バイト先の店長は左手に包帯を巻いていて、ことあるごとにエクスタシーだとかなんだか横文字を並べては、整ったイケメン面を見せつけてきてうざい。その度にマヤの予言はいつ実現するんだろうと頭を抱えます。先輩まじうざい。
「すいませーん」
「はーい」
店先の方で可愛い声がした。それに反応した先輩は弄っていた薬草にちょっと待っててな、と声をかけて店先へ走って行く。その後ろ姿を見て私はため息をついた。可愛い声の主は先輩の姿を見てほのかに頬を赤らめている。声も可愛ければ顔も可愛いお姉さん、その人頭可笑しいんです、かなり。ということを声を大にして叫びたい。まあ叫んだところで信じてもらえない確率98%だ。
「あ、あの、白石さんの好きな花って、なんですか」
お姉さんの声は震えていた。きっと先輩は悪気もなく簡単に言ってしまう。そのイケメン面で。
「薔薇、やで。…真っ白いやつな」
ぼっ!と火山が噴火したようにお姉さんは真っ赤になった。まあ火山が噴火したとこなんてみたことないけど。真っ赤になったお姉さんが、先輩が好きだと言う白い薔薇を一輪買った。おおきに〜と手を振る先輩にお姉さんはそれはそれは嬉しそうに帰っていく。もてる先輩が悪いのか、恋に落ちるお姉さんが悪いのか。
「なんで素直に毒草が好きだって言ってやらんのですか」
「なんややきもちか」
「それだけはありえへんので勘弁してください」
「難儀なやっちゃなあ。それに俺は嘘なんかついてへんで」
「は?」
店先から戻ってきた先輩は釈然と毒草を弄りながらへらへらと笑って私を見た。先輩の顔が一瞬きり、と尖って、その顔は嫌いなんだ。
「なまえちゃん好きやろ?白い薔薇。だから俺も好き、嘘なんかついとらん」
「…くっさい台詞どうも」
私は何度目かのため息をついて店に並べられた白い薔薇を見た。バイトの面接の時に聞かれた好きな花。特に意味はない、好きだから好きなのだ。店先の遠くから遠山くんが私のなまえを呼びながら走って来るのが見える。いつも元気だなあ、君は。
「なまえー!」
「いらっしゃい遠山くん」
「金ちゃんまた来たんか」
「なんや白石!!またなまえのこと口説いとったんか!」
「ほんまなまえちゃんエクスタシーやで」
白石蔵ノ介の花屋で働く話
20140810
金ちゃんは学校の友達