君の美しいという概念が崩れることはなかった。幼馴染みの私がその美しいに入るかと言われればそうではなくて、言うなれば例外。良いように言えば特別。聞こえがいいのは後者だ。そして望んだのも後者だ。
「おはよ」
「おはよう」
「今日も一駅前で降りるの?」
「もちろんだ!」
駅まで向かう道のり。彼はぺらぺらと出来上がった論文を話すように、理論を話続ける。その論文は聞き飽きて私のほうまで喋れそうだ。
「最近、水泳部の勧誘受けてるんだっけ?」
「ああ、まあ」
「陸上やめるの?」
「やめるわけないだろう」
あんなに美しいのに。そう言って彼は列車をおりた。少し遠くで彼が走るのが見える。私は揺れる吊革につかまって、波のように揺れた。
あなたの心が波のように揺れているのを知っている。そしてその美しさにのまれるように流されるのを知っている。そこでは私の声すら届かない。
今夜はここで眠ろう
(忘れ去られてしまわないように)