誰かを殺したくなったのはこのうだるような暑さの中。キュ、キュと、バッシュが響く、先輩たちの声も響く、雅子監督の声も響く。それなのに私一人無音で取り残されている感覚。置いていかないでと振り上げた手を誰かに刺せたのなら、私は楽になれるのだろうか。
「ねー、あつし」
腹部がずきりと痛む。聞こえてない声に含む殺意。雅子監督がちらりと私を見る。それには気付かないふり。この元ヤンめ、とは良く思う。
「なまえ?」
「なんです?」
くるりと向けた笑顔に雅子監督はなんでもないと言う。そうそれでいい、私に向いた殺意を私が受け入れられなくなった時、その時、その矛先が向くのはその場にいた全員だ。
ずきりずきり、と、腹部が痛む。これは紫原から受けた殺意。振り上げたそれを受けたのは私。
私が向けた殺意を受けるのは誰なんだろう。そんなうだるような暑さの中、私は独り手を振り上げた。
滴る色
(きれいだね、と)