それは甘い恋の味






多分、というか見ていて分かるのだけれど、兵長はきっと甘いものは好きじゃない。
いつも兵長に淹れるコーヒーもブラックで、ペトラさんが飴をみんなに配ってた時も兵長だけ受け取らなかった。
甘党ではないんだろう。
自分が兵長と逆の味覚だからか、そんな周りからしたらどうでもいい事がつい気になってしまう。
ふとそんな事を考えながら、エレンは食べかけていたペトラ特製のパイを完食した。


「ご馳走さまでした。美味しかったです」
「そう?良かった」


ペトラは嬉しそうにふわりと笑った。
なんでこんなに美味しいものが嫌いなのか。
いや、嫌いという表現は間違っているかもしれない。
あながち苦手、と表現した方がしっくりくる。
今日もまた、リヴァイだけがパイを食べていない。
昨日はクルミパン、一昨日はプリン。もちろんリヴァイは食べなかった。
そしてその食べなかった分は必ずエレンが食べる。
リヴァイの分もがつがつ食べるエレンを見て、ペトラはくすくすと笑った。


「…何か変でしたか?」
「いや、兵長が言ってた意味なんとなく分かるなあって思って」
「兵長がですか?」
「ううん、なんでもない」


焦ったように言葉を濁してその場を去ったペトラに、エレンは疑問ばかりが頭をぐるぐる回る。
兵長が言ってた意味?
何か言ってたのかな。
まあ多分、食べ方が汚いとかなんとか、指摘の言葉なんだろうなあ。
そう思いながらエレンはリヴァイのパイの最後の一口を口の中に入れた。
そのまま後片付けをしていると、リヴァイが用を終えて帰ってきた。


「兵長、お疲れ様です」
「ああ」
「どこ行ってたんですか?」
「…クソメガネのとこだ。あいつ、あんな用で俺を呼び出しやがって…」


あんな用、とはどんな用か、聞かなくても代々エレンには分かる。
きっと巨人がどうのこうの、そんな話だろう。
乱暴に椅子に座ったリヴァイに、エレンはいそいそとコーヒーを淹れた。


「甘い」
「え、コーヒーですか?」
「お前、砂糖入れたか?」


少しの間があり、そのあと一気にエレンの顔が青ざめていく。
自分の分も作っていて、エレンが飲むはずのコーヒーを謝ってリヴァイに出してしまったのだ。
なんたる失態だ。
エレンは蹴りの一本を覚悟してリヴァイに頭を下げた。


「あの、俺のと間違えちゃって、…すいません」
「まあいいが」
「わああっ、すいませんすいませ…え?」


予想外の返事にエレンは間抜けた声を出した。
リヴァイはなんだ、とでも言いたげにエレンを睨む。


「蹴らないんですか…」
「蹴ってほしいのか」
「違います、すいません」
「とりあえず座れ。立たれると落ち着かん」


エレンはしどろもどろに返事をし、リヴァイの正面にゆっくり座った。
会話がないからか、軋む椅子の音がなぜかやけに大きく感じた。
しん、とした空気の中、リヴァイがコーヒーをすする音だけが響く。
甘くないのだろうか。
甘党な自分に合わせて砂糖の量を入れた。
それは、ミカサやアルミンにもかなり驚かれた量でもあった。
軽く三杯は入れたか。


「さっきからなんだ」
「え、」
「こっちばかり見るな。言いたい事があるなら言え」
「あ、いや、兵長甘いの苦手ですよね…?」
「だったらなんだ」
「それ甘くないですか?」
「死ぬほど甘いが」


そう言うと、リヴァイはいつもと表情を変えずにコーヒーを飲み干した。
死ぬほど、って。
エレンは苦笑いしか出来なくて、改めてすいません、と言った。


「お前は甘党だな」
「まあ、そうですね」
「今日も食べたか?」
「え?」
「ペトラが作ったものだ」
「あ、はい」
「俺の分もか?」
「えっ、あ、残しといた方が良かったですか!?」


エレンが勢いよく身を乗り出して焦ると、リヴァイは珍しく笑った。
不覚にもかっこいいな、なんてエレンは思った。
笑ったって事は、別に大丈夫だってとらえても良いのだろうか。
きっと今、エレンの腹の中で消化中であろうパイを食べた事を少しだけ後悔した。


「エレン」


名前を呼ばれて、ぱっと顔を上げると、唇に緩く生温い感触がした。
机を挟んで互いの唇が重なっているのに気付いた。
確かにそういう仲ではあるのだか、ここは人の出入りが少なくない。
こうやっている内にでも、いつ誰が来ても可笑しくないのに。
そう考えていても、リヴァイの舌は無理矢理エレンの口内に入ってくる。
エレンも拒む事はせず、小さく口を開いて入ってくるリヴァイを受け入れた。
追いかけてくる舌から逃げようとするが、そんな器用な事は経験無二なエレンには出来るはずもなく、そろそろ酸素も欲しくなってきた。
うっすら涙が浮かんできた時に唇が離れた。


「っはあ…へい、ちょ…」
「…ガキだな」


くしゃ、とエレンの頭を撫でてから振り向きもせずに行ってしまった。
今日のキスは、甘かった。
リヴァイが去ってからグンタやオルオが帰ってき、エレンはどうしようもなく真っ赤になっていく顔をどうにかしようと、必死だった。



一方、ペトラも片付けを放ってきてしまった事を思い出し、もう一度エレンの元に向かおうとしていた。
すると前から歩いてきた上司を見つけ、いつもと同じ質問をした。


「兵長、明日は何作ればいいですか?」
「お前に任せる」
「兵長の分はまたいつも通りにします?」
「ああ」
「分かりました!」


去っていく背中を見つめ、ペトラはリヴァイが言っていた言葉を思い出した。
それはエレンに初めてお菓子を作った時、大袈裟なくらい美味しいと言っていた。
その日の夜にも、先程の質問をした。


「俺の分は、あのクソガキにでも食わせろ」
「エレンにですか?」
「…あいつの食ってる時の顔は、嫌いじゃない」


そう言っていた事を思い出し、ペトラはまたくすくすと笑った。




何が書きたかったのかは私にも分かりません←
とりあえず、エレンが甘党だったらなあ、と。
初がこれってどうよ!
文才が欲しいですっ!!


20130513
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