わたしは震える手で、赤く濡れたガラスを握っていました。


わたしは森の奥でひっそりと暮らしています。不便なことは少なからずありますが、わたしには大切な恋人がいるので、とても幸せでした。

しかし、わたしは駄目な人間でした。彼の言うことをちゃんとに出来ない駄目な人間でした。彼はそんなわたしを叱りました。そんな彼の掌はいつも真っ赤でした。目の前が滲んで、口の中が不味いのも、わたしが駄目だからです。そのあときまって彼は、好きやでと笑うのです。わたしは幸せ者です。
そんなある日、森に新しい人が住み始めました。白石さんと言う方です。ミルクティー色の髪を靡かせた綺麗な人でした。白石さんの笑顔はとてもわたしを落ち着かせてくれました。不思議な人でした。

彼はわたしに、白石さんとは関わるなと言いました。わたしはそれに疑問を抱くこともなく、頷きました。
それでも、わたしは駄目な人間でした。わたしは彼の言い付けを守ることが出来ませんでした。彼が家に居ない間、わたしは白石さんを家に招きミルクティーをご馳走しました。白石さんは美味しいと笑ってくれました。初めてのことでした。わたしは嬉しくて涙が出ました。ポロポロと泣くわたしに白石さんは触れると、眉間にシワを寄せました。わたしは、可笑しいことを知りました。
その時です。ドアがガチャリと開いて彼の姿が見えました。わたしは咄嗟にその場にあったティーカップを握り、振りかざしました。何度も何度も。ティーカップはみるみる粉々になり赤く染まりました。唸る彼を目の前に、わたしはティーポットを降り下ろしました。

わたしは震える手で、赤く濡れたガラスを握っていました。


「おかえりなさい、謙也くん」
「ただいまなまえ」


冬の選択


20141208



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