやつやな」と弱々しく私の頭を撫でてくれた。…蝮姉さんが、無事で良かった。もっともっと私や皆が蝮姉さんの変化に気付いてあげられれば、こんなことは起こらなかった。家族なんだから、もっと分かち合えるようになりたい。…私は、これから家族のために何が出来るだろう?


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悩みながらも前に


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