『ううっ…嫌だあ、怖いよお…』

俺と坊と子猫さんと幼なじみの葵ちゃんは、本当によく泣く子やった。小さい時から1人になってしまう度に彼女はいつも泣いていた。…最初はそれは1人になって寂しくなってしまって泣いてんのかとか、誰かに嫌なことをされたから泣いてんのかとか色んなことを考えていた。が、どうもそれらは違っていたらしい。それはまるで…彼女が"見えない何か"に怯えているような…

『光が入らないところは駄目…そう言うておいたやろ?』

葵ちゃんが泣くと必ず和尚さまがやって来た。そして小さな身体を震わせ涙をぽろぽろ溢す彼女に、決まってこう言うのだ

『一人になったらあかんで?葵は必ず私とおらんと』

いつもよりちょっぴり低い声で、葵ちゃんに言い聞かすようにそう怒る。…葵ちゃんは和尚さまの家の子でもないし坊とは何の血の繋がりもないけれど。彼女は坊の家でまるで本当の娘みたいに育てられていて…和尚さまも彼女のことをそりゃ目に入れても痛くないくらい大事にしてた。だから葵ちゃんが1人になる度怒るのは、そんな親心から過保護にされてるんだろうと思っていた。…が、大きくなるにつれ俺はそれが違うと気付いた。和尚さまは葵ちゃんを何かから"守っている"んやとー…

『お、おっさま!こっちや!』
『おとん、はやく!』

だから葵ちゃんが1人で泣いているのを見つけては、俺や坊や子猫さんは和尚さまを呼びに走った。…いや、それしか俺には出来なかったのだ。葵ちゃんを苦しめてる何かを倒す術を…葵ちゃんを助ける術を俺は持っていない。葵ちゃんの涙を止める魔法。それが使えたのは和尚さまだけだった

『おっさま!葵ちゃんはだいじょうぶなんか!?』
『ん〜…こりゃまた群がってきとるなあ』
『?む、むらがってるってなんや?おとん』
『どういうことですか?』

そう聞いてみても何にも教えてやくれない。ただ和尚さまはいつも何でもないように笑うだけ。一方葵ちゃんも、俺と坊と子猫さんがいくら聞いても「ごめん…なんでもないの。しんぱいしてくれて、ありがとう」と弱々しく微笑むだけ。…どうやら彼女はその"見えない何か"に害されている自分に負い目を感じているらしい。近所の人やクラスメイトに「変な子だ」と後ろ指指されていることも原因の一環だろう




『ー…葵ちゃん、一緒に帰ろ!』
『え?で、でも廉造くん放課後は委員会があるんじゃ…』
『そんなんサボるに決まってるやろ〜?葵ちゃんを1人で帰させるわけにはいかんもん』

葵ちゃんは中学生になってもまだその"見えない何か"に害されているようだった。そりゃ小さい時みたいにわんわん泣くようなことはなかったけど…それでも何かに怯えたような表情は時折見せていた。ー…葵ちゃんを1人にしてはいけないのだ。1人にしてしまっては葵ちゃんが闇の中に引き摺りこまれてしまう、そんな気がして…

『(…絶対に離さへんからな、)』

葵ちゃんは自分から他人に助けを求められないような不器用な子だから。俺が守ってあげなきゃダメなんや。というか、俺も大好きな葵ちゃんを何処か知らないところにやりたくなんかない。失いたくないんや。…執着。それは俺が一番縁遠いと感じていたもの。だけど俺が葵ちゃんに今抱いている感情は執着以外の何ものでもないだろう。いや、淡い恋心と表現したほうが綺麗かもしれない。せや、そういうことにしとこ


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志摩くん視点。



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