太陽の下で






▼転生パロ



遠く長い夢を見た。
そこは冷たくて寒くて、残酷な世界だった。
ただ光がないわけではなかった。
暖かく、大事な何か。
記憶の中にないはずなのに。
無関係な世界のはずなのに。
とても、懐かしい。





「リヴァイさん」


ふと聞き覚えのある声が耳に届いた。
すん、とした匂いが鼻を引かせる。
これはコーヒーか。
ゆっくりと目を開けると知っている顔がそこにあった。
なんだか夢の中の人間に似ている。
あどけない少年に。
気のせいかもしれないが、よく解らない。
ぼんやりとしていて、あまり覚えていない。
久しぶりに見た夢。
夢なんて見ないと思っていたのだが。
顔を上げると、さらにコーヒーの匂いが強まった。


「…エレンか」
「珍しいですね、リヴァイさんが仕事中寝るなんて、どうぞ」


エレンは淹れたてのコーヒーを差し出した。
それを受けとりリヴァイは窓際に寄った。
コーヒーはほんのり甘くて、良い味だった。
甘いものはあまり好まないが、美味しい。
真っ暗な外。
冷気が窓の隙間からすうっと入ってきた。
今日も遅くなるな。
目に入った。開けっぱなしのパソコン。
それを見て、仕事中だったことを思い出した。
やはり公務員の仕事は楽ではない。
いや、仕事自体に楽なものなどないのだが。
小学校の先生。
人柄や性格から、似合わないと言われることも、もう慣れてきた。
最初は子供に泣かれたりもしたのだから。
エレンは先月来たばかりの実習生。
爽やかなルックスや人懐こい性格で生徒や先生にも人気である。
リヴァイの雑務がエレンの仕事だ。
こうして夜に共に仕事をするのも、当たり前のようになってきている。


「俺がやるんで、リヴァイさんはお休みになっててください」
「お前、時間割りの作り方知らねえだろ」
「大丈夫です」
「まだ教えたことねえだろ」
「やり方、見てたので大丈夫ですよ。パソコンお借りしますね」


そう言い、リヴァイの席に腰かけカタカタとパソコンを打ち始めた。
手慣れているように見えて、感心した。
人をよく見ているのか。
エレンは物事に気付いてからの対応が早い。
気が利く、といえば良い言い方になる。
反対にお節介、といえば悪い言い方になる。
しかしエレンには前者の方がしっくりきている。
子供たちにもそのような対応をしている。
だから一人ぼっちの子供を見つけて、駆け寄って行くのだろう。
先月からしか知らないエレンのこと。
なぜだかリヴァイは懐かしく感じていた。


「エレン」
「はい?」
「俺と前に何処かであったことあるか?」
「…いえ、」
「そうか」


カタカタとパソコンを打っていた手が止まった。
どうしたものかとエレンを見ると、俯いていた。
近寄り、声をかけようとして、躊躇った。
エレンの肩が小さく小刻みに震えていた。
鼻をすする音が聞こえ、泣いていると分かった。
唐突な状況に、焦りはしないがどう対処すればいいかが困る。
飲み終わったコーヒーを机に置いた。
泣いている子供をエレンはどう対応していたか。
ふと考えて思い出した。
いつも笑って、優しく頭を撫でていた。
無意識に手が伸びて、エレンの髪に触れていた。


「俺はお前を知らない。けど、記憶ってもんはそう簡単には消え去らねえよ」
「…あの、何か、覚えているんですか…?」
「さあな」
「っ、へ、ちょ…」
「…まだまだガキだな」


夢の中の少年は、いつも泣いたり笑ったりしていた。
口癖のように誰かの名前を呼びながら。
呼ばれていた誰かは、小さく笑っていた。
冷たくて寒くて残酷な世界。
光を求めない人間も。
自ら闇に落ちる人間も。
確かにそこにいた。
けれど、彼らはとても幸せそうだったんだ。


「エレン、話を聞かせろ」
「はなし、ですか…?」
「遠い昔の話だ」
「え…」
「お前は、ちゃんと覚えているんだろう」
「っ…はい…!」


聞いて思い出せるかどうかは分からない。
だが聞いてみたい。
今の自分が生きていない、辿ってきた過去を。
大事な、思い出を。







「兵長、生まれ変わったら何になりたいですか?」
「あ?なんだその質問」
「ちょっと聞きたくなっちゃって」
「知らん、なんでもいい」
「兵長、真面目に答えてくださいよ…」
「お前の側にいれたら、なんでもいい」
「…俺もです」
「エレン」
「はい」
「太陽が綺麗だ」
「…はい、そうですね」




転生パロを書いてみたいなあと思って。
企画に提出した作品。
大遅刻すみません!!

提出>>>kissを込めて様



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