屋上から下を覗くと、銀髪が血に濡れて、微かに風に揺れる。そこには血の水溜まりが出来ていた。



 始まりは一年生の冬。クラスからそして教師から酷い嫌がらせを受けていたわたしはこの世に生きる意味を見出だせなくなっていた。死にたい、死んで楽になりたい。そう考えてしまった頭は酷く冴えていて、屋上へ向かう足取りは軽い。冷たい風の吹く屋上でするりと靴を脱ぐと、書いた遺書を踏ませた。屋上のふちに立って下を眺めると死はそこにある気がした。さようならお母さんお父さん。前に進み出すように足を踏めば簡単に体は宙に浮いて、わたしは浮遊感に襲われる。やっと死ねるのだと思うと涙が出た。
わたしが目を開けたのは屋上の上だった。
 何が起こったのか理解が出来なかった。どうして生きているのだろうか。夢だったのかと頬をつねると痛みが走る。すぐそばに脱いだ靴と遺書があるのを見てわたしは一つの答えに行き着いた。飛び降りた時のインスピレーションでもしてしまっていたのだろうと。それなら次にやることは決まっていた、わたしは死に来たのだ。わたしは慣れたように屋上から身を投げた。これで本当にこの世からおさらばだ。
わたしが目を開けたのは屋上の上だった。
 どうしてだろう。わたしは確かに飛び降りたはずだった。死ぬ意思はしっかりそこにあったはずだから。それなのにわたしは生きている。可笑しいのはわたしなのだろうか。わたしは少し急ぎ足になって屋上のふちに足をのせた。何が起こっているのかは分からないけれどこれで最後にしよう。わたしは大嫌いなこの世とさよならするのだ。体を前へ傾ける。わたしを支えるものがないそこでわたしは静かに落下していった。
わたしが目を開けたのは屋上の上だった。

 飛び降りて101回、何分、何時間経ったのか分からない。それでも変わらずわたしは生きている。可笑しいのはわたしじゃない。だからと言って何が可笑しいのか分からない。85回目に投げた左足の靴はわたしが何度死のうとしても戻って来なかった。わたしだけが、ここにいる。涙が出た。余りに皮肉だった。わたしはただ死にたいという一心だけで今を生きていた。死ぬために生きていた。わたしは泣きながら屋上を飛び降りる。102回目、それは確信だった。
わたしが目を開けたのは屋上の上だった。



 一年生の冬。クラスからそして教師から酷い嫌がらせを受けていたわたしはこの世に生きる意味を見出だせなくなっていた。死にたい、死んで楽になりたい。屋上のふちに立って下を眺めると死はそこにある気がしていたのに。何度繰り返しただろう。前に進み出すように足を踏めば簡単に体は宙に浮いた。ただいつもと違っていたのはわたしの腕を握る手だった。
「なに考えてやがる!」
生徒会長だった。額に汗を見せて綺麗な銀髪が揺れていた。こんなことは初めてだった。最初こそ驚きはしたけれど今までと何ら変わりはない。わたしはどうせ、死ねない。
「はなしてください」
その時だった、強い風が屋上を横殴った。彼はぐらりとバランスを崩す、するとわたしは浮遊感に襲われた。そこにはわたしの腕を握ったまま一緒に落ちる生徒会長の姿があった。故意でこんなことをしているのだとしたら、救いようがない。この人は、わたしとは正反対の人間で、死から程遠い。無条件に、幸せで周りが溢れている。でも結局、生徒会長も、死ぬ前に、わたしの腕を引く前に戻るのだろう。そう確信して目を閉じるとわたしを包む温もりがあった。それが、抱きしめられていると理解するのに、時間はかからなかった。わたしを刺す冷たい空気はそこにはなくて、あるのは温もりだけ。こんな死に方も悪くないな、なんて、わたしは時間が過ぎるのを待った。
わたしが目を開けたのは屋上の上だった。

遠くでぐしゃりと音がした。
屋上から下を覗く、銀髪が血に濡れて、風に揺れる。そこには血の水溜まりが出来ていた。


ぬばたまの夢に咲いた

20141204
(☆Stroll様に提出)



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