俺は何百何千の人間を殺して来たけど、この世の半分は誰かの死に目さえ見た事がないんだろう。今俺の隣にいるやつだってそうだ。死を知らない、知らないんだ。


「…なまえ」
「…ベル?」
「なに?」
「なまえって誰?」


あいつを忘れる為にいろんな女を抱いた。あいつに見合うような女を側においた。世界に三人いるらしい顔の似てるやつも、声が似てるやつも、性格も。それだけど違う。


「なにやきもち?」
「ち、違うよ!」
「かんわいー」


いつからか俺は嘘偽りで塗り固められた言葉しか言えなくなった。あいつに言えていた言葉は上辺だけの言葉になってしまった。俺にとっちゃくだらない言葉でもあいつにしか言わない大切な言葉だったんだろう。


「ベル最近なんか考え事ばっかしてるね」
「お前の事ばっか考えてる」
「…ばか…」


うそ、あいつの事ばっか考えてる。俺の中であいつを考えない日はないんじゃないの。人を殺してる時が一番鮮明に思い出すよ、あいつの真っ赤な血が俺を染めるから。


「…やっぱつまんね」
「え―――?」


抱いていた女の心臓を愛用のナイフで一つ突きすれば喋らなくなった、呼吸の音だって聞こえない。聞こえなくなった。

無音がそこには響いた。あいつの笑い声もあいつの泣き声も、愛おしそうに俺を呼ぶあいつも、もういない。


初めて殺しを嫌った日
(それはお前が死んだ日)



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