「はあっ、はあっ…」

薄暗い狭い通路を通り抜け、私はなんとか深部の護摩壇のある場所にたどり着いた。護摩壇の近くで柔造兄ちゃんと蝮姉さんが睨み合っているのが遠目に見える。二人はまだ私が来たことに気づいていないみたいだ。…っ、どちらかが藤堂三郎太に協力をしていた…?

「……」

…此処、だ。何か禍々しいものが…藤堂三郎太は此処にいる。何でか…感じる。私はキッと天井を睨み付け、震える足を押さえつけ立った

「(天井が…崩れる…!)」

パラパラと崩れる天井はまるで腐敗していくように、徐々に穴が広がっていく。そしてそこから姿を現したのは…

「やあ、志摩くん。お久しぶりだね」
「藤堂…!」
「!…」

眼鏡をかけた中年の男の人。…外見は普通の人間なのに、何かが違う。感じるんだ、彼から私をいつも狙っていた生き物と同じものを。…しかも、すごく大きな力を。「っ…このタヌキ!蝮をたぶらかして何が目的や!」と叫び藤堂三郎太に攻撃しようとした柔造兄ちゃんの袖を、私は後ろから駆け寄り引っ張った

「や、やめて!柔造兄ちゃん!あの人には近づいちゃダメ!」
「!?おまっ…葵!何でここに…」
「ん?君は…、っ!?」

私の顔を見た途端、藤堂三郎太の様子が変わった。めきめきと軋みだした彼の顔や身体。彼はそれらを押さえ、「ああ、なるほど…」とニヤリと笑みを浮かべた。そのうえ、彼の造形はみるみる変わりまるで若返っていくようであった

「と、藤堂お前一体…」
「…あはは、君が騎士団特別保護を受けてるってお姫様か。道理で…身体が疼くよ。君の血の匂いにあてられたみたいだね。みるみる力がわいていく」
「……それは、あなたの身体がもう悪魔に同化してるから…?」

そう尋ねた私に藤堂三郎太はニヤリと変わらぬ笑みを浮かべるだけ。…だから、感じれたんだ私は。彼がどこにいるか。彼が最早人間じゃないものになってるから…

「…そうだね。右目以外にも、此処で守られているもう1つの宝物を奪うのもいいかもねえ。どうせだ。お嬢さん、来なさい」
「っ…葵に近寄るな!このタヌキ!」
「!柔造兄ちゃん…」

ひらひらと手招きする藤堂三郎太から庇うように、柔造兄ちゃんが私の前に回り錫杖を構える。が、次の瞬間蝮姉さんの「藤堂先生!葵は…あの子は今関係ないはずです!」という叫び声がその場に響く

「……それもそうだね。まあ逆に言えばお姫様を守る騎士達は非常に頼りないようだね。これじゃ騎士団が明陀に彼女を預けたのも間違いだったようだね」
「っ…ふざけんな!葵は俺らが守りきってみせるわ!」
「ははは、そうかそれは頼もしいね。…さて志摩くん、今回はあくまで私は宝生くんに協力してるだけでね。私は関係ないんだ」
「う、嘘!蝮姉さんがそんなことするはずな…」
「いや、藤堂先生の言う通りや。藤堂先生は関係ない」
「くっ…蝮!お前完全に藤堂に騙されとるんが判らんのか!!」
「……」

キュッ…。不浄王の右目が入った容器の蓋を蝮姉さんが開ける。や…やめて…やめて蝮姉さん…!私たちの制止も虚しく、蝮姉さんはあろうことか不浄王の右目を自らの目に取り付けた

『ー…騙されてるんはお前らのほうや』

ジュッと黒い瘴気が辺りを包む。それが晴れた次の瞬間には、蝮姉さんはそこから消えていた。もちろん藤堂三郎太も、不浄王の右目も…

「っ、…蝮姉さん、どうして…っ!」

私の声は虚しく辺りに谺するだけだったー…





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