「財前くん私と同じリップクリームやんね」
「…せやな」


マフラーでくぐもった声を出したのは新学期になってから同じクラスになった財前光くん。まあどういうわけか担任はオサムちゃんで。オサムちゃんは新学期早々、クラスの名前覚える気ないから勝手に好きな席座り〜なんて他の先生完全無視発言をした。そんなオサムちゃんに愕然としていた頃には安定の女子グループが出来上がっていて、完全に置いてきぼりをくらった私は元の席を動けず、まあ一番後ろだしいいかあ、なんて思っていたら隣の席がガタンと揺れたのだ。それが財前くんだった。窓側の一番後ろに座る財前くんとその隣の私。窓から桜が散るのとか、財前くんがテニスをしている姿とか、落葉とか。季節が変わる度オサムちゃんは席替えをしたけど、私と財前くんは変わらなかった。また隣やね、って。


「さぶいね財前くん」
「ほんまやなあ」
「見てカイロ〜ええやろ」
「貸せ」
「いややさぶいもん…、なんや財前くんリップ忘れたの?」


財前くんと隣になってまた冬がきた。マフラーに埋もれて微かに見えた唇を指差して言う。財前くんは自分の唇を少し撫でて頷いた。


「…貸そうか?」
「なに言うてんの」
「財前くんなら、ええよ」
「は?」
「おそろい」


財前くんは真っ赤になって静かにリップクリームを受け取った。


寒空の下で恋をする


20140813~0903
リップクリームの貸し借りってどうなんですかね



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