「詮議を…?それ、本当ですか?」
「ええ。明陀の中であの場にいた関係者を一堂に集めて、内々に詮議します。明陀の者が今回の事件の犯人や疑われてる以上はやらなあきません」
「不浄王の右目を…明陀の誰かが狙ってるって、そういうことですか?」
「その通りです」
「……」

朝。いつもなら支度をして旅館のお仕事に出るんだけど、今日は違った。蝮姉さん達のお父様である蟒様に呼び出されたのだ。不浄王の右目が狙われた先日の事件について、この虎屋旅館の一室で会談をするらしい。ー…私は、そんなこと企む人が仲間内にいるとは思いたくないのだけど。もう決まったことだ、私にはどうしようもない。それに…

「…蟒さま、」
「はい」
「ありがとうございます」
「?何がですか?」
「私を信頼して下さって。…私は今回の件に関係ないのに、そんな内密な事を話していただいて……不謹慎だけど、嬉しいんです少し」
「……」

仲間外れにされなくて…なんて。私はこんな状況なのに何を考えているのだろうか。…蟒様、呆れているんだろうなあ。そう思ってちらりと蟒様の顔を覗き見た。が、彼は「…もうあなた様を他人やって突き放すわけにはあきまへんからな」と小さく苦笑いをした

「葵様、あなたは実は気付いていたんやないですか?自分のこと」
「!」
「明陀の者も皆薄々感付いています。あなたが秘密を知ってしまったと」
「……ええ、聞きました。私は皆に守られているんですよね?騎士団の命令で」
「…はい」

…私のことを皆が構ってくれてるのは、騎士団の命令があったから。そう考えると少し、寂しい。…けど、私は悪魔に狙われやすいというこの血のおかげで、蟒様や金造兄ちゃんや柔造兄ちゃんや蝮姉さんや廉造くんや子猫ちゃんに出会えた。竜士くんや達磨様や虎子さんと家族になれた。だから…今は幸せだし満足。な複雑気持ちなんだ…

「…葵様が何故それを知ってしもうたのかは想像もつきませんがね。しかし、これはご存知か?」
「え?」
「青い夜以降、明陀の総本山が潰れたあの日。明陀宗が正十字騎士団に属することが出来たのは、あなたのおかげなんです」
「!わ、私の…ですか?」
「今まで葵様を悪魔から保護し通せたことが、功績として評価されたんです。だからこそ我々明陀の者は騎士団の信頼を得られた」
「…そんなことが…」
「今は色々整理出来へんこともあると思います。我々もあなたにはまだ経緯を話せませんし。…やけど、どうか和尚様や私らを信じて下さい。これからも必ずお守りしてみせます」
「……。はい、ありがとうございます」

ー…例え私のことを皆が利用しているのだとしても、別にいい。だってどうせ私は明陀の皆が好きだから、離れる気なんてさらさらないのだ。私は蟒様ににっこりと微笑み、彼にぺこりと頭を下げた

「お話ありがとうございました。えっと…蟒様、会談は鶯の間で大丈夫ですか?」
「その部屋は今日1日誰も利用せんのですか?」
「はい。普段はお客様も利用しないし、こちらで手配すれば人払いも出来ます。人数は13人ですよね?今から準備してきます」
「あ、いやそっちは私がやっときます。葵様は朝食を食べに行って下さい」
「そんな、蟒様にそんなことさせるわけには…」

そう言い切りたかったのだが、良いタイミングでお腹がぐう〜っと鳴ってしまった。…う、恥ずかしい…!確かにまだ朝から何も食べてなかったけど…。かああっと顔を赤らめる私に、蟒様が「ほな、葵様は食堂に行ってきて下さい」と優しく言われた

「……い、行ってきてます」
「はい。お気を付けて」



**



「あ、おーい。葵!」
「あ…奥村くん。おはよう」
「おう!今からお前も朝飯か?」
「うん。奥村くんも?」
「ああ」

廊下の真ん中で奥村くんと遭遇した。ふわあ〜と何度も欠伸をこぼし、奥村くんは目尻に涙を浮かべる。…奥村くん、朝弱いのかな?すっごい眠そう…そういやまだ寝間着のままだし。というか寝癖がスゴい…

「ん…お前は朝からきっちり準備してんだな。もう着物着てるし」
「旅館のお仕事は朝早くからあるからね」
「今日ももう働いてきたのか?」
「ううん。今は私奥村くん達騎士団の皆さんのお手伝いするよう言われてるから。…って言っても、今日は奥村くん達休みなんだっけ?」
「あーなんかそんな話だったかもだなー」

そんな話をしつつ歩けば、既に旅館の食堂の前に着いていた。…あ、じゃあお別れだなあ。私は「奥村くん、また後でね」と手を振る。が、彼は不思議そうに首を傾げた

「?何でだよ。お前まだ朝飯食ってねーんだろ?」
「うん。でも、私達従業員ははいつもまかないを食べてるから…」
「1人で残り物食べんのか?」
「残り物って…まあ、うん」
「それならせっかくだし俺と一緒に食おうぜ!たまにはいいだろ?」
「え、でも…」

グイッ。奥村くんに腕を引っ張られ、私は食堂へと連れて行かれる。ええ…いいのかな…?確かに今は普段と仕事状況が違うけど…。…まあ奥村くんのキラキラした笑顔を前にしたら断れなんかしないのだが。うーん…ちょっとだけ、ちょっとだけならいい…よね?

「いや〜腹減ったなあ!」
「う、うん…」
「坊、大丈夫ですか?」
「あ〜…昨日の夜の記憶がないんや。どうも酒飲んで寝てもーたみたいやねん」
「!っ…」

食堂に入ってすぐ。最も会いたくない人物を見つけてしまった。りゅ、りゅりゅりゅ竜士くんだ…!頭を押さえ眉をひそめる竜士くんを前にすると、昨日の告白を思い出してしまう。っ…どうしよう顔が火照る…!うああよく分からない!よく分からないよ!昨日の返事をどうすればいいかとか!というか、昨日の告白を竜士くんは覚えてなくて酔っ払っただけかもとか!どうしよどうしよ…

「ん?」
「!!」

ふと顔を上げた竜士くんと目が合ってしまう。っ…やっぱり無理い…!私は奥村くんの腕を引き、竜士くんと子猫ちゃんが食事する場所とは離れたところに腰を下ろした

「?どうしたんだ?顔真っ赤だぞ?」
「な…何でもないよ!ご飯食べよう!」
「お、おお…?」

奥村くんと向かい合わせに座り、私は目の前にあるお膳のご飯に手を伸ばす。(今は宿泊者が多いから、朝食は既に人数分並べてあるのだ)後ろのほうから竜士くんの「何や、朝の挨拶もせんで…俺はお前をそんな風に育てた覚えはないで」と叱られたけど、とりあえずは無視をさせていただく。…むう、竜士くんのせいなのに…!イライラするあまり、ついご飯をもぐもぐと一気に頬張ってしまう

「…おい、そんなに一気に口に入れるなよ。女だろ」
「(もぐもぐ、)いひもんべふに」
「ー…じゃあ子猫丸、俺は先に行くな」
「あ、はい。鶯の間でしたよね」
「ああ」
「……」

鶯の間はー…確か蟒様が当初会談をするのに使う予定だった部屋。そっか、竜士くんも子猫ちゃんも参加するのかあ。一家の長男は大変だなあ…。…何にしても竜士くんが食堂から出て行ってくれて良かった。ほっと一息、私はもぐもぐと口を動かした

「葵ちゃん、なに難しい顔してはるん?」
「(もぐもぐ、)あ…れんひょうくん、おひゃよ」
「あはは、口に物入れながら話すのは止めようなー?」
「…ふぁい」
「奥村くんもおはよ。昨日ちゃんと部屋戻れた?」
「……覚えてねー」
「あはは、やっぱりなー。一応俺飲まんどって正解やったわー」
「…というかお前、俺と普通に喋っちゃって平気なのか?」
「?二人は喧嘩でもしてたの?」

奥村くんのその言葉に首を傾げれば、廉造くんに「ん〜まあそんなとこ?色々態度変えるの面倒になってもーてん」と笑って返された。?そうなんだあ…男の子の間にも喧嘩とかあるんだなあ

「でも、仲直りしたなら良かったねっ。奥村くん良い人だし、廉造くんが奥村くんと仲悪くなっちゃったら私嫌だもん」
「…嫌?」
「うん。だって奥村くんはすごく優しくて明るい人だし。私もせっかく仲良くなれたのに、廉造くん達のほうが疎遠になったら嫌だよ」
「……葵ちゃんって本当に罪作りな子やね」
「へ?」

グイッと私の顔を覗きこむ廉造くんは、さっきより少し不機嫌そうな表情をしていて…うん、というか距離近い…。どんどん距離を縮めてくる彼に「廉造くん?」と呼び掛ければ、次の瞬間廉造くんが視界から消えた。同時に「れーんーぞおおおお!」と雄叫びをあげながら、金造兄ちゃんの飛び蹴りが横切る

「あ、おはよ。金造兄ちゃんに柔造兄ちゃん」
「ああ、おはよう葵」
「痛ァ…ああもう!いきなり何すんの金兄!」
「何て…飛び蹴りやろ。お前アホか?」
「お前がアホやドアホ!」
「あはは。廉造、元気そうで何よりや」
「おげっ…柔兄も…!」
「…何や、おげって…」

相変わらずの兄弟のやり取りに、思わずくすくすと笑みがこぼれる。…ああ久しぶりだなあ、このノリも。そういえば今日から柔造兄ちゃんと金造兄ちゃんは現場復帰だもんね。すっかり本調子みたいで良かった。(もう祓魔師の正装着てるしね)

「…おっ、子猫お前そんな所で何してん。こっち来て一緒に朝食食おうや」
「あ、そうだよ。子猫ちゃん一緒に食べようっ。竜士くんいないなら大歓迎だよー」
「え?」
「何やそれ」
「お前、坊の悪口言うなんて良い度胸やないか」
「痛!金造兄ちゃん酷い!いきなりぶつなん…」
「あの!僕もう終わるんで、大丈夫です…!」
「!へっ?子猫ちゃん…?」

子猫ちゃんは少し慌てたようにご飯をかっ込み、それきりこちらを向いてもくれなかった。…?どうしたんだろ子猫ちゃん。廉造くんに「…もしかして子猫ちゃんとも喧嘩してるの?」とこそっと尋ねれば、「あー…それとは少し違うんやけど…」と苦笑いを返された。えー何それ何それ。男の子ってそんなに頻繁に喧嘩するの?

「?…何やアイツ。反抗期かいな」
「うわーん…子猫ちゃん…」
「ん?というか誰やコイツ」
「金造兄ちゃん!コイツとか言わないっ。失礼でしょ!」
「うっさい、お前に叱られたたくなんかないわ」
「痛!酷いまたぶった!」
「あー!こちらお友達の奥村くんや!」
「ど、ども…」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ私と金造兄ちゃんより前に進み出て、廉造くんは奥村くんを紹介する。それに柔造兄ちゃんは嬉しそうに微笑み、「おお〜そうかそうか!俺は柔造、廉造の兄貴や。そっちは四男の金造でドアホや。廉造は男兄弟の末っ子でドスケベやけど、よろしく遊んでやってくれな」なんて挨拶した。…むう、金造兄ちゃんもこれぐらいの挨拶すればいいのに。もう朝食をもしゃもしゃ食べてるとこ見ると、本当に金造兄ちゃんはマイペースの固まりだなって思う

「ー…あ、せやせや、奥村くん。これからプール行かへん?俺ら今日1日休みやろ?暑いしィ女子誘ってプール、ええやろ?」

………いや、それは弟の廉造くんも同じだったか。マイペース過ぎる…!「葵ちゃん一緒プール行こ!もちろん葵ちゃんはビキニで…」なんて笑顔の廉造くんに「お断りします」ときっぱり一言。私はご飯をかっこんだ




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