僕と彼女が初めて会ったのは体育祭の時、僕が落としたペットボトルのキャップを拾ってくれた時が最初。黒い髪を靡かせて落としたよ、と無表情でいう彼女は余りにも無機質で作り物のようだった。それでも、キャップを受け取った時に触れた指先は、人間その物の温かさを持っていたのを覚えている。

インターハイ最後の試合、帝光は優勝した。テツ君、という明るい桃井さんの悲痛な声を背に僕はバスケ部を辞めた。そんな時だった、一つの教室から、ピコンピコンという機械的な音がしたのは。部室の扉を見れば、色褪せた紙に掠れた字でビデオ部、と。確かビデオ部は廃部になったはずじゃ。それでも中から聞こえる音は止まない。僕は好奇心からかその扉を開けた。その真っ暗な部屋に照らすような大きなプロジェクター、それが映すのはウルトラマン。ピコンピコンという音は例の3分の合図らしい。それを目の前に黙って見ていたのはあの彼女。


「ウルトラマンはあなたを救えない」
「え?」


突拍子に彼女が声を発した。僕の顔さえ見ず、視線はプロジェクターが映すウルトラマンの中。


「ウルトラマンは確かに世界を救ってるかもしれない、けど、あなたの世界は救えない」
「…どういう」
「仮面ライダーもマジレンジャーもプリキュアもアンパンマンも、救えないの」
「よく、わからないです」
「…あなたの世界は今にも壊れそうなのに、それを誰が救ってくれるというのかしらね」


そう言った彼女の眼はしっかり僕を見据えていた。彼女の言ったことはよく分からない。それでも彼女はそれでいいと言った。


「いつかあなたの世界を救う救世主が現れるから。だからそれまで生きることを諦めないで」


そしてきみとであった
(くろこはぼくです)



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テーマ「人外ファンタジー」
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