今回はお互いの短編の続編を書いてみよう企画でアンラッキー6の緋色さんが我がサイトの「おでこ」の続編を書いてくれました。
大丈夫な方のみお読みください。
















あのとき教室で話したこと、涙のベールで滲んだ淡い景色、そしてザンザスがわたしの左の薬指に残した唇の感覚は一日たりとも忘れたことはない。
ザンザスと交わした約束は大人に成り行く過程で、いつだってわたしを支えていてくれた宝物だから。
誰と過ごしていても、誰に抱かれていても、わたしの心はたった一人を待ち続けていた。



―――だけど所詮、子供の約束だったんだ。
二人だけの幼くちっぽけな約束でどうにかなるほど、大人の現実は優しくないってようやく分かった。



































「……。」



“星屑を散りばめたような”という表現がぴったりの、ロマンチックな夜景に囲まれたホテルのレストラン。
向かい側の席からテーブルの上に差し出された小さな箱の中には、星屑の夜景にも劣らないまばゆさの宝石をあしらった指環が鎮座していた。
わたしが目の前のそれ見つめる向こうで、優美に柔らかく微笑むのは指環の贈り主。
いつかはこうなるって、薄々分かっていたのに…実際目の当たりにしてみると結構堪える、な…。
ザンザスの為の左の薬指が今、ザンザスじゃない別の人のものになろうとしてる。
これまでは何とかのらりくらりと回避してきたけど、今回ばかりは年貢の納めどきというやつみたいだ。

そこにいる彼のように、地位も高くて容姿も美しくて優しい人にエンゲージリングを贈られて心が痛いなんて、そう滅多にあるもんじゃないよ。
でも、どんなに痛かろうとわたしには「Yes」の他、選択肢はない。
親が会社の経営者である以上、繁栄を築く為の道具としての結婚だってあるし、今がその時なんだって事くらい弁えている。



「…ありがとうございます。嬉しい…。」



わたしは一度、瞼をぎゅっと瞑ってから最大限の笑顔を造り、礼を述べた。
まったく『嬉しい。』だなんて良く言えたものだ…と、俯瞰で見ている別の自分が嘲笑う。
テーブルの下では、この薬指をザンザス以外の誰にも捧げたくないと、右手で強く握り締めているというのに。
瞳の奥では、ちょっと気を緩めれば零れてしまいそうなくらい涙が満ちているというのに。

ザンザス、今どこにいるの。
ザンザス、逢いたいよ。

偶然そのうち逢えたとしても、今これを受け取ったら何かが終焉ってしまう気がする。


こんなに心が痛いのなら、いっそ心ごと引きちぎってしまう事が出来たらいいとすら思う。
…だけど、結局どうにもできずにテーブルに置かれた指環にゆっくりと手を伸ばした。


ただただ、此処にいないザンザスだけを想いながら。



(ごめん、ザンザス…。ごめんね……)



震える指先が冷たい指環に触れる。
この冷たさもザンザスから贈られたものだったら、もっと別な風に感じたのかな。

わたしは、今日まで口にすることのなかった「さよなら」を唇で静かに告げようとした。










その刹那――――











「え……」



身体がふわりと、一陣の風に攫われるような感覚。
一緒に運ばれてきた懐かしい香りと温もりがぎゅっと胸を締め付ける。
突然すぎて何が起きているのか、まったく分からない…分からないのに、何故だか涙が止め処なく溢れてきた。
そして、低く重厚に心の奥にまで響く声。








「…こいつは渡さねぇ。」









少し伸びた髪。男らしさを増した身体。以前よりも更に大人の色香を感じさせる声。
多少の変化はあれど、滲んだ景色の狭間に鮮明に浮かぶのはあの日、桜の花びらと混じり合っていたのと同じ紅。
ずっとずっと待ち侘びていた、たった一人―――ザンザスの紅。



「…っ…ザンザス…!!」

「…カスが。てめぇも何勝手にそんなもん受け取ろうとしてやがる。」

「ご、ごめ…ん……」



大きくて力強い掌が“そんなもん”を受け取ろうとしていたわたしの左手を包み込む。


さっきまで心まで凍るような冷たさを感じていたそこに、痛い程の温もりが広がっていった。
…ザンザスだ。紛れもなくザンザスだ。長い間、逢いたくて仕方なかった人。
それなのに勿体ない。涙で途切れ途切れにしか姿が見えないよ。



「フン…。行くぞ。」



ザンザスはわたしの目から零れる涙を親指で拭い『相変わらずだな』とでも言いたそうに一瞬フッと眉間の皺を緩めると、腕の中に捕らえていた身体を横抱きにして、その場から連れ去っていった。
指環がケースごと床に叩き付けられた音だけを残して。
































ザンザスと二人、雪崩れ込んだ先は同ホテル最上階のインペリアルスイート。ザンザスは仕事の関係で此処に滞在していたらしい。
あれから過去を懐かしむのも久々の語らいも後回しで何度も激しく愛し合ったせいで、最高級の部屋に相応しく整然とメイキングされていたベッドは見る影もないくらいシワシワに縒れてしまっている。

レストランでの一件から現在に至るまでの一連のそれは、まるで一瞬のうちに巻き起こった嵐のよう。

ザンザスが子宮に向けて吐き出した白濁の熱と身体の上に伸し掛かる愛おしい重みを感じながら、そんな風に思った。

学生時代もよくこうやって、ザンザスに連れられて授業中の教室を抜け出していたっけ。

授業中に限らず、部活中でも休み時間に友達とお喋りしてるときでもお構い無しって感じだった。
それに…わたしの処女を奪っていったときだって。
だけど、ザンザスの強引さはそれでいて何時だって心地良かった。

ずっと大切に抱えてきた過去の思い出と今がゆっくりとオーバーラップして、今まで以上の愛しさが溢れ出す。
それを噛み締めるように、先ほどからベッドの上で重ねられているザンザスの手を強く握り返した。



「もう…、本当に強引なんだから…。」

「うるせぇ。…予約だと言っただろうが。」

「…そう、だね。」

「あぁ。」





「迎えに来てやった。」






ザンザスはわたしの前髪を掻き上げると、額に一度キスをして、二つ目のキスを唇に落とす。
そして、もう離れる事のないようにと不器用にも、しっかりと固く絡められた左薬指。






変わらない、あなたの癖と薬指の約束。










切甘に挑戦しようとして、見事撃沈。
元の作品「おでこ」が素敵なだけに、ね…!
でも、他の方が書かれた作品の続編を書く機会はあまり有るものではないので(個人的には)楽しかったです。
二次創作の二次創作!

>>ぽぽさん。
今回は素敵なお話を持ちかけて頂いてありがとうございます!
また次回コラボする際に色々リベンジさせて下さい!(笑)



緋色さん>>今回は企画へのご協力ありがとうございました!おでこの二人が無事幸せになれたようでうれしいです(^ω^)
緋色さんにおでこの二人を素敵な形で完結させてもらえて鼻血ぶぼぉおです!またぜひお願いします\(^O^)/


*110731*




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