なくしたものはもうかえって来ない。そんなの分かりきった事。でも、あーはい、そうですか。なんて言えるほど強くもない。


「…死んだ?」
「そうだぁ」


スクアーロが顔色変えずにそう言った。スクアーロは嘘つかない。ついたとしても顔に出るし、嘘が下手な男だこいつは。だからこれは嘘ではない。死んだと聞いてそうだ、と返ってきたのだから。嘘ではない。死んだ。


「ベル」


いつもみたいに真っ赤になって帰ってきたベルは無表情だった。たっだいまー、そう言って笑うあいつはいなかった。だから私もおかえり、なんて言って笑えなかった。私を笑わせる人がいないのに私はどう笑ったらいいの。


「さみしいのは分かるが諦めろ」

「わかってる」


普通だったら最悪で冷酷な男だとスクアーロを非難するだろう。でもヴァリアーで死なんて日常茶飯事。一々人が死んだくらいでわんわん泣いてられるほど暇じゃない。兵士も幹部も使用人も全部同じ、待遇こそ違うけれど、死んでしまえば皆同じなのだ。ただの屍。


「…馬鹿、」


同じなのだ。死ねばそれこそ、無に帰る。ただこの世の人口がただ一人減っただけ。私だって死ねば同じ。悲しむものもいなければ何も感じるものもいない。ただ私という人間が無になっただけ。


「さよならベル」


私の中から貴方という人間が消える事はないけれど、貴方という人間はこの世から消えてしまった。それに関して誰も、私も何も思わない。ああでも任務の数が増えてベルのせいだといないあんたに責める事はあるかもね。


水面を這う



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