「なあなあ」
「…」
「なあなあなあなあ」
「……」
「なあなあなあなあなあなあ」
「………」
「なまえ」
「!」


私の体がピクリと反応して思わずそちらに目線をやる。そこにはしてやったりとにんまり笑う遠山くんがいた。

事の発端はつい先週の事だ。白石先輩たちがテニス部をやめて、財前くんが白石部長に負けないくらいの部長をしていて惚れ惚れした。もちろんそこにラブだとかそういう感情は一切無い。どちらかというと、少し前まで小さかった遠山くんをびっくりするくらいの成長期が襲って、私の身長も楽に越えて、金ちゃんなんて呼び名が似合わなくなってしまった遠山くんを意識している自分がいるくらいだ。だからと言ってテニス部に私情を挟むわけでも、これからの関係を壊すわけでもなかったその少しの感情を、私は簡単に水に流すことが出来たのだ、あの時までは。
引退してから久しぶりにテニス部に顔を出してくれた白石先輩たちに、私含め部員が喜んだ。もちろん遠山くんも喜んでいたはずだ、しかし彼の様子は少し可笑しくて、白石先輩と話す私の目を後ろから覆った。ふらっと暗くなった視界に私は戸惑う、私はその時遠山くんの成長を改めて思い知ったのだ。


「俺以外、見んといてや」


コシマエくんをテニスに誘うような、たこ焼きを無作為に欲しがるような、そんな遠山くんが記憶から消えた。それから一週間、部活には行くが執拗なまでに遠山くんを避けた。というか極力関わるのを抑えた。いつもと変わらずなんて恋愛経験のない私からしてみればそんな無理難題が出来るわけもなく。財前くんや部員に迷惑をかけたが私の心の整理と落ち着きが戻るまでと。そして今日やっと全てを水に流し、前の私に戻れた矢先だった、はずなのに。部室に二人きりの私と遠山くん。


「なまえだって馬鹿じゃあらへんやろ」
「……せ、やけど」
「分かっとるんやろ、あのとき白石にやきもち妬いたこと。言わなきゃ分からへんのなら、いくらでも言うで、なまえ好きや」
「……!」
「好きやなまえ、好きやで、めっちゃ好き。…ほんま好きやなまえ」
「も、っいい」
「なにがええねん」


遠山くん体がまとわりつくように私を抱き締めあげる。私の知ってる遠山くんはそこには微塵もいなくて、そんなテクニックどこで覚えてきたのって聞きたくなるように、耳元で遠山くんは何度も何度も好きって言う。


「ほんま、もう分かった、分かったから…!」
「なにが分かったん?」
「…遠山くんの気持ち!」
「ちゃうよ、なまえ」


ちゅ、と触れるだけのリップ音がして視界が奪われた。


キャパオーバー



20140812



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テーマ「人外ファンタジー」
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