はあ、と吐く息が白く濁って消えた。乱雑に巻き付けたマフラーに顔を埋めて下を向く。雪が降りそうな朝だった。寒いのは得意じゃない。こういう日は布団にくるまって眠っていたい。自然と目が覚めるまで静かに。それを幼馴染みに話したら熊か、と笑われた。わたしはどちらかというと蛙が好きだ。冬眠と言えば飼育用のハムスターは冬眠すると目覚めることはないらしい。冬の眠りは彼らにとって自殺になる。恐らくわたしもこのままこの道路の真ん中で誰にも気付かれず眠っていたら目覚めないと思う。やっぱり眠るならこたつの中か人肌に温まった布団の中がいい。そしておはよう、と明るい声で朝を迎えるのだ。なんて幸せなのだろう。そう、ふふ、と笑ったところで頭に軽い衝撃が走った。ああ、そういえばそうだった。伏せてしまっていた頭をゆっくりと持ち上げると怒りを隠そうともしない教師と目が合う。さっきの衝撃は教科書を丸めたものだったらしい。中々古臭い起こし方をするものだ。何も言わないわたしに教師はゆっくりと放課後、と告げた。何度目だろうか。机に向き合って小難しい教師の話を聞いているとどうしても瞼が落ちる。よくよく考えて見れば教室についてからの記憶はほとんどない。机の横にかけられた鞄。着たままのブレザー。巻いたままのマフラー。この学校は眠るにはもってこいの温度すぎるのだ。教室の注目がわたしから教師にゆっくりと移る。マフラーを外したとき静電気がばちばちと小さく音を立てた。雪が降りそうだ。
放課後になるまでわたしは何度も睡魔と戦った。結果は聞かないで欲しい。わたしは重い足取りで教師の元へ足を運ぶ。歩いていた廊下の窓から見えた雪景色にわたしは思わず声をあげた。

「わあ…」
「なまえ」

声に振り返れば幼馴染みの跡部が居た。眉間にしわをこれでもかってくらい寄せてわたしを酷く睨み付けている。まあ恐らくわたしが日中爆睡をかましていたことを忍足くんが告げ口でもしたんだろう。忍足くんはいじわるだ。いつもいつもわたしのアホみたいな馬鹿みたいなとこばかり跡部に言いふらしてはわたしは跡部に怒られる。もう慣れたからいいんだけどね!ってこんなところで足を止めている場合ではない。わたしは先生にお呼ばれしているのだ。

「あ!ねえ跡部、一緒に帰ろ!」
「はあ?」
「わたし先生に呼ばれてるから待ってて!」

冬は苦手だ。寒いし眠いし、授業中は寝てしまうし。どうしたってわたしは冬に抗えない。それでも冬は嫌いにはなれない。跡部が優しく笑うのだ。跡部にはずるいくらい雪が似合う。

白い魔法と雪の幻想

20150513~0618



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