「変わんない」
「何が?」
「いつもと変わらないって言ってるの」
昨日の夜、臨也から明日仕事ないからどっか行こうよって連絡が来て、久しぶりの外出デートだ!ってわくわくうきうきで臨也んち来たのはいいけど、さっきから全く動きがない。
「どっか行こうよって言ったの臨也だよね」
「だって池袋にはシズちゃんいるし?」
「いつも普通に来るくせに」
あれ、なんだか悲しくなってきた。こんなんだったら正臣たちどっか行けばよかったんじゃないの。一人ではしゃいで馬鹿みたいに。そんな事考えながらソファの上で膝を抱えてうずくまる。
「……わたし帰る」
「え?」
「こんなの波江さんがいる時と変わらない」
やだもう。ほんとにほんとに馬鹿みたい。池袋からわざわざ交通費かけて来てるのにいつもと変わらない自宅デート?わたし今すごく惨めで恥ずかしいや。
「ねえ、なまえ」
廊下へのドアノブを捻ったとき、リビングから臨也がわたしを呼ぶ声がして足を止めた。
「俺、行きたいとこあってなまえ呼んだんだけどなあ」
「…帰る」
「なまえ」
臨也の声が耳元まで来ていて、目頭がじわっと熱を持って滲んだ。よくよく考えてみたらこんなこと初めてじゃなかった。この前だって休みだって言われて来てみれば、急な仕事だって臨也はパソコンに向きっぱなしだったし、池袋に来てくれたときだって静雄さんにばっか構ってたし、わたしのことなんか視界にすらいれてくれなかった。わたしはそのとき思い知るの、全然違うとこに立ってるって。わたしの両の目からぼろぼろ涙が止まらない。わたしはしょせん、ただの高校生なのだ。
「なまえ」
「別れたくない、絶対やだあ」
「はは、それは予想外だよ」
臨也はわたしをぎゅっと抱き締めた。生クリーム絞るみたいに優しく包むみたいに。わたしは臨也の背中に腕を回して泣いた。歯みがき粉を最後絞り出すくらい力強く。そのあとわたしは子供みたいに疲れて眠ってしまっていた。起きたときには真っ黒い臨也のベットの上だったから。頭のところでカサ、と紙の音がして、わたしはまた涙が止まらなくなった。
「名前書いたら一緒に出しに行ってくれる?」
「ばか!」
紙っぺらの証明書
(形だけでもいいの)
~~20150511