「104期生、ねえ」
「へえ、めずらしいね、なまえが興味をもつなんて」
「それは失礼な物言いだね、ハンジ」


わたしの特に意味もないひとりごとの呟きに反応したのはハンジだった。ハンジは決まって、壁外調査の前日の朝、わたしと朝食を共にする。特に意味はないらしい。わたしたちは、調査兵団のせまっくるしい食堂で新聞を開き、昨日も今日も明日も明後日も変わらないであろう朝食とコーヒーをとった。
いつぞやの巨人が壁を壊したせいで、調査兵団のあってなかったような金は底を付きかけで、わたしたちのコーヒーは薄さを極めている。それでも飲むのをやめるつもりは心底ない。それが、わたしなりの抵抗だった。
今回の訓練兵は何人調査兵団に志願してくれるだろうか。きっと彼らは巨人の恐ろしさをまだ、知らない。片手で容易くわたしたちの四肢を持ち上げ後はその巨人の好きなように死ぬだけ。死ぬ恐怖より、殺されるという恐怖のが少しだけ大きい。そんな恐怖に耐え兼ねて自ら命を捨てた仲間を何人と見てきた。超大型巨人に壁を壊された今では、生きるか死ぬかの二択ではない、どれだけ死から遠ざかることができるか、それが今の現状。だからこそ兵士は憲兵団に身を置こうと必死になる。内地が、巨人の来ない、安全な場所だと信じきって。それでも憲兵団を目指し兵士になったとしても上位10名に入らなければ意味がない。毛頭そんな考えは、100年前に捨ててしまえばよかったんだ。憲兵団にせよ、駐屯兵団にせよ、死は100年前からずっと隣に存在しているのだから。


「ああ、いけない、ハンジそろそろ時間だ。明日の壁外調査の会議が始まってしまう」
「あっちゃ〜またリヴァイがカンカンだよ」



新聞を乱雑に畳み、残っていたコーヒーを飲み干して席を立った。薄いコーヒーの後味がわたしの日常だと言い聞かせていた。巨人が隣で笑っていたとしても、わたしの日常は何も変わっちゃいないんだと。



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