マツバさんとご一緒





目を覚ますと時計はもう11時をさしていた。昨日のジム戦は夜中の3時まで長引いたので、いつも通りの時間には起きれなかったようだ。3時まで長引いた昨日のジムの最後の挑戦者、ナマエちゃんを思い出して、つい顔が綻んだ。…僕らしくないな、挑戦者にこんな感情を抱いてしまうなんて。



僕はもう自分の気持ちにはっきり気付いている。彼女が好きだ。しばらく恋なんてしていなかった。ただえさえ、自分から好きになる事なんてあまりないのに、久々の感情に胸が高鳴る。やけたとうで初めて彼女を見た時も、戦った時も、彼女に他の人にはない特別な何かを感じた。もちろんそれが理由で彼女を好きになった訳ではない。雰囲気、見た目、性格、全て僕のドストライクだった。挑戦者に恋をするなんてプライド的に許せなかったけど、彼女と関わっていくうちに、気持ちが抑えきれなくなってしまった。ジム戦が終わった後、まさかで抱きしめられた時、思わずこの僕がドキドキしてしまったし、自分だけのものにしたいと思ってしまった。


しかし、ナマエちゃんはこれからいろんなところを周るポケモントレーナー。僕はジムリーダーの仕事があるし他にもエンジュでする事が山ほどあるため、彼女に会える機会なんて全くと言って良いほどない。この思いは、届かずに終わる。笑うしかないよね。




そんな僕に、今日は久々にエンジュを出る用がある。コガネシティでジムリーダーの一部で会議があるのだ。アカネとハヤトくん、ツクシくんと4人の予定だったが、ツクシくんは虫ポケモンの調査かなんかで遠くにいってるんだっけ。



速やかに支度をして家を出る。コガネは隣町だから歩いていく事にした。
歩きながらもう一人、ナマエちゃんではない気になる人を思い浮かべる。最近のジムの挑戦者、名前は確かヒビキくん。彼にも他にはない何かを感じた。そしてここ最近見えはじめた、この地に伝説のポケモンを呼び寄せる人物の影……それとこれとが、関係しているのだろうか、いやしかし、それは僕自身だと信じている。
色々考えながら歩いているとあっという間に37ばんどうろにたどり着いた。そして目の前にある後ろ姿に一瞬目を疑う。でも、間違えない。あの姿は間違えなく…




「ナマエちゃん!」





そして彼女は振り替える。とても、可愛い。やっぱり、好きだ。



「マツバさん!昨日は、ありがとうございました!」
「こちらこそ。ナマエちゃんはジム巡りをしているんだよね?次はアサギシティだから、こっちだとまたコガネに戻ってしまうよ?」
「はい!コガネの先のポケモンじいさんとばあさんの家にポケモンを預けているんです。その子を迎えにいってからアサギシティに向かおうかなあって。」
「そうなんだ。僕はコガネシティで会議があるんだ。せっかくだから、コガネまで一緒に行こうか。」
「えっ、い、いいんですか?その、私なんかと…。」
「いいに決まってるだろう?ナマエちゃんとだから、行くんだよ?僕、ナマエちゃんの事好きだからさ。」
「良かったあ。昨日待たせちゃったから、もしかしたら嫌われてるかもしれないって…では、ご一緒させて下さい!」



笑った顔も特別にキラキラと輝いている。僕は本当の意味で好きと言ったつもりだけど、ナマエちゃんはどうやらそうゆう意味に捉えてないようだ。よく見たら、昨日と少し雰囲気が違うことに気付いた。今日はノーメイクなんだな。ノーメイクでも十分可愛いよ。




「良かったよ。ポケモンじいさんとばあさんには、僕もよくお世話になっているよ。」
「そうなんですか。ポケモンじいさんとばあさんは、ヒビキくん、じゃなくて、私の幼馴染のおじいさんおばあさんなんですよ。」
「え、今、ヒビキくんって…まさか、キャップを被ったマリルを連れている少年かい?」
「そうです!そっか、私よりちょっと前に多分エンジュジムいってると思うしなあ。」
「うん、昨日の一番に来たよ。まさかナマエちゃんと幼馴染とはね。仲良しなのかい?」
「はい、昔からずっと仲良しですよ。ワカバタウンに住んでるんですけど、小さな町だから、幼馴染がヒビキくんとあともう一人しか居なくて。ヒビキくんとは家も隣なんです!」
「…ふうん。そうなんだ。」




モヤモヤとした感情が疼く。彼はきっと僕の知らないナマエちゃんを沢山知っているのだろう。もしかしたらナマエちゃんの事が好きな可能性だって十分ある。そしてナマエちゃんが彼を好きな可能性も。そして、他にはない何かをもっていて、バトルだって割とあっさり負けてしまった。僕は生まれた時からずっと険しい秘密の修行をしてきたんだ。そして他の人には見えないものが、見えてしまう力を手に入れ、ジムリーダーになれるまで強くなった。けれど今の自分は彼に到底叶っていない。いろいろな面で。こんなに弱気になった事はあるだろうか?




「マツバさん……?」




ナマエちゃんの声でハッとする。そして自分の眉間の皺がよっていた事に気付く。



「ハハ。ごめんね、野生ポケモンの気配を感じたんだけど、気のせいだったようだよ。」
「そうだったんですね!私も気をつけて歩かなきゃですね!」





この笑顔を守れるようになる為には、僕はもっともっと強くなる必要があるようだ。そして、伝説のポケモンをこの地に呼び寄せるのは、この僕なんだ。









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