人間って最期は自分の身体に殺されるのね。昔付き合っていた彼女がそんな事を言っていたのをふと思い出した。その彼女は癌で大分前に死んだけど。今更になって確かにその通りだ、なんて思う。そんな考えに少し嘲笑して、手探りでバスケットボールを探した。ざらりと感じる独特な感触を両手で握り、それを人差し指で回してみせる。それは次第にバランス力を無くして揺られふためいて、人差し指から姿を消した。少し遅れてタンタンタンとボールが弾む音がして。あーあ、なんてため息をついて。取りに行く気力も湧かない動く気力も湧かない。昨日持ってきてくれた真ちゃんのおしるこも冷めて飲む気もしない。最初からつめた〜いなのだよって言うかもしれないけど、それでも飲みたくないんだ。

昔付き合っていた彼女が、人間って最期は自分の身体に殺されるのね。って言っていた。そんな彼女は癌で死んだけど。まあほんとにその通りだと思う。肌に感じる無機質な感触も、落としたバスケットボールも、今では不快な物でしかない。俺の目はもう何も映さない、試合中にふらっとしてぶっ倒れたのが始まり。鷹の目使いすぎちゃったかな、とか笑って言って、その時は医者も視力は戻るとか言ってさ。ほんと嘘ばっかり。まあ自分の身体の事だから分かってたんだけど。目が見えないと何するにも不自由で動くことさえ億劫になる。筋肉のついた自分の身体がたるんでいくのは寝てても分かる。今日は真ちゃんくるだろうか。まだ治ると信じてるのは真ちゃんぐらいだぜ?笑っちまうぜ本当。そんな時だった、自分の落としたバスケットボールが宙に浮くのを見たのは。


「は?えっ?」
『なに泣いてんの』
「なまえ?」


ぽろりと涙が溢れるのが自分でも分かった。見えなかったはずの目に映るのは昔付き合っていた彼女の姿。あはは、俺死ぬのかな、なんて。


『だから言ったでしょ、最期は自分に殺されるって』


彼女の小さな細い手のひらが俺の涙を掬う。やっぱ俺死ぬのかも。お前が来たってことはお迎えなんだろ?


「俺死ぬの?」
『生きてて楽しい?』


そこにはただ、無機質な一定の音が響くだけだった。


空になったおしるこ
(カランと音を立てて横に倒れた)



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