目の前で死んだ仲間を誰かが犬死にだと笑った。それは違うとも思ったし、確かにその通りだとも思った。わたしはこの程度の薄情な人間だ。手のひらについた血が巨人の血なのか仲間の血なのか、それが蒸発し始めてからじゃないと知り得ないのだから。

今日は超大型巨人が壁を壊してからの久しぶりの壁外調査だった。本当に酷く、気が乗らない。わたしがどれだけ非情で薄情であったとしても、仲間が死んでいくのは気持ちのいいものではない。でもそこで目をつむっていては、次に死ぬのは自分だということを体が知っていた。死にたくない、生きていたいと、生にすがるのは、生きている証なんだと。巨人の弱点を器用に削ぐこのブレードも嫌なくらいに扱いこなしていた。目の前で仲間を食い殺す巨人を
殺すのは、怒りという名の衝動なのか、頭に叩き込まれた動作なのか。わたしは少しでも人間でありたいと思うばかりに前者であることを願った。


「撤退です!!」
「は?」


後方から馬と走ってきた兵士が突然に告げた。自分でも思わず間抜けな声が出たと思う。しかし、彼が何を言っているのかを理解するために時間はかからなかった。兵士の顔が酷く蒼白している。空を見れば撤退の炎弾が撃ち上がっていた。巨人を殺すのに夢中になって気付かなったらしい。もう、わたししか残っていない。
撤退の理由は馬に乗った時に理解した。まるで、わたしたちが巨人を追いかけている。補色対象で在るべき我々を見向きもせず、巨人が向かうのは壁だ。巨人が何を考えているのか理解したいと思ったことはないけれど、さすがにここまで理解不能だとは思わなかったよ。

壁の上までくると、その異様な光景に目をつむりたくなった。意味が、分からない。わたしには到底理解が出来ないということだけ、理解が出来る。隣で自らの恍惚さを隠すことなくハンジがゆっくりと口を開くのをわたしは感じた。


「ねえ、なまえ、私の見間違いでなければあれは」
「…ああ」


わたしは口を開いてハンジの発言を肯定した。見間違えるわけがない、わたしたちはアレを、巨人という存在を嫌というほど見てきたのだから。しかし、巨人の中から人間が出てくるなど、わたしたちは知らない。



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テーマ「人外ファンタジー」
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