「大体、廉造くん達は休みでも私は違うから。旅館のお仕事たくさんあるし、廉造くんはプールでもどこでも好きなところで女の子と遊んでればいいじゃない」


そうキッパリと断り、私はご飯を早々に食べ終え席を立った。「え、ちょっ…葵ちゃん?」「ははっ、志摩お前怒らせたなあー」「えええ何で?」「お前あいつと付き合ってんだろ?なのに出雲達の水着姿見たいとか言ったら、怒るんじゃねーの?」「いや!そんなん見たいやん!勿論葵ちゃんの水着姿も見たいし!」とかひそひそと会話する奥村くんと廉造くんを無視して、私は食堂を出た


「……廉造くんの、バカ」


廉造くんが女の子好きなのはもう仕方ないことだけども。た、例えば二人でご飯食べへん?とか…休みならそういう誘いくらいくれてもいいんじゃないかな…なんて。私、勝手かな。…でもでも、廉造くんがあんなんだから、昨夜の竜士くんのよく分からない告白のこと相談出来ないし…


「…本当、どうしよう…」
「あのー葵ちゃん?今ちょっとええ?」
「あ、子猫ちゃん…」


食堂を出てすぐに子猫ちゃんに話しかけられた。…子猫ちゃん、さっきは柔造兄ちゃんの誘いを断ったりしてたけど…。何なのかな?久しぶりに再会して、子猫ちゃんが一番変わったような気がする…。(容姿は相変わらず可愛いんだけども)


「子猫ちゃん、どうしたの?」
「あ、その…葵ちゃん、いつの間に奥村くんと仲良くなりはりましたん?」
「?奥村くんと?…ああ、昨日のお昼一緒にスイカ運んだりした時かなあ。結構喋ったの」
「……葵ちゃん、奥村くんにはあまり近付かないほうがええ」
「えっ?」


私の両肩をぎゅっと掴んで、子猫ちゃんはそう力強く言った。私はそれに目を丸くして、「子猫ちゃん?子猫ちゃん、奥村くんと喧嘩でもしたの?」と首を傾げる


「違います。僕はー…葵ちゃんを危ない目に遭わせたくないんや」
「子猫ちゃん…?」
「っ…僕は、葵ちゃんも坊も志摩さんも…皆が傷付くのは嫌なんです」
「……」


身体を震わせそう訴えかける子猫ちゃん。私は彼の小さな…だけどしっかりとしたその手を優しく握りしめ、彼の顔を覗きこんだ


「…子猫ちゃんのその気持ちは分かるよ。だけど、私には奥村くんが私たちを傷付けるような人には見えなかった」
「そ、それは葵ちゃんが知らないからや!奥村くんは、奥村くんは…っ」


ー…ここまで子猫ちゃんが取り乱すなんて。きっと何か深い理由があるんだろう。子猫ちゃんは優しい人だ。こんな誰かを拒絶するようなこと、絶対しない。だけど…


「……分かった。流石に無視とかそういうのは皆のお世話を申し付けられてる身としては、無理だけど。奥村くんと接する時は少しだけ気を付ける。子猫ちゃんがそこまで言うなら」
「…うん、」
「……でもね、子猫ちゃん。拒絶してばかりじゃ何も分からないし、子猫ちゃんのためにもならないと思う」
「!えっ…?」
「もしかしたら子猫ちゃんが思うような人じゃないかもしれないよ?…少なくとも私には、誰かを傷付けるような非道な人があんなに優しい目は出来ないと思う」
「…そ、それはっ…」
「…もう少し、真っ直ぐ見てあげてもいいんじゃないかな。自分の目で見て、子猫ちゃんが判断したほうがいいと思う。…私の時みたいに。何かが変わるかもしれない」
「葵ちゃん…」


ー…普通の人には見えなかった悪魔という存在に怯える私を、何も明陀の人全員が最初から受け入れてくれたわけじゃない。信頼してくれたわけじゃない。最初は色んな人に気味悪がられたし、「何で和尚さまはあんな子どもを引き取ったんだ」って陰口も叩かれた。だけど…


『ええなあー坊は。葵ちゃんみたいな可愛いらしい子が妹なやんて。妹なら家でもずっと引っ付いていられるんやろ?羨ましいわあ』
『!ばっ…お前やないんやからそんなんするか!』
『どうだかー』
『志摩さんあんま坊怒らせたらあきまへんよ…!』
『まあええわ!そのぶん昼間なんかは俺と子猫さんと一緒に遊んでくれれば!葵ちゃん、遊ぼ遊ぼ』
『何で俺が入ってないんや!』
『よ、四人で遊びましょ!ね?葵ちゃん、何して遊びたいですか?』
『……いいの?』
『へっ?』
『わ、私と遊んだら…周りの子に何か言われるかもしれないよ…?変なやつだって』
『そんなことあらへんよ。だって僕らは葵ちゃんのこと変だなんて思わないし。周りは関係ないよ。そうですよね?坊…』
『お前のこと変だなんて言ったやつがおるんか!どいつや!俺がとっちめてやるわ!』
『うわああ子猫さん坊抑えるの手伝って!』


ー…私の時みたいに、もしかしたら奥村くんも子猫ちゃんからの言葉を待ってるかもしれない。だから…逃げないであげてほしい。そう言葉を紡ぎ、私は子猫ちゃんの手をパッと離す。…余計なお世話だったかもしれない。だけど、言わずにはいられなかった。私は…


「私はー…子猫ちゃん達に話しかけてもらえて嬉しかったから。今までずっと気味悪がられてたのに、子猫ちゃん達は優しくしてくれて…世界が変わったの」


どうかー…奥村くんと子猫ちゃんがちゃんと分かり合えますように。…昔の私と同じように、誰か奥村くんに手を差し伸べてくれる人が現れますように


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感じた共有感




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