リング争奪戦も終わって10年が過ぎた。時間とは人をも軽く変えてしまう。10年前はうぶで青かったあの沢田綱吉も今じゃボンゴレ十代目。目が眩むように時間という年月は過ぎていく中で、もちろん失うものは多々あった。安物のネックレスだったり、使い古したコートだったり、彼氏だったり、顔も覚えてない部下だったり。でもそれが自分の中で大きな存在であったなら、何か違って見えたのであろうか。
ミルフィオーレファミリー、その名が有名になったのは、うちのヴァリアーの幹部、マーモンに異変が訪れてから、いや、アルコバレーノ全体に、の間違いかもしれない。けど他人なんてどうでもよかった、目の前の大切な人が消える、というのは余りにも経験のしがたい事であったから。

「マーモン、大丈夫?」
「大丈夫、だよ」

気付くのが遅すぎた、と彼を見ているとそう責められているような気分になった。よろよろに足元も覚束ないように歩く彼を支えられても、救う術をわたしは知らない。不甲斐ない、人の殺し方は嫌と言うほど知っているのに人の救い方を、仲間の救い方をわたしは知らない。

「お別れのようだ」
「え?」

そう言ってテラスの柵のふちにちょこんと立った彼は見て分かるように透けていた。そこからしっかりと月明かりが嫌みみたいに私を照らしている。

「待って、みんな、みんな呼んでくるから」
「なまえ」
「マ、マーモン」
「君だけで、いい」

いつになく素直で、いつになく彼らしくて、今までの病人の様に弱々しかった彼はどこに消えたのか。今にも消えそうな彼は、今までで一番元気だというのに。

「僕が居なくなっても泣くなよ」
「泣かないよ!わたしだってもう子供じゃないもの」
「元気でやりなよ」
「うん、」
「そうだね、僕の財産は君に全部あげるよ」
「ええ、使いきれるかなあ」
「僕の力で、幸せになって」

そんなの、

「月が綺麗だよ、マーモン」

あなたがいないこの世界でわたしは幸せになんてなれないのに。それでも無慈悲な、月が、わたしを照らしていた。


残酷な遺言
(なにもいらない、あなただけでいい)


20120521~20150706



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テーマ「人外ファンタジー」
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