もしかしたらの偶然

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あれ、と疑問を思った頃にはもう遅くて、その姿は見当たらない。
ほんのついさっきまで目に写っていた姿が、今はどこにもない。
なんでだろう。
エレンは数分前の記憶をなんとか叩き出すが、結果は変わらない。


「兵長、もう行っちゃったのかな…」


食堂には大勢の人がいるが、エレンが探している人物はいない。
人混みが嫌いな兵長が珍しく食堂に来たのに。
エレンはなんだか残念な気持ちになった。
昼食をとっていると、いきなり目の前に人類最強と言われる男が座っていた。
最初は驚きつつも、質問などはせず、遠慮がちに食べていた。
ぱっと前を見ると手を頬を置き、眉間にしわを寄せて目を瞑っていた。
かっこいいな、なんて思っていたことは秘密だが、そこからが問題なのだ。
ほんの数分、トイレに行って戻ってきたら姿が見当たらず、今に至る。


「俺も、もう戻ろうかな」


ここで待っていて何かある、などそうゆう事が起こるわけではない。
ぎこちない気持ちのままその場を後にした。
本人の前では口が裂けても言えないが、うたた寝をしている時はいつもの鋭い目が閉じていて、見ていてなんだかくすぐったくなる。
こちらまで緩みそうになる、そんな感覚だ。


「トイレとか後にすれば良かったのに、なんであの時行ったんだよ俺…」


口から出てくるため息を飲む混むことはせず、足取りだけが重くなる。
前から足音がするが、今は顔を上げることは止めておこう。
そうして足音が横を通りすぎようとした、


「エレンっ…!」
「う、わっ、兵長っ…」


勢いよく腕を掴まれよろけかけたが、なんとか体制を保った。
ぱっと顔をあげると、少し荒く肩で息をしているリヴァイがいた。
エレンは驚き、言葉が喉で詰まってしまう。


「エレン、お前、どこ行ってたんだ」
「え、っと、トイレに…」
「…………」
「あ、あの、兵長?」
「…いや、別に」


今だ掴まれたままの腕から、リヴァイの手の熱が伝わってくる。
あ、兵長、汗かいてる。
こんなにも乱したリヴァイを初めて見た、とエレンは内心思った。


「あ、の」
「なんだ」
「…もしかして、探してくれてました?」
「あ?」
「ななななわけないですよね、すいませんっ!」
「ちっ…あちいな」


自分で否定した後で思うのも過剰だけど、否定はされてない、よな。
エレンはどう言葉をかけたらいいか分からず、ただ黙っていた。
少し間を空けた後に、リヴァイが言った。


「…偶然だ」
「え?」
「偶然クソガキがいたから来ただけだ」
「そうです、か」


まだ離れないリヴァイの手を一端離し、今度はエレンが両手できゅっと握った。
リヴァイは何も言わず、エレンより強く握り返した。


「兵長」
「なんだ」
「偶然、なんですか?」
「……たぶんな」


ああ、もう自意識過剰でもなんでもいいや。




title/休愛



130718





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