「行ってらっしゃい」
「ふ、…行ってくるよ」


それはさよならだった。私の目の前で彼が弾けて消えた。消えたのだ。死んだんじゃない、消えた。彼がこの世にいたという証拠は私たちの記憶だけ。私の記憶の中で彼は生き続けるだろう。

みんなにそれを伝えるべく私は談話室に向かった。みんないるだろうか、ザンザスは執務室かな。そしたらそっちにも行かなくちゃ。彼が、マーモンが、いなくなっちゃったって。そしたら予想のほか、談話室にはみんないた。もちろんザンザスも。


「いっちゃった…」


へらりと笑った、笑えてるはず。涙は出なかった。だって悲しくはなかったから。私の言葉を聞いてみんな黙り込んだ。まあ最初から誰ひとり喋ってなんかいかなかったけれど。結局こんなものなのだ、誰かがいなくなったってはいそうですか、で終わり。


「泣かないんだな」


ベルは私の顔を見ずにそう言った。彼は後頭部に目でもあるのだろうか。それともヴァリアークオリティってやつ?


「そういうベルは悲しくないの?」
「べっつにー」


嘘だ、ほんとは少しだけ悲しくて、後は寂しいって思ってる。私も寂しいよ、彼がいなくなって。

彼の死が予兆出来たのは一週間前だった。なんで、いやだよ。そう叫んだけど彼は顔色変えずに仕方ないんだ、って言った。そんなの冗談でしょ、死にたくなくて仕方ないくせに、私はその時に泣いた、泣けるだけ泣いた。いつかさよならがくるなんて考えたくなんてなかったから。

それから四年半、私たちは大人になった。ザンザスは落ち着いて、スクアーロは静かになった。ベルは無意味な殺しをしなくなったし、ルッスーリアはますますオカマに近付いて、レヴィは相変わらずザンザス様々って感じ。私も相変わらずで、普通にただ普通に過ごしてた、そんな時だった。


「よろしくですー」


間抜けな気の抜けた声が談話室に届いた。カエルの被りものを被った術士。その隣にベルとスクアーロがいて、新しい霧の守護者なんだなって。彼の席を埋める人が来てくれたんだ、って。素直に思えるはずがない。


「フランですー、マーモン先輩の変わりによろしくお願いしますー」


ふ、と私と彼、フランの視線が重なった。どこかマーモンと似ていて嫌になった。マーモンは頑張ってたんだよ、って記憶になってたのに、それなのにマーモンの変わりって、


「なんで泣いてるんですかー?」
「え……?」


言われてみればそうだった。頬を伝う涙を拭ってみたが止まる気配すらない。止めたい気もしなかった。でもね、悲しいの。すごく。彼はここからいなくなってしまった、いつか新しく術士が来るって分かってた、だけどね、変わりなんかじゃないよ。私は立ち上がってフランに抱き着いた。


「…変わりなんて、言わないで」
「なんなんですか急に」
「彼を、忘れないで」


そっとおでこに唇をそえた。彼はここで生きていた、今も私の記憶で生きているの。それは誰にも否定させない。


「またマーモンですか」


ぼそりと聞こえた気がした。ごめんね、君を彼と重ねてしまうかもしれない、彼を求めてしまうかもしれない、その時は怒ってくれていいからね。


「ようこそ、フラン」


さよならと始めましてを一緒に



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