オーケストラの優雅な演奏を聴いていた。それに合わせて揺れるパステルのドレスとヒールの音が美しい。

どくどく、どくどく、と自分の心臓が脈打つのが分かる。私の心音がオーケストラの邪魔をしている。さっきまでの馨しい料理の匂いはなくて、代わりに仄かな香水の香が鼻を掠める。


「っ…ザン、ザス さ、」
「少し、黙っていろ。」
「……っ!」


息を潜めた。
予定が狂った。順序が逆だ。先に殺ってしまった、麻薬密売の方を。つまり、先にトップを殺って下に指示を送らせないようにする計画だったのに。下を先に殺ってしまったせいで上が気づいて残りの雑魚が一斉に私たちを追いかけ始めたのだ。もちろん、一般人には気づかれないように。


「もう、大丈夫そうですよ。」
「そうだな。」
「まぁ、元はと言えばザンザスさんのせいですけどね。」
「…意外と執念深いんだな。」
「それなんか違くないですか?」


私の告白?のあと任務遂行時刻となり部屋を出たが、私がトップを潰す前に密売現場をザンザスさんが発見。そこまではよかったのだが、身を潜めていたザンザスさんにパーティー会場の子供がぶつかったらしくそれにいらついて殺気がばれ、殺すしかなくなったらしい。


「ありえない…よくそれでヴァリアーのボスやってますね。」
「いつもならこんなミスはしねぇ。なまえのせいだ。」
「……そ、そうですか(いつも実戦に出ないだけじゃ)。」
「あぁ。」


…照れるな。
ここは戦場で、こんな感情を抱くべき場所じゃないのに。壁を背に並ぶ二人の手の甲がぶつかる。やけに熱い頬に冷えた刃が突き立てられる。


「…え゛?」
「…油断してたな。」
「まったくです。」


私の背後にはナイフを持った女、ザンザスさんの横には拳銃を構えた男。どちらも大したことはない。まだ熱い手の甲を唇にあてる。こうなったら、もうなるようになれ、だ。



この体温を感じ続けて

違う誰かの体温を奪う



「なんでこんなでたらめな任務に…」
「なまえのせいだ。」
「もうときめきませんよ!」






111106

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