「はあ……」

今ごろ、明陀の皆で会談をやっているんだろうなあ。私や廉造くんなんかは家の立場的に参加出来ないけども。…あの日、不浄王の右目を狙った人が明陀のなかに本当にいるんだろうか。あの日現場にいたのはー…護摩檀にいたお父さん、柔造兄ちゃんに蝮姉さん、青姉さんに錦姉さんに、八百造様。…疑いたいわけじゃない。だけど…

「…そんなに疑うのが嫌なら、調査なんかしなきゃいいだろ」
「……そういうわけにはいきません。だって、私はその誰かに間違った方向に行ってほしくないから…」
「あっそ」
「……」

自分から聞いたくせに…。私はちろりと私は隣にいる女性…霧隠シュラさんを見た。「霧隠さんは何か私に対する態度が酷いです…」と言えば、こつりと頭を殴られた。い、痛い…!

「当たり前だろ。ったく…何で部外者にこっちが持ってる情報を流さなきゃなんねーんだよ」
「…す、すみません…」
「メフィストのヤロー、なあにが"面白いからお姫様にも捜査に参加させろ"だ…本当バカじゃねーの」

ぶつぶつと呟きつつ、霧隠先生はまた私の頭をこつんと殴った。…う、確かに私もさっきまたメフィストさんが急にポンッと現れて、その言葉だけ残して霧隠さんと引き会わされたんだもんなあ。私も驚いたけど、霧隠さんが一番驚いたことだろう。私は少し気まずい空気を感じつつも、霧隠さんから受け取った資料を読んだ

「…藤堂三郎太、この人が不浄王の左目のほうを盗んだんですか」
「あーそうだよ。今や立派な指名手配犯だ」
「それでこの人は、昔祓魔塾に柔造兄ちゃんと蝮姉さんが通っていた頃の、恩師ー…」
「ああ。だから二人は十分怪しい。…が、勝呂達磨のほうが今は容疑が大きいな。何たって真言を唱えられるのはアイツだけ…」
「お、お父さんはそんなことしません!」
「あーもういちいち騒ぐな!」
「!んぐぐ、」

霧隠さんに口を手で押さえられ、私は軽く呼吸困難に。う…く、苦しい…!バタバタともがけば、また霧隠さんにぎろっと睨まれた。えええ何か理不尽…!

「ー…で?情報を手に入れたお前はこれからどうする気だ?」
「けほっけほっ…そ、それはえっと、京都出張所のほうになるべく顔を出せるようにします」
「行って何が出来るんだお前に」
「…協力者を止めたいんです。…藤堂三郎太って人は不浄王の右目のほうにも用があるはずなんですから」
「あ?藤堂なら騎士団の祓魔師の別部隊が追って…」
「それを撒いて、彼はやって来ると思うんです。両目が揃わないと意味がない。なら直接彼が来るしかないし…もしかしたら明陀の誰かに手引きしてもらうかもしれない」
「……」

「…あーこれだから変に頭の回るガキは嫌いなんだよ。雪男といい…可愛げがねえ」と舌打ちし、霧隠さんは私から機密資料を取り上げた。あ…ま、まだ見てたのに…

「ったく、これなら燐みたいなバカのほうがよっぽど可愛げがあるな」
「…あ、あの。ところで奥村くんはさっきから何やってるんですか?」

虎屋旅館の屋根を指差し一言。私は霧隠さんに尋ねた。…奥村くん、何で屋根の上にいるの?危ないよね…?それに蝋燭なんか立てて…

「あーありゃ修行だ。気にすんな」
「しゅ、修行?」
「強くなりたいんだとよ。みんなを守れるように」
「!…」

ー…何故奥村くんがそんなことを思うのか。何故子猫ちゃんが奥村くんを危険視していたのか。何故奥村くんはクロちゃんと喋れていたのか。何故奥村くんは私のことを甘い匂いがすると言ったのか。…奥村くんは一体何者なのか。分からない。分からないけど…それでも彼は私と同じなのかもしれない、となんとなく思えてしまう。何だろう、この胸騒ぎは…

「…霧隠さん、」
「んだよ」
「私はー…いつまで明陀の皆と一緒にいられるんでしょうか。いつかは…」
「いつかは騎士団に引き取られるってか?まあそうだろうな。何せ、お前は利用価値があると思ってるからな騎士団は」
「…何で、すぐに利用したりしないんですか」
「そりゃ使い道を考えてんだろ。悪魔を誘き寄せられるっつーのは、逆に考えればリスクもでかい。しかも血なんざ何度も抜き取るわけにはいかねーしな。いざって時まで使いようがないんだよ」
「……それまで騎士団で保護する手間を惜しむ為に、明陀に代わりに私を押し付けたってわけですか。厄介払いに」
「そうピリピリすんなよ。昔から分かってたことだろ」
「…私がそれを知ったのはつい先週です」
「そんなの知るか」

自分には関係ないとばかりに欠伸をする霧隠さんに、私はつい眉をひそめた。ー…何で明陀の皆が押し付けられなきゃいけないの。保護がいる私なんて、明陀の皆は捨て置いてくれていいのに。私のことなんか突き放してくれればいいのに。…私は皆の迷惑になりたくなんかないの。皆を危険な目に遇わせたくないの。私はまたどうせ軽くあしらわれることを承知で、霧隠さんの背中に言葉を投げ掛けた

「…私を騎士団が利用したい限り、私は死ねないんですね」
「あ?何だよお前死にたいのか」
「……分かりません。でも、早く役目を終えたいとは思います」
「役目ってアレだぞ?悪魔誘き寄せるための人身御供になるってことだぞ?分かってんのかよ」
「…それしか、私は誰かに役に立てないじゃないですか」

苦々しく言葉を吐き出した私に、霧隠さんはハァと呆れたようにため息をつく。そしてサッと軽やかに壁づたいに旅館の屋根の上に飛び上がってしまう。…気分を害してしまったかもしれない。わかってる、早く死にたいだなんて…周りの人の優しさを無視してるってこと。だけど…

「…お前も、かよ」
「!えっ…?」

屋根の上にいる霧隠さんがちらっと振り返り、私を見下ろす。彼女の赤い綺麗な髪の毛を風がブワッと吹き上げる。垣間見えた瞳は強い輝きを持っていた

「はあ…今の燐と全く同じじゃねーか。何でお前らは考えをそういう方向に持ってくのかねえ」
「…霧隠さん…」

馬鹿馬鹿しい、と呟いて彼女はカツカツと屋根を上がっていく。…今、何で霧隠さんはあんなに悲しそうな目をしていたんだろうか。私は彼女の背中と、さらに遠くで蝋燭とにらめっこしている奥村くんの姿を見つめ、頬に一筋の涙を溢した



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前回志摩くんの前で決意したものの、まだ悩みは消えないヒロインさん



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