『…え〜葵ちゃん、遊びにいかへんの?』
『何だよ、今日はせっかく皆で肝試しやろうゆうてたのに!』
『ご、ごめんなさい…でもお父さんが"日が落ちてからは外出ちゃダメだ"って…』
『はあ?俺らもう小4やぞ?そんなん小さいガキに言うことやろ』
『おい、もう行こーや。コイツいつもノリ悪いんやから』
『…せやな。この前も急に変なこと言い出しとったし』
『ああ、誰もいないところ指差して泣き出しとったな』
『前から思ってたけど、葵ちゃんってちょっと変やわ』
『そ、そんな…私…』
『お前らああああ!俺の妹に何言いくさってるんや!!』
『!げっ…お、鬼が来たわ!みんな逃げろ!』


…小さい頃の私はいつもいつも泣いていて。そのうえ皆には見えていない悪魔の存在というものに怯えていたりしたから、周りの子からの目は冷たかったし気味悪がられていた。…だけど、私がめそめそ泣いている時はいつも竜士くんが来てくれた。まるで正義のヒーローみたいに、颯爽と私を助けてくれた


『あーほら葵、もう泣くな。お兄ちゃんが来てやったさかい』
『うっ…ひっく…』
『……ねんねんぶぶにおこすところのつみ』
『?お兄、ちゃん…?』
『しんごんのいりょくをもてみなしょうめつす。なむだいにっいしょうふどうみょうおうふんぬんそん…』


当時から私の周りにいたらしい悪魔を追い払うための詠唱。私にとっての魔法の言葉。それを唱えた竜士くんについ驚いたように目を見開かせれば、竜士くんは「た、たぶんこれで合ってるはずや」と顔を反らした


『こないだおとんの聞いて覚えたんや。お前が泣いたとき、おとんはいつもお前にこの詠唱唱えとるから。お前がこれを唱えれば泣き止むやないかって』
『!お兄ちゃん…』
『…あー!その"お兄ちゃん"っての止めや!むず痒い!竜士でええ!俺らは家族なんやから名前で呼べ!』
『?……うん、分かった。じゃあ、竜士くん。さっきはありがとう』


そう私が微笑めば竜士くんは「そ、それでええわ」なんて顔を微かに赤くする。…自分で呼べって言ったのに、なんて。それから暫く私が"竜士くん"と呼ぶ度に彼が照れくさそうに返事をしてくれるのが、私は嬉しかったんだー…




**




「……出ないなあ」


時刻は既に夜の10時。ここまで暗くなると悪魔の活動がさらに活発になる。現に私の周りにいる彼らがそうなのだ。だから、私だってこんな時間に部屋の外をフラフラなんかしてたくない。だけど…竜士くんがまだ部屋に戻っていないのだ。廉造くんや子猫ちゃんは既に部屋でぐっすりと眠っているのに、竜士くんだけが戻って来ない。…もしかしたら何かあったのかもしれない。そう思った私はさっきから彼の携帯に着信をかけているのだが、一向に繋がらない


「…探しに行こう」


お父さんから貰った数珠もあるし、旅館の中を彷徨くくらいなら大丈夫だろう。もし竜士くんが旅館の外に出てしまっていたら問題だけど…とりあえず自分に探せる範囲で。普段ここで働いてる私だ。旅館の至る場所を熟知している私にとって、探し人を見つけるのにはさほど時間がかからないはず…



「ー………あ、」


探し歩くこと5分。庭に面した廊下。そこに竜士くんはうつ伏せで寝転がっていた。?竜士くん何でこんなところで寝てるの…?部屋のお布団で寝ればいいのに…。竜士くん、と彼の名前を呼び近付けば途端に独特な匂いが鼻についた


「!わ、お酒くさ…」


…お父さんも大概お酒を飲んで帰って来たりするけど、私はこの独特の匂いが好きじゃない。…というか竜士くんはまだ高校生だから未成年なんじゃないの、かな。これじゃまるで不良だ。


「(……い、妹分の私が注意しなきゃ…!)」


あの優等生だった竜士くんが、暫く東京の学校に行っていたせいで人が変わってしまったのだろうか。確かに金兄が「東京は怖いところだ」って言ってたけど…竜士くん、悪い友達でも出来ちゃったのかな。飲酒するなんて…!そしてゆくゆくは煙草を吸いだしちゃったりなんかして……


「そ…そんなのダメダメ!りゅ、竜士くん!起きて!!」
「……あ?葵?」
「ちゃ、ちゃんと説明しなさい!これは一体どういうことなの!何でお酒なんか飲んだりしたの!」
「…酒…??」


むくりと上半身だけ起き上がった竜士くんは「アホ〜これは酒じゃなくてジュースやジュース。霧隠先生が渡してくれたんや」と私に空き缶を見せつける。…いや、それラベルにアルコール5%って書いてあるじゃない。これはやっぱり酔ってる…のかな。呂律も回ってない…


「竜士くん、あの…」
「葵、」
「?なに?」
「葵お前、志摩なんかと付き合ってるんか?」
「!えっ…」


な、なな何でいきなり…!?目を丸くして驚く私に、竜士くんが「どうなんやお兄ちゃんに答えや!お前、志摩のこと好きなんか!!」なんて大声を出す。うわああ酔っぱらいの人はこれだから嫌だ…!怖い…!私はじろりと睨みをきかす竜士くんから視線を外し、ぽつりと呟いた。(話をずらせそうにもないから…)


「好き…だよ。廉造くんは小さいころから優しかったし、いつも私に笑いかけてくれたから」
「……そんなん俺かて葵には優しくしてたわ」
「…ふふっ、そうだね。竜士くんはいつも優しかったよね。私にとっては頼りになるお兄ちゃんで…私は竜士くんがいないと何も出来ない弱い子だった」
「……。俺は、あんな頭ん中までピンク色の女好きの変態にお前のこと任せたないわ」
「?竜士くん?」


真っ赤な顔をした竜士くんがふらふらと私に歩み寄る。?酔って上手く歩けないのかな…?私はそれを支えてあげようと彼に手を差し伸べる。が、次の瞬間不意に手をグイッと引っ張られ、私は竜士くんにそのまま抱きしめられた


「!っ…竜士、くん…?」
「……お前は可愛い妹や。お前が悲しんだり苦しんだりしてるところを俺は見たない。…いや、妹だからって言うのは違うな。それは俺とお前の関係性に過ぎんわ」
「そ、それって…」
「俺はお前が好きなんや」
「!」
「泣き虫なくせに変に頑固で意地っ張りで、周りのやつに気ィ遣い過ぎて自分のことは棚にあげるようなアホ…他にはおらん。放っておけないんや、危なっかしくて」
「…竜士くん…」
「だから、今までみたいに…これからも、俺が……」


ふらっ。竜士くんが言葉の途中でカクッと頭をもたげる。耳元には竜士くんのスースーという寝息が。……寝ちゃった、のかな。私は竜士くんに抱きつかれたまま、呆然と座り込んだ


「(……好き…?竜士くんが私を?)」


それはー…どの好きなの?私だって、竜士くんのことは好き。でもそれは…お兄ちゃんとして。血は繋がってなくても私達は家族だから


「〜っ……」


でも……家族としての繋がりがなかったとしても、私は竜士くんが好きになってたと思う。明陀の為に努力する竜士くんはとてもかっこよくて…私は憧れてたから


『葵ちゃん、』


ー…でもそれは、廉造くんに対する気持ちとはまた少し違う気持ち。好きなんだけど…何かが違う。竜士くんが私に思っている好きはどの好き?私が竜士くんに思っているのはどの好き?廉造くんに対する好きとは何が具体的に違うの?そんな疑問を問いかけて、私は竜士くんのワイシャツをぎゅっと軽く握った。ー…ねえ、竜士くん。竜士くんは私のこと、いつからどういう存在に思っていたのかな?




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